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マリア様と花火

私はマリア。

もちろんあだ名だけど。

私は昨日、ある気持ちに気付いた。

私は幼馴染み・キリと、最近知り合った男の子・シンの二人に恋してしまったということだ。

二人を思う気持ちに違いは感じられない。二人とも同じぐらい好きなのだ。

今日は夜から花火大会だ。

私は二人にそれぞれ誘われた。

でも…キリから告白され、キリへの気持に気付いてどちらも断ってしまった。

今日は朝からどしゃ降り。結局花火大会は中止になってしまったらしい。

私は内心ホッとした。

なぜか分からないけど…。それにどちらと行ってもぎこちなくなるのは目に見えていた。

私は午前中に今日の分の宿題を終らせ、今はずっと読書をしていた。

読書は勿論楽しいからしているのだが、半分くらいは気を紛らしていた。

すると、なんだか眠たくなってきた。

そういえば、昨日はキリやシンの事を考えながら寝た。

だからなかなか寝つけなかったので、気がついたら朝…というようなカンジだった。

私はベッドにドサッと倒れ込み、そのまま寝てしまった…。

「おい、亜美!いつまて寝てるんだよ!夕飯だぞ!」

お兄ちゃんの聡留(さとる)に怒鳴られて、私は目覚めた。ゆうに3時間は寝ていた…。

「…もうご飯?」

「そうだよ。ほら、今日は母さんも居ないんだから。」

「…いっつも居ないじゃん。」

「昨日は居ただろ。ほら、早く来いよ。」

「はぁい。」

下に降りると、妹の美野里(みのり)

「もー、お姉ちゃん遅すぎ。後、寝すぎ。」

「ごめんってば…」

「また本読んでたの?よく寝不足になるまで読めるねぇ。」

美野里は信じられないという目でこっちを見る。

「あんたは読むのって雑誌ばっかじゃん。そんな人に言われたくありません。」

美野里は何か言おうとしたが、お兄ちゃんに遮られた。

「はいはい、低レベルな争いは終わり。めしにするぞ。」

お兄ちゃんは強引にテーブルへカレーの入った皿を置いた。

私たちは闘争心よりも空腹が勝り、ケンカは終わった。

「美野里、美味い?」

お兄ちゃんが美野里にちょっとハラハラした様子で聞いた。

今日の料理当番はお兄ちゃんだったからだ。

「…不味くはないけど…不思議な味が…。」

「あぁ、それは隠し味だな。」

「…何入れたの…?」

少し嫌な予感がして聞いてみた。

「いや、テレビでやっててさ…美味しいって…インスタントコーヒーをちょっと…」

「コーヒー?!コーヒー入れたのっ?」

「でもさぁ…コーヒー入れるのって結構知ってるし食べたことあるけど…こんな味だったかなぁ…」

美野里は不審そうに言った。

「それが…」

お兄ちゃんが申し訳なさそうに声を出した。

「実はコーヒー入れすぎて…何とか味を直そうと…」

「今度は何入れたのっ?!」

私は少し焦って聞いた。

「…粉末のコーヒー用ミルクを少々…」

お兄ちゃんは苦笑い。私たちは唖然。

お兄ちゃんは大学1年生でアウトドア同好会に所属している。

そのせいか、いつもお兄ちゃんが料理を作るときは予想できない事をする。

「そっか…この味はコーヒーとミルクか…」

私はどこか納得した。この不思議な味の正体が分かったら、なぜか安心した。

どうやら美野里もそうらしい。私と美野里は声を出して笑った。

お兄ちゃんは少し憤慨したように、

「なんだよ…一応食えるんだから良いじゃんか!そんなに笑うなよ…」

私は笑いを少し抑えて、

「はははは!ごめんごめん!カレーにコーヒーとミルクって発想は無かったから!」

と大爆笑して、美野里も

「お兄ちゃん、隠し味は隠さないとだめじゃんっ!」

と笑っている。

お兄ちゃんは照れ隠しに話題を変えた。

「そういえばさ、キリは元気?」

「へっ?どうしたのよ。急に…。」

いきなりキリの名前が出てきたことに驚いた。

「いや、最近会わないし、なによりアイツ、ヤバいって聞いたし…。」

「ヤバイ?それってどういうことよ?」

お兄ちゃんはキリやシンの通う高校の卒業生だ。

「いや、キリって、生徒会に反抗するグループのリーダーなんだって。」

すると、美野里も話に割り込んできた。

「生徒会に反抗?なんで?」

「まぁ…気持も分かるけどな。」

「どういうことなの?お兄ちゃん!」

「あのな、」

お兄ちゃんはやれやれと言った表情。

「星修には生徒会とそれに反抗する反生徒会に分かれてるんだ。」

「なにそれ…なんで内部分裂みたいになってるの?」

「星修の生徒会は強引なんだ。例えば普通って3回遅刻したら成績表には1欠席って付くだろ。」

「…うん。」

「星修は1欠席じゃなくて3日間の自宅謹慎なんだ。」

「なにそれ…無茶苦茶じゃん…」

私とお兄ちゃんの会話にイマイチついていけない美野里は首を傾げる。

「高校って3回遅刻したら1欠席なの?でも謹慎なら最終的に欠点にならないじゃん。」

「そう思うだろ?それがツボなんだよ。」

「どういうこと?」

美野里は怪訝そうに聞く。

「成績表に欠点はつきにくいさ。でもな、内申書だと謹慎の方が響くんだぞ。」

「そうなの?」

「だって、普通なら退学とか留年するけど、そうならないでいざ進学やら就職するときにかなり困るんだよ。」

「そっか…。でも、それって先生は何も言わないの?」

「生徒会は先生よりも明らかに優位だな。私立だから辞められたら困るしな。」

「そっか…。」

キリとシンの仲が悪い理由が分かった。

生徒会長と反生徒会リーダーなら…仲も悪いよね…。

「じゃあ、お兄ちゃんはどっちの味方だったの?」

美野里がたずねる。

「俺は生徒会。やり方は汚いけど、目付けられると怖いからな。」

「やっぱり…長いものに巻かれるんだ…。」

美野里は呆れ顔。

「そんな事言ったって…ま、しょうがないじゃん。卒業しちゃったし。」

…ということは、キリはシンと対立してて…キリはお兄ちゃんと違って戦ってる…。キリはすごいんだな…。

私は夕飯を食べたあと、部屋へ戻った。キリとシンの事を考えていた。

そのとき、窓を軽く…どこか遠慮がちに叩く音がした。

「キリ…!」

キリが少し元気の無さそうな笑みを浮かべた。

「あのさ、昨日のこと…謝りたくて…。仲直りしないか?オレ、このままギクシャクしたくないんだ。」

キリは真顔で言う。

「うん…もう良いよ。何とも思って無いし…。」

「ホントに?なら…もう昨日のことは忘てな!」

「うん。」

私達は笑いあった。

そして、キリは子どもっぽい顔で後ろに隠し持っていたあるものを取り出した。それは…

「花火…」

「ほら、ホントは今日だったけど、夕方まで降ってて中止になったろ、でも今はなんとか晴れてるし…。」

外を見ると、雲はあるが雨は止んでいる。

「…じゃあ…やろっか?花火…。」

「マジで?!うん、やろう!」

パッと明るくなるキリの顔。

「よし、んじゃあ、外行こっか。」

「よし。オレ、マッチとロウソク持ってくる!」

「うんっ!」

そうして、私たちは私のうちとキリのうちの間の辺りで花火をした。

量はそんなに多くなく、中にはしけっているのもあったけど…。

最後に余った線香花火をしながら、ふとキリを見る。

キリって…こんな顔だっけ…。かなり大人っぽくなった。手も大きい…。

「何?なんか付いてる?」

「えっ?いや、別に。」

…なぜか慌てて顔を背ける。胸がドキドキしている。顔も熱い…。

茉莉乃亜美。高校2年生。二人っきりの花火にドキドキする、雨上がりの夏の夜だった。

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