【短編版】真の悪役令嬢ですので、婚約破棄の断罪劇も乗っ取らせていただきますわ
長編『悪女姫の仁義なき恋愛バトル――不幸な結婚を避けるため悪役令嬢しているので、イケメン腹黒皇子にだって口説き落とされてなるものですか!』の学園祭篇より、真の悪役令嬢が婚約破棄の断罪劇の現場に居合わせたときのお話をまとめたものになります。
「ベアトリス、今日をもって君との婚約を破棄する!」
突然、耳に響く衝撃的な台詞。
見ると、そこには婚約破棄を宣言する貴族風の男の姿があった。その男の傍らにはキュート系なあざと女子が寄り添っている。
彼女は男の服をぎゅっとつかみつつ、伏し目がちに男と、さきほど男に”ベアトリス”と名指しされていた令嬢を交互に見つめていた。
(なになに、このドラマチックな展開は! 一体、何の見世物なの!?)
このお話の主人公にして、目の前で展開されている断罪劇の中では脇役どころか一切登場しないはずの、一応、自他ともに認める悪役令嬢であるジュスティーヌ姫は、突如始まったドラマチックなイベントを興味津々な瞳で見守った。
とりあえず、最初は。
「君のリリィへの数々の嫌がらせ、許されるものではない!」
「お、お待ちください、ブライアン様! 嫌がらせなど、私は何もしておりません。何かの間違いでは?」
「黙れ! すでにリリィから話は全部聞いている! 君は、いつも取り巻きたちと一緒にリリィの陰口を言っているらしいじゃないか。それから、この前は……」
「ブライアンさまぁ……くすんっ」
”婚約破棄”による”悪役令嬢”の断罪イベントのシーンらしい。それをみていた生徒たちはざわつく。
(悪役令嬢の断罪ですって! 世に”悪役令嬢”として名前の知れ渡ったこのわたしの前で、そんな面白いことを始めるなんて、随分と度胸のある生徒たちね)
「これってお芝居かしら?」
ジュスティーヌ姫はたまたま近くにいたクラスメイトの公爵令息フルードに尋ねる。フルードは、絶対に芝居ではないと思ったが、姫様の言葉を否定して、彼女の機嫌を損ねたくなかったので、超適当に返事をする。
「さ、さあ? どうだろうな?」
中立都市にある魔法技術学園は、各国の紳士・淑女にとって、最高の学び舎であるとともに、超高級な結婚相談所でもあった。この学園を舞台に、今日も多くの学生たちは最高の伴侶を得るべく、日夜努力を重ねていた。
そんな学園では、花形行事の一つである学園祭が開催されていた。その学園祭も無事に幕を閉じ、これから後夜祭が行われる。生徒たちは、思い思いの服装で、会場となる大講堂のホールへと集まって来ていた。
ジュスティーヌ姫も、クラスメイト達と共に後夜祭に参加すべく、ホールへと足を踏み入れた。そこで遭遇してしまったのだ、この陳腐な婚約破棄劇に。
「昼間見たお粗末なお芝居よりはちょっとだけマシね」
フルード公爵令息に否定されなかったことや、学園祭という場であったことから、ジュスティーヌ姫はこれが芝居だと完全に信じた。
「あれと比べるのもどうかと思うけど……」
今度は別のクラスメイトにして、隣国の王子カイトが苦笑いを浮かべながら、こそっと返事をしてきた。
昼間二人で見たお遊戯以下のレベルの下らない芝居を思い出す。
この王子様は、真面目な自分と異なり、悪女だろうが何だろうが、思うがままに自由に生きている彼女に惚れ込んでいるので、その考えを頭から否定することはまずない。
そんな二人の会話を聞いた平民女子のアカネが素朴な疑問を口にする。
「というか、これ、お芝居なんですかね?」
ジュスティーヌ姫にはその一言が、相当衝撃的だったようだ。急に声を張り上げ、今始まったディベートでアカネが取った立場「否定側・お芝居じゃない説」に反論しだした。
「そんなのあり得ないわ! だって、こんなバカみたいなこと現実にする人がいるの!? だいたい、『婚約を破棄する!』っていってあの男性、片手を前に掲げたわよ。あんな”ザ・宣言”みたいな行動、演技以外の何物でもないでしょ?」
「言われてみると、かなり演技じみた動作ではあるよね……」
やっぱり、カイト王子はジュスティーヌ姫の背中を後押ししてくれた。
ちなみに、「肯定側・お芝居説」のジュスティーヌ姫の声は、ヒソヒソ声ではなかったので、周りに筒抜けだった。
「しかも、あの男性『リリィから話は全部聞いている』と言っていたわ。もし、被害者だけの話で犯人を一方的に決めつけていたら、随分と恥ずかしいわよ。だって、自分は能無しの愚か者ですって宣言しているようなものでしょ? だからこれは絶対にお芝居よ!」
再反論は受け付けないわけではないが、誰もジュスティーヌ姫の「肯定側・お芝居説」に再反論をしない。
それもそのはずだ。
会場にいて、ジュスティーヌ姫の、「お芝居説」に関する力説を耳にした人々は、一生懸命、噴き出さないようにこらえていたからだ。
そして、突然の婚約破棄劇を演じだしたブライアンとリリィは顔を真っ赤にしてその場に立ち尽くしていた。
こうして、ブライアンがリリィにいいところを見せたかったことから始まった婚約破棄&悪役令嬢の断罪劇は、いつの間にか最強の悪役令嬢・ジュスティーヌ姫様に乗っ取られつつあった。
「あらっ、お芝居が止まってしまったわ。もしかして次の台詞を忘れちゃったのかしら?」
どこまでも、目の前の断罪劇は芝居だと信じている姫様。
「そうだと思います。姫様、ぜひあのブライアン役の男性に次の台詞――ベアトリス嬢が行った非道な行為の数々がなんであるのかを教えて差し上げてください。とりあえず、悪女がしそうなことであれば何でもいいので」
いつの間にか近くにいた先輩のオリビアが、悪魔のようにジュスティーヌ姫をそそのかしてくる。
悪女による極悪非道な行いについて考えることは、ジュスティーヌ姫の専門分野であり、得意中の得意だ。
ジュスティーヌ姫はその言葉を耳にして、使命感に燃えた顔つきで「わかったわ。まかせて」と言っているかのように、オリビア先輩に向かって一度深く頷く。
そして婚約破棄劇を演じている3人の近くに行くと、男性に向かって小さな声で、でも周りにも聞こえてしまう声で”助言”を始めた。
「リリィ嬢のお茶に、砂糖と見せかけて塩を大量に入れたのではなくって?」
「えっ……」
ブライアン役の男性は、突然声をかけられて驚いたものの、おろおろしているだけで、何ら返事をしない。
(あら? この程度の意地悪では不満なのかしら。もう少し壮大な嫌がらせがお好みなのね)
「リリィ嬢の鞄に、毒蜘蛛を99匹詰め込んだのではなくって?」
「あっ……」
先ほどまで顔を赤らめていたブライアン役の男性は、今度は青ざめた顔になっている。
(あら? さすがに毒蜘蛛99匹はやりすぎかしら。ということは、もう少し無害な嫌がらせってことね)
なかなか手のかかる男だわね、ブライアンは! そう思いつつも、ジュスティーヌ姫は次なる意地悪を考案する。そう、この程度のこと、真の悪役令嬢である姫様にとっては、朝飯前なのだ。
「では、背中に『私は女神の生まれ変わりにして超美少女かつ大聖女リリィ様よ!』と書いた紙を貼られたのではなくって?」
「あ、あの……」
「はあ? これも違うというの!? では、『ブライアンに近づかないで。さもないと、あなたに今度、”幸運の手紙”を送りますわ。お覚悟なさい』と脅されたに違いないわ! そうでしょう! もう、そういうことにしなさい!」
彼女が考え、助言してあげた、尊い悪事の数々に満足しないブライアン役の男に対して、終いにジュスティーヌ姫は怒りだした。
そして、最強の悪女であるはずのジュスティーヌ姫にとって、「不幸の手紙」及び「幸運の手紙」が大魔王級の難敵であることがここで明かされた。
(だって、不幸の手紙をもらうと何人にも返信を書かないといけないのよ! 不幸を避けるために! そんなのって恐ろしすぎるわ……)
「えっと、あの、リリィはベアトリスに本を破かれたと……」
ブライアン役の男性は恐る恐るジュスティーヌ姫の問いかけに答えた。
「本? 一体何の本ですの!」
(っていうか、覚えてるんじゃないの! だったら、とっとと言いなさいよね! それとも、手紙からの連想でセリフを思い出したのかしら。だとしたら、わたし、グッジョブ!)
「はい、その、今女子生徒の中で人気の『光の聖女と聖騎士王の真実の愛』という小説だそうです」
学園で聖女候補と言われている女子もハマっていると話していた。
平民の女性が聖女となり、悪役令嬢にいじめられつつも、彼女の婚約者だった王太子に愛され、ついに結ばれるという、実にうさん臭さ満点の話なのだ。
「それは、思わず破きたくなるようなタイトルの本だわね。といっても、わたくしだったら、破くなどと生ぬるいことでは済ませませんわ。不快なものは跡形もなく燃やし尽くして、消し炭にしてしまうわ! おーっほほほほっ」
ジュスティーヌ姫様は、炎魔法を得意としていた。だから、気に入らないモノは容赦なく燃やすと決めているのだ。ちなみに、今日まで、彼女がそういう理由で燃やしたものは、特にない。
(ふっ、これぞ完璧な悪役令嬢ね! 断罪劇に登場する悪役令嬢のみみっちい悪事なんて、この真の悪女たるジュスティーヌ様には敵いはしないのよ!)
婚約破棄劇の助っ人のつもりが、いつの間にか芝居そのものを完全に乗っ取っているジュスティーヌ姫。
彼女の行いは、完全に目的も方向性もズレていた。
「ところで、あなた方」
ジュスティーヌ姫は断罪劇の登場人物であるブライアンほか3名を手に持っていた扇子で指す。
「このお芝居、あまりにも陳腐じゃなくって」
「えっ、その……」
「先ほどもお話したように、まず意地悪の内容がせせこましすぎるわ。どこに婚約者が知人の愛読書を破いたからって婚約破棄までする愚か者がいるの!」
「あの、ベアトリスは本を破いただけではなくてですね……」
ベアトリスを追及する予定だったブライアンは、逆にジュスティーヌに厳しく責め立てられ、汗だくになりながらも彼なりに必死に抗弁する。
「そう? では、他にどんな壮絶な嫌がらせを行ったのか、わたくしが納得できるように説明してみて」
なぜに、他の誰でもない、姫様を納得させないといけないのかは不明だが、とにかく学園のアイドルでもある悪女姫にそう言われたのであれば、ブライアンには姫様が納得できる説明をする道しか残されていなかった。
「あの……リリィはつい先ほどベアトリスにドレスを汚されたのです! 俺もこの目で見ました、汚れたドレスを!」
「ふーん、グレープジュースでもかけられたのかしら?」
ワインじゃなくてグレープジュースってところがなんかかわいいな、姫様、と思うギャラリーたち。自称悪役令嬢でありながらも、彼女はこのあたりのピントがズレているので、どこかかわいさが残っていて、それがまた意外と愛されているポイントなのだ。
「紅茶です! いつも冷たいベアトリス様がお茶に誘ってくれて……くすんっ……だからあたしすごく嬉しくて、でも、『平民のあなたが伯爵家のブライアン様に相応しいとでも思っているの』と言って、いきなり紅茶を……ひっく」
「姫様、私、そのようなことをしていません! 本当ですわ! 私たちの出し物の片づけついでに成り行きでお茶をしていただけなので、その場にリリィさんがいたかどうかも私は把握していません」
今度はリリィ役のあざと女子が自身の身に何が起きたのかの説明をしたかと思うと、すかさず悪女役のベアトリスが断罪から逃れるべく、それを否定した。
「紅茶? 仲がよくない同士が参加したお茶会で、紅茶をかけられるなんて設定ありきたり過ぎるわ! どうせだったらもっと心に響く悪事を働いてほしかったわ。それとも、何かしら? 紅茶にしたことでこの先あっと驚くようなサスペンス的物語が展開されるというの?」
いまだに目の前の断罪劇がお芝居だと思っているジュスティーヌ姫。さらにリリィたちに対して無茶ぶりをするジュスティーヌ姫。
「そうです! 実はリリィのドレスからは、ベアトリスが愛飲している紅茶の香りがしていたんです!」
断罪劇が再開するとともに、青くなっていたブライアンも息を吹き返し、ついでに姫様の無茶ぶりにも答えつつ、再度ベアトリスを問い詰めだした。
「ようやくそれなりの見世物っぽくなってきたじゃない! 証拠が紅茶の香りだなんてなかなか洒落た設定ね。一体紅茶の銘柄は何の設定なの?」
「えっと、それは……銘柄まではわかりませんが、バニラのような甘い香りで……」
「姫様、確かに私は普段、バニラのフレーバーティを愛飲しています。それに、学園祭の催し物が終わった後、皆でお茶をしたのは事実ですが、飲んでいたのは学園祭でお客様にお出ししたアッサムです。それはその場にいたクラスメイトに確認していただければわかるはずです」
ジュスティーヌ姫が辺りを見回すと、何人もの令嬢――ジュスティーヌ姫に言わせると脇役、あるいはエキストラたちが「その通りですわ」「確かにあの時入れた紅茶はアッサムですわ」と答えた。
「嘘だ! 彼女は自分の取り巻きに口裏合わせを頼んだに違いない! それか友人たちに隠れてリリィにお茶をかけたんだ!」
「そうなんです。皆が相手にしてくれないから、あたしが帰ろうとしたら、ベアトリスさんが追いかけてきて、それで紅茶をかけたんです!」
ブライアンは強気で、リリィも自らの主張を譲らない。
「違います! 私はそもそもリリィさんを誘っていないし、追いかけてもいません」
両者一歩も譲らない展開になった。お芝居だと思っているのに、なぜかこんなとき、大人しく展開を見守れないのが姫様である。
「あらららら、両者の主張が対立して、現状ではこれと言った証拠もないと……仕方がないわ。こうなったら……」
最強の悪女は、この断罪劇の真相を突き止める方法を思いついたようだ。
「みなさん目をつぶって。そして、噓をついている方は手をあげてわたくしにだけ知らせてちょうだい」
ギャラリーは、「姫様、それ、絶対に無駄です。二人とも手を挙げるわけがないです……」と思う。
チクタク、チクタク……。
そして静かに、時が経過する。
「……………………。とても残念ですわ。どちらも手を挙げませんでしたわ」
そりゃそうだと思うギャラリーたち。悪女なのに、人の善の心に訴えかける方法を選ぶところが姫さまらしい。
しかし、ここで諦めないのが、悪役令嬢だ。
「こうなったら、アレをやるしかないですわ」
「あ、あれとは?」
「神明裁判ですわ」
「ひ、姫様、さらりと恐ろしいことを言わないでください……」
いつの間にか近くにいた姫様の幼馴染にして、自称護衛騎士(実はまだ見習い)を務めるセドリックが声をあげる。
「だって、もう調べようがないのだから、これしかないでしょ? 熱した鉄の棒を持つのと、身体を縛り付けて水瓶に沈めるのとどちらがいいかしら? わたくしとしては前者がおすすめよ、お手軽だから」
こういう提案を平気でしてしまうところが、彼女が悪役令嬢たるゆえんだ。
「いや、全然お手軽じゃないですから!」
ベアトリスは青い顔をしていたが、それ以上にリリィの取り乱し方が激しかった。
「いやーー! そんなの無理ーー! 助けてブライアン様ぁ!」
あざと女子のリリィは、自らの危機を愛する男であるはずのブライアンへと転嫁しようとする。さすがは、あざと女子! かわいいは正義。かわいけりゃなんでも許されると思っているのだ。
「ふーむ、じゃあ、こうしましょうか? ブライアンがベアトリスとリリィの代わりに両手で熱した鉄の棒を持つの。右手のただれ方がひどかったら、ベアトリスの負け、左手だったらリリィの負けってことでどうかしら?」
「どどど、どうして、俺がっっ!」
急に訪れた大ピンチにうろたえるブライアン。
「あら、だって、そもそもあなたがまいた種じゃない、これ。二人の女性にいい顔しようとした結果ではなくって? それに、愛する人のためだったらそれくらい余裕でしょ? よっ、ブライアン、男ですわ!」
意図せず、じわじわと追い詰めていくジュスティーヌ姫様。
「いや、その、別に、お、俺は、愛するというか、ただベアトリスの嫌がらせを止めたかっただけで、その……」
「ちょうどいいところに剣があるわ。ファイアっ。はい、どうぞ」
ジュスティーヌ姫はセドリックが持っていた剣を手に取ると、刃の部分に炎の魔法をかける。そして、メラメラと燃えている剣をブライアンに向けて差し出した。
「うわあああーーー! 助けてくれーーー!!」
「ブライアン様ああ!」
ブライアンは泣きながらその場から逃げ出し、それを追ってリリィもその場を後にした。
「あらあら。ということは、この勝負はベアトリスの勝ちねっ」
ジュスティーヌ姫による勝利宣言を聞いて、ギャラリーは一斉に拍手をした。このお粗末な婚約破棄劇も迷探偵・ジュスティーヌ姫様の大活躍のおかげで、無事に大団円を迎えたのだ。
「姫様、私……。本当にありがとうございました」
極度の緊張がほぐれたせいか、ベアトリスは目にうっすらと涙を浮かべながらお礼を伝えてきた。
「お礼なんて結構よ。わたくしもエキストラとして楽しめましたわ、このお芝居を」
エキストラだなんて、そんなご謙遜を、姫様こそ、主役級の悪女でしたわと言われちゃうかもしれないと思いつつ、姫様は一応謙遜してみる。
「あのですね、姫様。非常に言いにくいのですが、これは芝居ではないかと……いや、ずっと勘違いしているのはわかっていたんですけどね、伝えるタイミングを逃したというかなんというか……」
断罪劇が大団円を迎えた後で、自称姫様の護衛騎士・セドリックが若干気まずそうに真実を明かす。
「えっ……」
ジュスティーヌ姫は完全に固まっていた。悪女らしからぬ様子で冷や汗をダラダラ流しながら。確かに、芝居に違いないとずっと思っていたが、多少違和感があったのも事実だ。だが、誰も否定しなかったではないか!
「ひ、姫様、お気になさらないでください。結果的に私が加害者ではないという形で決着してくださっていますし」
被害者であるベアトリスも必死にフォローする。ジュスティーヌ姫は、今度は滝のようにどばーっと涙を流しながら心の底から謝罪した。
「ベアトリス嬢……本当にごめんなさい……わたくし、完全におたんこなすでしたわ……明日からは真の悪役令嬢を名乗るのやめますわ……」
というか、ジュスティーヌ姫様って、なんか面白い人だとは思っていたけれども、真の悪役令嬢のつもりだったんだ、今まで……と思う外野たち。
「姫様、本当に私は大丈夫ですので。どうか明日からも真の悪役令嬢としてこの学園に君臨してくださいませ。姫様がそうあることで、この先、今日のような断罪劇を繰り広げる者はいなくなるでしょうから……」
本来慰めるべき人に逆に慰められるジュスティーヌ姫だった。
この事件の後、学園の報道機関ジャーナリズムクラブは総力を挙げて、事の真相を調査した。クラブのアイドル的存在のジュスティーヌ姫がこの時は”神明裁判”という彼女らしい形で導いた結論を、実際に数々の証拠によって補強したのだ。
まずは徹底的に、その日の彼女たちの行動に関しての証言を集めた。リリィが汚されたというドレスやお茶の成分の分析まで行った。その結果、リリィによる完全な自作自演であることが判明したのだ。
その事実を引っ提げて、ベアトリス嬢はブライアンとの婚約を解消した。多額の慰謝料を勝ち取る形で。
一方、大勢の前で醜態を晒すこととなったリリィとブライアンはその後少し付き合ってみたものの、家柄が違うので婚約はできないという”建前”であっけなく破局してしまった。
ダマした女にダマされた男。これが二人に対する評価であり、「明日は我が身かもしれない……」と肝を冷やした生徒はいても、表立って二人に同情するものは誰もいなかった。
そして、ジュスティーヌ姫が学園に在籍している間、人前で大手を振って婚約破棄の断罪劇を繰り広げようとする、ある意味で勇気のある者は、誰一人としていなかった。
めでたし、めでたし。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
真の悪役令嬢を目指す結構悪いお姫様と、彼女を落とそうと狙う腹黒イケメン皇子の恋愛合戦のお話を長編で書いています。もしよろしかったら、そちらもよろしくお願いいたします。
なお、今回は腹黒イケメン皇子は残念ながら登場していません。




