ゴブリン
すみません、今回はかなり雑です。
「突然だが、今日は鬼ごっこをしたいと思う」
普通の世界ではないが、それに近い世界に帰ってきた次の日、全員集合しているときに士野が言った言葉。
天気は曇り。心の雲を晴らしてくれる青空は今日は見えない。
しかも真冬の今は、日差しがないととても寒い。
そりゃもう……寒い。
「まず、やる理由を説明しろ」
青髪の少年、和義が言う。
昨日、ガツガツと音を立てて食べてたのははっきりと脳に残っている。
朝食は全員自室で食べたようだ。
「だって〜、暇じゃん。何もしてないよ。最近。というわけで負けたら罰ゲームの鬼ごっこを始めたいと思います」
僕は机の上に顔を乗せ、黒い鈴を弄っている。小突くと、チリンと音がする。綺麗な音。
「その理由はよく分からん。そして、影夢だっけ? 鈴うるさい」
そう言って和義は青く、細い双眸僕を睨む。仕方なく、僕は鈴を小指で小突くのを止める。
それと同時に、しっかりと椅子に腰掛ける。
「えー、やだよ。理由なんていらないじゃん。千夢だって遊びたいもんねー?」
と突然のキラーパス。当然千夢はどうしたらいいのか分からなくなったようで「え」と言って黙り込む。
場の沈黙に耐えられなくなって俯く千夢だが、そこに容赦なく浴びせられるのは、青い双眸の睨み。
目から涙が滲んでくる。
ああ、やっぱり子供だなーって、人のピンチにそんなことを考える。
「ま、まあまあ。えっと……和義くんの落ち着いて」
上の名前が思い出せなかったので、下の名前で呼ぶ。
「軽々しく俺の名を呼ぶな」
再び僕を睨み付ける。
場の状況は、千夢が涙目になって俯いていて、士野がニヤニヤ笑って腕組んで座ってて、同じく和義も腕を組んで座っている。
一香は寝ている。
「じゃあ、景品ありでやるっていうのは?」
士野が出した提案に、和義は一瞬ピクリと反応する。
「僕はどっちでも。というかどうでもいい。正直に言うとさっさと決めて欲しい」
僕が何気なくそう言うと、和義は本日三度目の睨みを僕にくれた。
「あぁ、分かった。ルールを言え」
和義は手で払う仕草をした後、士野を見る。
「ルールは簡単。僕から逃げ切ることだけだよ。では、始め!」
と同時に士野は姿を消した。
瞬きもしない間に、肩にとても軽い衝撃。
「はい、全員アウトね。じゃあ罰ゲームは何にしようかー?」
士野は椅子の前足を浮かせて、器用にバランスを取る。
「ふざけんな! こんなの無理に決まってんだろうが!」
声を荒げて叫ぶが、士野はそれを軽く受け流す。
「ふむ、じゃあやっぱり罰ゲームはなし。普通の状態で、四対一で怪物と戦おう。じゃ、異世界に飛ばすね。」
「ちょっと待……」
和義が叫ぼうとした時、もう、違う場所にいた。
空は灰色。ここはどこかの町のようだった。
ただの町ではない。既に、廃墟となってしまった町だ。
建物が倒壊し、ゴミが道に散乱し、人の姿はどこにも見当たらない。
千夢は地べたに座り込んだ状態、僕と和義は立った状態、一香は寝転んだ状態でここにいる。
「寿さん、起きて」
「うー……ん。後一分……」
「じゃあ三十秒で起きなかったら、耳元で音量MAXの鈴の音色、聞かせてあげるよ」
肩をトントンと叩いて、僕が呼び掛ける。
すると一香は、そう呻いて起きようとしなかったので、三十秒経って起きなかったら本当に実行しようと思う。
「確か……化け物と戦うって言ってたよね。どこに化け物がいるんだろう」
「さあな」
立ち上がった僕の独り言のような呟きに、和義が言葉を返す。
「ここから探すとなると、面倒だな」
今度は和義が鬱陶しげに呟く。
「それじゃ、音で誘き寄せて見ようか」
そんな呟きに、僕は返事を返す。
「おい、何を……」
そして、右手に握っていた黒い鈴を鳴らす。一香の耳元で。
「動物の音」
鈴の音は、いつもの何倍も大きく、天を揺るがすような響き。
その音は、きっちり三秒で終わる。
僕はこの鈴の音もけっこう好きだが、みんなは僕を怒りを込めた目で見つめる。千夢は音で吹っ飛んでたし。
特に一香、もう顔が真っ赤になっている。
「もう! 影夢くん! なんてことするの!」
吐息のかかりそうなほど顔を近づけて彼女が言う。
顔が近いのは、起き上がった時に僕が必要以上離れなかったせいだ。でももう少し離れてほしい。視界が真っ赤な顔しか入らなくなるから。
「いや、僕言ったでしょ? 三十秒で起きなかったら、やるって」
と、爽やかな微笑を一香に送ってやる。
「…………」
残念なことに、優しい一香は、それ以上言い返せない。自分が悪いんだから。
「おい、来るぞ」
そんなことをしていられるのもここまで。和義の双眸に映った化け物は、化け物の正体は、小さな人間だった。
だが、普通の人間ではない。
服を着ていて、皮膚は緑色。右手には八十センチはある、錆びたビックナイフを持っている。
童話などでよく見る、ゴブリン、という種だった。