隠してきた過去~少年との出会い~
父と母が離婚したのは私がまだ幼かった頃だった。
父と会うことはまずなく、朝起きた時に月に一度見るか見ないかくらいだった。
私にとっては父とは皆そんな存在だと思っていたし、これが常識だった。
ふとリビングにある机を見てみると父への女からの手紙で溢れている。
もちろん母からの手紙ではない・・・女からの手紙。
あの頃はあの手紙が父の浮気相手からの手紙だとはちゃんとした意味で理解できてなかった。
そんな手紙があるのは日常だったし、
母も知っていたけどその手紙を捨てようとはしなかった。
母もきっと冷めきっていたのだろう。
父はいつも浮気相手の家で寝泊まりしているのに、たまに家に帰ってくる・・・
その父が帰ってくると母は不機嫌になった。
父が帰ってきた日はかならず空気が悪くなる。
そんなたまに空気が悪くなるような家庭が・・・
私の常識だった。
こんな非常識な常識が結構な年月続いた。
そして・・・
母と父が離婚した。
私は母方と一緒に暮らすことになった。
いつかはすると思っていたし、離婚について特に悲しみも持たなかったけど・・・
母と父の離婚によって私の大切のものが父方へといってしまった。
私は大切なものと離れるのが悲しくて悲しくてたまらなかった。
そんな悲しみにくれている私に母が追いうちをかけた。
「あんたは父親そっくりね。」
私は何もしていないのにいきなり母がそんなことを言い出した。
「・・・・・・・・」
私は何て答えていいか分からなかった。
「なんであんたなんか産んじゃったんだろう・・・」
お前が勝手に産んだんだろ。
とは言えないから私は母の話を無言で聞くしかなかった。
「・・・何よその目。」
きっと私は憎しみに近い目で母を見ていたのだろう。
母の怒りが増加していく・・・
「言っておくケドあんなにはもう存在価値がないのよっ!」
怒鳴るような。
叫ぶような。
そんな声が私の鼓膜を痛める。
「・・・あんたを産んだ理由を教えてあげる・・・」
理由なんてないだろう・・・
私は・・・
そんなことを思っていた。
・・・今となっては思っていたかった・・・
そんな事を考える。
母の話しでは父は私が生まれてくる前から女遊びを今ほどじゃないがやっていたらしい。
このままでは家庭が崩壊する・・・。
母はそんな事を考えた。
父が家庭に戻ってくる・・・そんな方法。
それは子供だった。
小さい頃親にペットをねだる子供はよくいるだろう・・・
父はそんな子供そっくりだった。
まぁ・・・飼うのはペットじゃなく・・・人間(私)だけど・・・
父は素晴しいほどに子供だった。
最初飼いたいと言っていた子供も一週間もすれば親に世話を押し付ける。
父もそうだった・・・
父はさっさと私というペットに飽きたのだった。
残ったのは何の役にもたたなかった子供(私)だけ・・・
私は二人を繋ぎ止める鎖でなくてはならなかった。
でも・・・鎖は脆く砕けた。
二人を繋ぎ止めておくなんてできなかった。
壊れた鎖なんて邪魔なだけ・・・
私は私に冷たく当たる母を恨んでいたが・・・
怨む心なんてなくなった。
きっと私が母の立場だったら同じことをしてしまうと思ったから・・・
「・・・なんの役にもたてない・・・役立たずでごめんなさい・・・」
そう言って私は母の前から姿を消した。
正確には伯母の家に行っただけだけど・・・
そして私はめぐりあった。
あの少年に。
耳の聞こえない・・・あの少年に。