第49話:壊れた理想
第49話です。
完璧な世界を作った管理者。
だが、
彼も最初から“完璧”だったわけではない。
これは、
世界を閉じた男の過去。
そして――
壊れてしまった理想の話。
「“変化できる世界”……」
管理者が静かに繰り返す。
白い空間。
その中心で、
男は黙っていた。
「非効率です」
小さな声。
だが――
今までより弱い。
「争いを生む」
「傷つけ合う」
「失う」
まるで。
自分自身へ言い聞かせているみたいだった。
「……」
執行者は何も言わない。
俺も黙っていた。
すると――
管理者が突然、
こちらを見た。
「あなたは」
静かな声。
「人が壊れる瞬間を見たことがありますか」
空気が変わる。
「……ある」
俺は答えた。
管理者は小さく目を閉じた。
「私は、何度もある」
その瞬間。
白い空間に、
映像が浮かび上がる。
記録。
過去。
若い頃の管理者。
今よりずっと幼い。
まだ、
感情が残っていた頃。
「……これは」
教育係が呟く。
映像の中。
街が燃えていた。
人々が叫ぶ。
争い。
暴動。
略奪。
血。
「昔の世界だ」
“失敗作”が低く言う。
「管理世界が出来る前の……」
映像の中の若い管理者は、
誰かを抱えていた。
女性。
血だらけだった。
「……っ」
管理者の目が揺れる。
「私は」
静かな声。
「守れなかった」
映像の女性が、
動かなくなる。
若い管理者が叫ぶ。
泣いている。
初めて見た。
管理者の感情。
「世界は不完全だった」
男の声が震える。
「感情が争いを生み」
「自由が人を壊した」
映像が変わる。
戦争。
飢餓。
暴力。
絶望。
「だから私は」
白い空間を見渡す。
「終わらせた」
沈黙。
「苦しみを」
「争いを」
「悲しみを」
その声。
本気だった。
管理者は本当に、
世界を守ろうとしていた。
「……」
教育係が涙を浮かべる。
彼女には、
否定できなかった。
「でも」
俺は静かに言った。
管理者がこちらを見る。
「アンタ、止まったんだな」
空気が止まる。
「……何を」
「時間」
一歩前へ出る。
「世界を壊したくないから」
「変わるのが怖くなった」
管理者の目が揺れる。
「違う」
「同じだよ」
即答だった。
「失うのが怖かったんだろ」
沈黙。
長い。
「……」
管理者の拳が、
わずかに震えていた。
「私は」
低い声。
「間違っていない」
「そうかもな」
俺は否定しない。
「でも」
静かに続ける。
「苦しみ無くした代わりに、生きることも止めた」
空気が震える。
管理者の感情。
揺れている。
「人間ってさ」
少し笑う。
「痛ぇのも込みなんだよ」
教育係が目を見開く。
“失敗作”は黙って聞いている。
「悲しいから」
「嬉しいがある」
「失うから」
「大事にする」
「怖いから」
「進める」
管理者の瞳が揺れる。
完全だった目が。
「……」
執行者が静かに言う。
「感情は、欠陥ではなかった」
その言葉。
深く響いた。
「……っ」
管理者が目を閉じる。
苦しそうだった。
初めて。
本当に人間らしかった。
「私は……」
小さな声。
「間違っていたのか」
空気が静まる。
誰も答えない。
答えられない。
だが――
俺はゆっくり言った。
「間違いじゃねぇよ」
管理者が顔を上げる。
「アンタは守ろうとした」
本心だった。
「でも」
静かに笑う。
「守り方が、不器用すぎた」
その瞬間。
管理者の瞳から、
一滴だけ涙が落ちた。
完全だった世界に。
初めて、
“人間”の雫が落ちた。
読んでいただきありがとうございます。
第49話では、
管理者が“完璧な世界”を作った理由が明かされました。
それは支配欲ではなく、
“悲しみを終わらせたい”という願い。
しかしその理想は、
世界から“生きること”を奪ってしまった。
次回、
ついに世界の答えが示されます。
引き続きよろしくお願いします。




