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マリア様と初恋

私は茉莉乃亜美(まりの あみ)。通称マリア。

夏休み、とあるサラリーマンの携帯を拾って届けたらその息子がお礼に来た。

そして私は…その人・三木慎弥(みき しんや)が頭から離れなくなっていた。

ただ、ひとつ気掛かりなのは、幼馴染みの霧島煉(きりしま れん )ことキリが、『アイツ嫌いだ。』と言った事。

同じ学校のようだし、なにかあったのかもしれない…。ま、私には関係ないけどね。

私の通う私立・華風(はなかぜ)女子高校は、夏休みを迎えて1週間が経った。

ちなみに、キリや慎弥君が通う私立・星修(せいしゅう)男子高校は私たちより3日早く夏休みを迎えていた。

あの携帯を拾った日からは1週間と2日…

相変わらず外はむし暑い。だからといって部屋のばかりではつまらない。

私はまた図書館へ行く事にした。この前借りた本も読んだことだし…。

駅で電車を待っていると、電話が来た。

友達のヨハネこと三好夜羽(みよし よはね)だ。(ちなみにヨハネは本名)

「はい。ヨハネ?どうしたの?」

「なんか暇で電話したの。マリアは何してるの?」

「これから図書館行くとこ。」

「相変わらずねぇ。他に予定なければ、待ち合わせして遊びに行かない?」

「あ、良いよ。何時くらい?じゃあ1時間後ぐらいでどう?私が図書館行くから。」

「了解。待ってるね。」

「行く頃にメールする。」

「はいはい。じゃあね。」

電話を切る。…相変わらずはどっちなんだか…。

ヨハネは小学生からの友達だ。

マリアとヨハネなんて聖書みたいで不思議だというキッカケで仲良くなった。

ヨハネは私と違っていて読むのは本ではなくファッション雑誌、というまさにイマドキの女子高生だった。

ま、私が珍しいだけかもしれないけど…。

そう思いながら電車に乗る。

夏休みだからか、人はまばら。でも、やはり1週間前を思い出す。

慎弥君…カッコよかったな…せめてメアドくらい聞いとくべきだったか…。

そんな事を思っていると、あっというまに着いてしまった。

駅を出ると、相変わらずジリシリと照りつける陽射し。さっさと図書館に行こう…。

私は足早に図書館へ向かった。

県立図書館の中は外とは別世界でとても涼しかった。

私はカウンターで返却手続きを済ませ、本棚を物色することにした。

今日の気分は小説。どうせなら読みごたえのありそうな分厚いのを借りるか…。

探していると、ちょうど良さそうな本があった。

ちょっと古めな感じで、ページ数も多い。これにしよう。

時計を見る。約束まで30分はある。読みながら待つか…。

そう思っていると、ふいに声をかけられた。

「もしかして、茉莉乃さん?俺だよ、慎弥。」

振り返ると、慎弥が立っていた。

「奇遇だね。本借りるの?」

こくんと頷く。

「あ、その本借りるんだ?俺、読んだことあるよ。面白かった。」

「そうなんだ。なんか楽しみ。」

「それは良かった。あ、今日は一人?」

「今はね。でも30分くらいしたら友達が来るの。」

「そうなんだ…」

慎弥君は、なぜか少し寂しそう。

「慎弥君は?一人?」

「そうだけど、本借りる以外に用は無いから。」

「そうなんだ…。」

「あのさ、」

慎弥君は少し微笑みながら、

「俺のこと、シンって呼んで。みんなそう呼んでるんだ。」

「シン?分かった。じゃあ、私のことはマリアって呼んで。」

「マリア?」

「茉莉乃亜美だから縮めてマリア。小学生の時からのあだ名なんだけど、何となく気に入ってるし、定着してるから、そう呼んで。」

「マリアか…聖書みたい。」

シンは小さく笑う。

「でしょ。私もそう思う。で、友達は本名でヨハネっていう子がいるの。」

「マリアにヨハネか。すごいね。」

「うん。改めて考えるとすごいかも。」

そう言って私はクスクス笑う。

シンもつられて笑う。

「マリアなんてあだ名、一体誰が付けたの?」

「あ、霧島煉って幼馴染み。シンは星修だよね?ソイツもなんだけど、知ってる?」

すると、シンはなぜか顔を歪めた。

「キリだろ。知ってる。そうか、幼馴染みか…」

「うん。家が隣同士で、家族ぐるみで仲いいんだ…」

するとシンはまた微笑んで、

「そうか。キリとは同じクラスなんだ。だから知ってるよ。」

「そうなの?」

キリ、そんな事一言も言わなかったし…。

すると、私の携帯のバイブが鳴る。

「シン、ちょっとごめん。携帯鳴ってる。」

ヨハネからのメールだ。

《暑くて死にそう…そろそろ行くから分かりやすい所にいて。》

分かりやすい所ねぇ…。玄関付近に行くか…。

「待ち合わせしてる友達が、そろそろ来るみたい。この本借りて玄関の辺りに行かなきゃ。」

「そっか。俺もこの本借りるし、そろそろ行くかな。」

「じゃあ、貸し出しカウンター行こうか?」

「うん。」

私たちはカウンターへ向かった。二人並んで歩いていると、まるでカップルのようだ。

…まぁ、図書館でデートってのもなかなかいないけど。

二人で本を借りて玄関に行くと、ちょうどヨハネがいた。

「あ、友達?」

シンは私に訪ねる。

「そう。例のヨハネ。」

ヨハネは私たちに近付いてくる。

「マリア、久しぶり。暑かった…この人は?誰?」

「あ、三好慎弥君。この前シンのお父さんの携帯拾って届けたら知り合いになったの。」

私はシンをヨハネに紹介する。

「三木慎弥です。じゃあ、そろそろ行くね。また今度。」

そう言うとシンは歩き出す。

「うん、またね。」

私は玄関へ歩き出すシンへ声をかける。

すると、ヨハネはびっくりしたように言う。

「マリア、三木慎弥と知り合いなの?」

「うん。だから見てたでしょ。どうして?知ってるの?ヨハネ。」

「星修の三木慎弥っていったら、1年で生徒会長やってるって有名な人じゃん!…マリアこそ、知らなかったの?」

「そうなの?知らなかった…そんなすごい人なんだ…。」

「まさか、付き合ってないわよね?」

ヨハネは疑うように尋ねる。

「まさか。1週間前に携帯のお礼で来たぐらいだよ。今日も本探してたらたまたま会ったの。」

「ならいいけど、もし彼女になったら大変よ。彼、ファン多いから…。」

「…ヨハネも?」

「う〜ん…私は少しタイプじゃないかな。にわかファンって事で。」

「そう…。」

確かにカッコいいし、普通の男の子とはちょっと違うと思ったけど…。

「そうだ、マリア、三木君のメアド聞いといてよ。」

「えっ…なんで?」

「彼、カッコいいじゃん。人気あるし、マリアの友達って言えば教えてくれるわよ。はいはい、これアドレス。」

そう言ってヨハネは私にメアドが書いてあるメモを渡す。

準備いいなぁ…。

と思いながらメモをカバンへしまう。シンに、次会えるのはいつだろう…。

「さ、結構涼んだし、そろそろ行こうか?」

「うん。」

こうして図書館を出た。

相変わらず太陽は照りつけ、セミはうるさいけど、私の心は穏やかだった。

私たちはその後、ウインドウショッピングを楽しんだ。

金欠の女子高生には衝動買いするほどの余裕は無いが、こうして友達と服や小物などを見ているのは楽しかった。

特にお互い用もなかったのだが定期があるから出掛けて、見て楽しむ。これは休日でも平日でも同じだ。

そうしていると、あっという間に時間が経っていた。

「げっ…もうこんな時間…。」

時計をみて、私は時間の経つ早さに驚く。

「ホントだ…ずいぶん経ったね…帰る?」

「そうしないとマズイわ…今日お母さん早いし。」

わたしの母は保育士をしているが、夜間保育の当番が1週間に4日あるので、早く帰る日は家族でご飯を食べる事にしている。

「そっか、お母さん早い日か…。なら帰んないとね。私はもう少し見たいとこ見るわ。」

「うん。ごめんね。また遊ぼ。」

「うん。またメールする。じゃあね。」

「バイバイ。」

わたしはヨハネと別れた。

そして駅へ少し早足で向かう。

今からなら10分後に発車する電車に間に合うかもしれない。

駅へ着いた。5分前…なんとか間に合った…。

電車へ乗り込む。さすがに今は帰りの時間帯なので、人は多い。

疲れたし、座りたかったけど…ま、15分ぐらいだからいいか…。

手すりのあるドア付近にいく。…せめて手すりにつかまろう。

すると、また聞き覚えのある声が私を呼んだ。

「あれ?もしかしてマリア?」

「シン!」

声の主はシンだった。わたしの掴む手すりの下の席に座っている。

「あれ…確かあのあと帰ったんじゃ…。」

「帰ろうとしたら、友達と会ったんだよ。それで遊んでたら今帰り。マリアも?」

「うん。なんかすごい偶然。1日に2回も会うなんて。」

「だな。」

そう言って笑うシン。すると、立っている私に気付き、

「座りなよ。」

と言って立ち上がる。わたしは遠慮がちに

「いや、悪いよ。15分ぐらいだし…。」

と言う。しかし、シンは微笑んで、

「俺は10分で着くから。」

と、わたしを座らせた。これは、かなり助かった。

「ありがとう。優しいんだね。」

とお礼を言う。

「そんな、俺の方が近いんだし、当たり前だよ。」

とあっさり言った。…当たり前…絶対キリはしないな…。

そして、私はふとヨハネとの約束を思い出した。

「あ、シン、今日ね、友達いたじゃない?」

「あぁ、例のヨハネ?」

「うん。その子がね、シンのメアド知りたいって。それで、これヨハネのメモなんだけど…。」

私はそういいながらカバンからメモを取りだし、シンに渡す。

「ふぅ〜ん、まぁ、メールしとく。でも…」

シンは言葉を濁す。

「でも?」

「俺、マリアのメアドの方が知りたいな。」

シンは真顔で言った。

…それって…。私の方が興味あるってこと?ダメだ、つい深読みしてしまう…。

「メアド?良いよ。シンのも教えてよ。」

私は普通の状態を装い、自分の携帯を取り出す。…深い意味は…ないよね?

するとシンは少し困ったように笑いながら

「うん。アド打つよ。」

と言って、私の携帯に自分のアドレスを登録しはじめた。

「家着いたらで良いからさ、メールして。」

そう言ってシンは私の携帯を返す。

「うん。ありがとう。」

私はドキドキしながら受けとる。…このドキドキが伝わりませんように。

すると、車内アナウンスが流れた。

「あ、俺、ここなんだ。じゃあ、またね。」

「うん。メールする。またね。」

シンは電車を降りた。ドアが閉まる。シンは見えなくなった。

私は携帯のアドレス帳を見た。シンは4人目の男の人のアドレスだった。

お父さんと、お兄ちゃんの聡留(さとる)と、キリの次のアドレス。

『三木慎弥』という名前を見て、胸がキュンと少し痛んだ。

…好きなんだ、私。シンの事。

結局、胸のドキドキと小さな痛みは、電車を降りるても続いていた。

茉莉乃亜美、初めて好きな人ができた高校2年生の夏休みだった。


いかがでしたか?やっと恋愛モードです。キリとの絡みがありませんでしたが…(苦笑)

感想やアドバイス、ありがとうございます。これからも頑張ります。それでは4話でまたお会いしましょう。


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