9話
作中に出てくると思いますが、F-35は機体全体にセンサーを張り巡らせているそうで、あらゆる方向へミサイルが撃てるらしいです。
2027年7月20日深夜
中国軍が跳梁跋扈するミンダナオ島の上空では灰色の制空色と呼ばれた塗装に身を包み、濃灰色の丸の国籍識別マークを描いた飛行機が飛翔していた。
その飛行機の名はF―35CJ彗星Ⅱと言い、普段は岩国か大村の海軍飛行場に配備され、必要に応じて日本国防海軍所属の空母翔鶴に搭載されている。
因みに同機が導入された時、空軍との領分争いが発生したものの、陸軍も導入したいと公言し、陸海軍の圧力に折れた空軍は諦め半分で陸海軍の操縦士教育を行い、国防省は急いでJNDFJFWTCの開設を行い、陸海空軍の全てにF―35が行き渡った。
その為、世界的にも珍しい陸海空軍全てが戦闘機隊を要する奇抜な事態が日本で発生したのである。
閑話休題、F-35CJはダバオ奪還作戦に先立ってミンダナオ島の制空権を確保すべく空母翔鶴から出撃、同時に米原子力空母エンタープライズからも16機が同数のF/A―18E/F+2と共に出撃していたのである。
『こちらクロス2、レーダーに反応・・・・・・目標はJ-11です!!』
「よし・・・・・・クロス1より各機、準備は良いな?」
『クロス4完了!』『クロス3完了!』『クロス2完了!』
「目標捕捉、用意・・・・・・フォックス1!」
第1小隊の小隊長を務める栗本宗次大尉がそう叫ぶと彼の乗機からF-35用に開発されたAAM-4の発展改良型であるAAM-4Cが飛翔する。
続いて彼が率いる第1小隊ことクロス小隊に所属する3機のF-35からもそれぞれAAM―4Cが1発放たれる。
同時刻、中国軍定期哨戒中隊
「・・・・・・・!!大尉、ミサイルを感知しました!!」
「そうか・・・・・・良し、各機電波欺瞞用金属片の発射を用意しろ、そして一気に合間を詰めて格闘戦に持ち込め!」
定期哨戒小隊の小隊長である梁大尉がそう言うと彼の僚機は一斉にチャフをばら撒きAAM-4の照準を欺瞞しようとした。
確かにチャフの効果は絶大で、4発放ったAAM-4の内3発がチャフの雲に紛れ込んだ為に自爆、3機のJ-11は被弾を免れた。
だが次の瞬間だった、チャフの雲をすり抜けた1発のAAM-4が梁大尉の体を乗機諸共吹き飛ばしたのである。
「隊長ぅううううー!!」
副隊長の洪中尉はそう叫んだが、梁大尉及びレーダー射撃担当官とその乗機は黒炭となって海面へ落下していった。
だが、洪も悲しんでばかりはいられない、判断力を喪失したものは空戦において負ける、空戦で負ける、すなわちそれは死を意味する事になる。
「必ずや私が隊長の仇をとります!喰らえ、帝国主義者共!!」
彼がそう叫ぶとPL-21空対空誘導弾が一瞬だけレーダーに反射したクロス小隊所属機へ向けて飛翔する。
『クロス2より各機、我、敵誘導弾に捕捉される!貴官らと戦えた事を感謝する、我、クロス2番・・・・・・・』
クロス2番が撃墜された直後、クロス小隊の他の機体でもミサイル接近を知らせるアラームが鳴り響き、残った3機はチャフを放ち急激な機動を取る。
「やってくれたじゃねーか!!」
クロス3番こと速水義男中尉は視程距離にいたJ-11に格闘戦を挑んだ。
『クロス3!!このままでは敵の罠に嵌る事になりますよ!』
小隊で最も若いクロス4こと渡辺少尉が速水中尉に無線で警告した。
最も渡辺は冷静な判断力を持ち、先の日韓紛争で活躍した北見、鷲野の2人のエースと違い、勇猛さではなく技量と頭脳で飛ぶタイプである。
「知ったことか!!クロス3、フォックス2!」
速水がそう叫んだ次の瞬間、1機のJ-11が彼の乗機の真後ろにピタリと位置し、彼の乗機に狙いを定め、数秒後には警報音が操縦室で鳴り響く。
(しまった・・・・・・クロス4の言う通りだった・・・・・・)
速水がそう思った次の瞬間、警報音が鳴りやんだのである。
彼は何が起きたのか後方確認用のモニターを起動し、確認した。
そこに映っていたのはJ-11が火を噴きながら墜落する姿であり、彼は操縦室の風防を通してと上昇する僚機の姿が見えたのである。
渡辺大尉がとった戦術は一撃離脱、文字通り一撃を浴びせて一気に離脱すると言う戦術で、第二次大戦中から存在し、前も述べたがこの戦術で太平洋のエースの一人、坂井三郎は64機撃墜の記録を残し、東部戦線ではドイツの誇るエース、エーリヒ・ハルトマンが350機撃墜を記録している。
「助かったぜ、お前さんの結婚相手は俺が探してやるから安心しな!」
速水がそう言うと渡辺は呆れた口調で言い返した。
『中尉、いくらアラスカの演習でトップの成績をたたき出したとは言え、油断しているとさっきみたいになりますよ・・・・・・まったく、でも結婚相手は素直に紹介してほしいっすね!』
渡辺がそう言った直後、栗本機が空中で砕け散ったのが見えた。
「クロス3より4、クロス1が撃墜された!」
『ちっ!!クロス4了解、今度はロッテ・シュバルム戦法でいきますよ!』
「わかってる、お前に指揮を託す、隊長の仇は必ず討たせてもらう!」
栗本大尉と喜田中尉の乗機が撃墜、2人とも戦死判定がだされたものの、渡辺、速水の両名は残った3機相手に善戦、それで2機を撃墜、1機を退却させる戦果を挙げ、燃料の残量が少なく状態で翔鶴へ帰投したのである。




