勇者と魔王はお隣同士~勇者の娘、下校中~
気に入ってくれたら幸いです。
明良視点です。
あたしの家の隣は魔王一家である。
ちなみに、住んでいる場所は太陽系第三惑星地球の日本という島国の端っこだ。
なんで魔王が日本に?というと、日本の家は別荘らしい。
毎日毎日、魔界の魔王城の執務室で書類に認可・不認可のサイン・印をしたり、偶に小競り合いを収めたり、いい加減ウンザリしていたところ、隣の大陸で日本から召喚された少女が遊びに来た時に
『日本はいいとこよ~』
と紹介され行きたくなり、日本語や日本の常識を教えてもらって、日本に時々息抜きに遊びに来てたらしい。現実逃避とも言う。ついでに言うと日本語を教えてくれた少女はその大陸の魔王の花嫁となったらしい。
で、魔王夫妻は日本語をマスターし、しばらくすると子どもが出来た。その時、日本の知識や技術を子どもに習得させるために、子どもを日本の学校に通わせようと決意し、子どもが学校に行ってる間は魔王夫妻は日本の家から毎日魔界に出勤しているという不思議な図が出来た。
魔王夫妻は子どもと出来るだけコミュニケーションがとりたかったらしい。
あ、そうそう家族構成は魔王夫妻と次期魔王のユージュリアス17歳と妹のランナチェスタ15歳の四人。
苗字は『中田』さん。何で『中田』になったかというと魔王夫妻はホントは日本で数の多い『田中』『鈴木』『山田』みたいなのが良かったらしい。が魔王夫妻と一緒に日本語や日本の常識を習ってた宰相や大臣達から
『その顔で?』
と総ツッコミをもらい、長~い会議の結果『中田』になったらしい。
一週間ぐらいだっけ、会議。魔界って平和だな。議題が『魔王一家の苗字』。ふふ、いい国だね。
でも、『中田』って『田中』を逆にしただけじゃん、っていうツッコミはなしね。
あたしもそう思ったけど。
うん、宰相さん達の気持ちが良く分かる。だって、魔族ってこっちのアジア圏の人たちと同じ黒髪・黒目なのに、彫りが深くて、『山田』は似合わないと思う。全国の山田さん、ごめんなさい。日本人顔ならまだしも、どうみても、ロシアかヨーロッパ系。うん、大変だなぁ、魔界も。
学校に通ってるユージュリアスとランナチェスタは勇司と蘭って日本名を名乗ってる。次期魔王なのに『勇』の字使うか、フツー。あ、魔王一家だもんね。フツーじゅないか。
あたしは普段『勇司』って呼んでる。幼馴染だしね。勇司もあたしを『明良』って呼んでる。言っとくけど名前は男みたいだけどあたしはれっきとした女だからね。
魔王夫妻が魔界に出勤した後、勇司はあたしと同じ高校に通ってるので、いつも一緒に登校・下校してる。あたしも勇司も部活はしてないよ。
なんと、勇司は学校で『王子様』なのだ。ビックリ、あ、でも合ってるのかな。魔王の息子だから『王の子』には違いないもんね。で、蘭ちゃんは『お姫様』。っていうか『女王様』中学校では男子は下僕らしい。誰も彼女には逆らわない。何でだろうね、あたしから見るとごく普通の美少女よ。
美少女の時点で普通じゃないか、性格は可愛いよ~。いつも『明良ちゃん』って綺麗なソプラノで呼んでくれるの。いいなぁ、こんな可愛い妹が欲しい。いや、妹が一人いるけど不満に思ってるわけじゃないよ。もう一人欲しいなって思っただけ。
話を戻して、勇司は学校で男女に人気がある。いつもニコニコしてて愛想がよく、敵がいない。不思議だ。モテる男は大抵同性に嫌われるんだけど、全然、そんなことない。どっちかというと男子の方に人気があるかも。しょっちゅう、昼休みとか誘われて、バスケやサッカーしたり、勉強を教えたり、頭よし・顔よし・スポーツ万能・性格よしなら、隣にいつもいるあたしは勇司の非公式ファンクラブ『王子様に尽くし隊』の女子に苛められててもおかしくないんだけど、それもない。不思議第二弾だ。
現在、隣に王子様…じゃなくて次期魔王勇司と一緒に下校中。
チラッと勇司を見ると、相変わらず美形だ。もう見慣れたけど。余計にマズイ気がする。魔王一家は美形揃いなので、ちょっとやそっとの顔じゃぁ、無反応になってしまった。
そういえば、勇司はもてるのに彼女を作らないのは何でだろ?
「ねぇ勇司、そんなにもてるのに彼女作らないの?」
「どうしたの、急に。それは無理だよ。魔界に帰って魔王になるんだから。大学卒業までこっちにいるから、それまでに必要な知識とか技術とか持って帰れるようにしないといけないから、あんまり余裕ないなぁ」
「そっか、帰っちゃうんだよね。あたし全然進路考えてないから、どうしよう」
「明良は魔界に行かないの?父さん、おじさんたちが来るのを楽しみにしてるよ。」
我が家は勇者一家である。
両親は魔王一家と同じ世界出身なのだ。
向こうの世界は二重世界で、上の部分が人間界、地下が魔界になっている。魔界にも太陽があるし、月もある。
両親は国王の命令で魔王退治に魔界に行ったけど、失敗して、帰る場所をなくした両親に魔王がこっちの世界を紹介してくれたのだ。家付きで。ホントは魔界に一緒に住もうと勧められたらしいけど、敵だと思ってやってきた両親は、切り替えがすぐ出来なかったらしい。そりゃそうだ、敵だと思ってた相手といきなり同じ場所で住んですぐ仲良くなれないだろう。理性では解ってても感情が追いつかなかったのだ。で、落ち着いて判断出来るまで、ということで日本にやってきた。魔王の隣に。さらに、日本語学校まで世話をしてくれた。
『つくづく魔族っていたせり尽くせり』
と、話を聞いたあたしは思ったものだ。
しかし、『落ち着くまで』と思ってたら、存外日本が気に入ったらしく、両親は未だに向こうに帰る気配はない。
「魔界か。そういえば考えてなかったなぁ。う~ん、魔界で生活できるかなぁ。あたし魔法使えないし、向こうは電気もガスもないし、こっちの生活に慣れちゃったしなぁ」
「大丈夫だよ、向こうは電気もガスもないけど、冷蔵庫も洗濯機もエアコンも使えるよ」
と妙に焦りながら答えた勇司に
「え、なんで向こうに家電があるの?そんでもって使えるの?」
「それがね、こっちで家電を買ったんだけど、魔界で使えないかと試行錯誤してたら、人間の商人が魔石をくれたんだ。」
「魔石って何?」
「電気の代わりに電気機器を使えるように魔力を電力に変えて魔石に蓄えられてるんだ。その魔石はその商人の手作りでもらったんだよ。で、今度は魔石をもらったはいいけど、『やっぱり異世界の科学製品を魔界に持ち込むのはまずいかなぁ』って悩んだって。で、またその商人が、
『その家電製品は貴方が正当な対価を払って買ったのだから貴方のもです。堂々と使ったらいいんです』
って言ってくれて、今じゃぁ、魔王城冷暖房完備だよ。だから、こっちとあまり変わらないよ。」
「う~でも、あたしが魔界でできる仕事ってあるのかなぁ」
「もちろんあるよ。明良にしか出来ない仕事が。向こうに行ってもいいように、料理とか裁縫とか勉強してみたら?」
やたらと力強く肯定する勇司に疑問に思いながら、
「そっか、そうだね。魔界も視野に入れて、進路を考えてみる。どっちにしろ芸は身を助けるっていうし、食うに困らないように、頑張るわ」
やる気を出したあたしに勇司はにっこ~と笑いながら
「うん、頑張って。協力するよ」
と、頼もしい一言をくれた。
その時は気づかなかった。
『明良にしか出来ない仕事』が何なのか。
後日、『隣は勇者一家』投稿予定。
次期魔王・勇司視点。しばらくお待ちください