最小不幸の王子
昔とある町の中心にある広場に『最小不幸の王子』と呼ばれる像が立っていました。
どうしてそのように呼ばれるようになったかわかりませんが、その像は金箔で覆われてとても綺麗に輝いていました。
赤や黄色に色づいた木々の葉が吹き抜ける風に舞い落ちる頃、一羽のツバメが冬にむけて南へ渡る支度に勤しんでいました。
そんなツバメが王子の足元で餌になるものを啄んでいると、突然冷たい雫が頭の上にが降ってきたので上を見上げると、それは雨ではなく王子の瞳から流れているものだと気付きました。
ツバメは王子の肩まで飛んで行って尋ねました。
「王子様、王子様。何を泣いているのですか?」
「ツバメ君、あれをみてごらん。あそこの家庭は子沢山で養育費に苦しんでいるんだ。
彼等の不幸を減らしてあげたいけど、僕は像で動けないから助けてあげることは出来ない。それが悲しいんだ。
そうだ! ツバメ君。僕の金箔を剥がして彼等に渡してくれないか?」
「王子様、王子様。私は今、南に渡る準備をしているのです。早くしないとYEN高が進んで、このままでは年が越せなくなるのです。
それに同じ境遇の人達にも渡すのですか? もしそうなら、いくら王子様に金箔があっても足りませんよ。
さらに彼等に一時的に金箔を渡してどうなるのでしょう? 例え苦しくても自分の力で今の境遇を乗り越えなければ、誰かがまた助けてくれると甘えるようになるでしょう。それはかえって不幸ではないでしょうか?」
「ごちゃごちゃ言わずに持って行ってくれないか?
YEN高は注意深く見守る。
金箔なら十分にある。
不幸な市民を経済的に支援したいんだ」
多くの市民に支持されて建てられた王子は有無を言わさぬ強い口調で訴えると、ツバメは渋々王子から金箔をはがして、子だくさんの家に持って行きました。
「王子様の言うとおり金箔を渡してきました」
「見ていたよツバメ君。彼らはとても喜んでいたね」
「王子様も満足されたようですので冬支度に戻ります」
「待ってくれ、ツバメ君。あれを見てくれ。あの農家は今年作物が不作で貧しいんだ。この金箔を持って行って所得を保障してあげたいんだ」
ツバメは先ほどと同じ忠告をしましたが王子は聞き入れません。結局渋々金箔を持っていくことにしました。
「王子様の言うとおり金箔を渡してきました」
「見ていたよツバメ君。彼らはとても喜んでいたね」
「王子様も満足されたようですので冬支度に戻ります」
「待ってくれ、ツバメ君。あれを見てくれ。あの荷馬車は道路の通行料を取られて困っているんだ。通行料を無料にすることはできないだろうか?」
「王子様、あの通行料は道路が壊れた時に修復したり、管理している人たちの給料になるのです。無料にしたら今度は彼らが路頭に迷います」
「それならば金箔を彼らに渡して無料にするように伝えてはくれないか」
やはりツバメは先ほどと同じ忠告をしましたが王子は聞き入れません。結局渋々金箔を持っていくことにしました。
「王子様の言うとおり金箔を渡してきました」
「見ていたよツバメ君。彼らはとても喜んでいたね」
「王子様も満足されたようですので冬支度に戻ります」
「待ってくれ、ツバメ君。あれを見てくれ。あそこの子供たちは学校の授業料が高くて困っている。無料化してあげたいけどどうしたらいいだろうか?」
「王子様。あそこの学校は隣町の住人が通っていて、隣町の町長をあがめているのです。あそこの町はこの町の住人を誘拐しては奴隷にしているという噂ですので、無料化することはこの町にとってよくはありません」
ツバメは先ほどとは違う忠告をしましたが王子は聞き入れません。結局渋々金箔を持っていくことにしました。
「王子様の言うとおり金箔を渡してきました」
「見ていたよツバメ君。彼らはとても喜んでいたね」
「王子様、もう持っていく金箔が無くなってしまいましたがどうするのですか?」
ツバメの指摘通り、王子は金箔が無くなりみすぼらしい石像になってしまいました。
「仕方ないな。でも僕は市民の圧倒的な支持があるからね。もう一度金箔を貼ってもらうよう寄付を集めよう」
するとどうでしょう。先ほど金箔を受け取った者たちは、結局貧しい生活から抜け出すためではなく王子様を再び金箔で包むための寄付としてお金を徴収されてしまいました。
いいえ。それどころか経済的にゆとりがあったために金箔を受け取ることができなかった者たちもお金を寄付として徴収されてしまったために却って負担が大きくなったのです。
こうして王子の像は再び金箔に包まれましたが、怒った市民たちが広場に押し寄せてきました。
「ツバメ君、ツバメ君。僕は市民のために色々してあげたはずなのに、どうしてみんな怒っているのだろうか?」
王子様の問いかけに返事はありません。
市民たちは王子の首に縄をかけて横倒しにし、その金箔をそれぞれはぎ取ると家に帰ってしまいました。
後にはボロボロの石像だけが残されました。
ツバメは南の町へと向かう道中思いました。
「言わんこっちゃない。あれほど忠告したのに聞かなかったのは、自分が市民に支持されていると勘違いして傲慢になったからだろうなぁ」
この町にも冬がやってきました。市民が無事に年を越すことができたのはだれかが助けてくれるではなく、自分で努力しなければいけないことに気付いたからでしょう。