白の階段と破片
白の階段と破片
カツン カツン カツン カツン
もうどのくらいだろう もうどのくらいかしら
僕は階段を上っている 私は階段を上っているの
白くて白くて――― 白くて白くて―――
まわりは白ばっかり。 まわりは白ばっかり。
他の色なんて何もない。 他の色なんて何もない。
在るのは階段と僕 在るのは階段と私
カツン カツン カツン カツン
甲高い音が鳴る。 甲高い音が鳴る。
ゆっくり、ゆっくり上ってく ゆっくり、ゆっくり上ってくの
何のために。 何のために。
もう忘れた。 もう忘れたわ。
いや、元々ないのかも。 いいえ、元々ないのかも。
どのくらいだろう どのくらいかしら
僕は階段を上っている。 私は階段を上っているの。
何分、何時間、何日? 何分、何時間、何日?
それ以上かもしれない。 それ以上かもしれないわ。
時間間隔がない。 時間間隔がない。
時が経っているようで、 時が経っているようで、
経っていないようにも感じる。 経っていないようにも感じる。
ついでに飢えも疲労もない。 ついでに飢えも疲労もない。
階段は白、壁は白 階段は白、壁は白
でも、本当に壁なんてあるのかな。 でも、本当に壁なんてあるのかしら。
在るのかないのかわからない。 在るのかないのかわからないわ。
カツン カツン カツン カツン
本当に在るのかな。 本当に在るのかしら。
僕は本当に在るのかな――― 私は本当に在るのかしら―――
カツン カツン カツン カツン
見えるのは白 見えるのは白
階段も白、壁も白、そして僕も――― 階段も白、壁も白、そして私も―――
どのくらいだろう どのくらいかしら
どのくらいの時間が経ったのだろう。 どのくらいの時間が経ったのかしら。
僕はいつからこうしていたんだろう。 私はいつからこうしていたのかしら。
カツン カツン カツン カツン
どのくらいだろう どのくらいかしら
気付いたときにはもう上っていた。 気付いたときにはもう上っていたの。
何をするでもなく、 何をするでもなく、
こうやってずっと、 こうやってずっと、
ずっと――― ずっと―――
階段を上っていた。 階段を上っていたの。
先には何があるのだろう。 先には何があるのかしら。
なぜ僕は上るのだろう。 なぜ私は上るのかしら。
僕を突き動かすのは何だろう。 私を突き動かすのは何かしら。
この先には何があるのだろう。 この先には何があるのかしら。
カツン カツン カツン カツン
いつまでこんなころを続けるのか いつまでこんなことを続けるの
一生ここから出られないのか 一生ここから出られないの
でも何故か、本心で、強く、 でも何故か、本心で、強く
心の底から、ここを出たいと、 心の底から、ここを出たいと、
思えない 思えない。
ひときわ眩しい白が ひときわ眩しい白が
階段の先に現れる 階段の先に現れる
でも、僕は焦らない でも、私は焦らない
ゆっくりゆっくり歩く ゆっくりゆっくり歩く
ゆっくり過ぎるぐらいに ゆっくり過ぎるぐらいに
ゆっくりゆっくり歩く ゆっくりゆっくり歩く
心は好奇心と不安でいっぱいだ。 心は好奇心と不安でいっぱいだ。
心は焦るが歩みはゆっくり。 心は焦るが歩みはゆっくり。
階段を上りきったところには 階段を上りきったところには
中途半端に開いた扉 中途半端に開いた扉
眩い光が差し込んで 眩い光が差し込んで
眼が眩むのと緊張が最高点に着てるのと 眼が眩むのと緊張が最高点に着てるのと
心臓がドキドキバクバク 心臓がドキドキバクバク
高鳴りはひどくなる一方 高鳴りはひどくなる一方
手を伸ばす。ゆっくりゆっくり。 手を伸ばす。ゆっくりゆっくり。
どくどくと血が流れてるのがわかる どくどくと血が流れてるのがわかる
それでいて、第三者のように考える自分 それでいて、第三者のように考える自分
知ってる。この先にあるのを知ってる。 知ってる。この先にあるのを知ってる。
ああ、この後にあるのは――― ああ、この後にあるのは―――
扉を開いた先にあったのは 扉を開いた先にあったのは
光と鏡。そして自分の姿。 光と鏡。そして自分の姿。
でも、鏡に映る僕は僕じゃない。 でも、鏡に映る私は私じゃない。
ガラス張りの部屋の中心 ガラス張りの部屋の中心
鏡に手を伸ばす 鏡に手を伸ばす
触れたその鏡は、不思議な感覚で 触れたその鏡は、不思議な感覚で
自分の現在の姿を見る 自分の現在の姿を見る
自分の目で確かめる 自分の目で確かめる
なんだ、僕死ぬのか。 なんだ私死ぬんだ。
僕の左半身は何処にもない 私の右半身は何処にもない
此処にあがって来るまで 此処にあがって来るまで
生きてられたのが不思議。 生きてられたのが不思議。
だって、左は全部ないんだ。 だって、右は全部ないのよ。
どうやって歩いてきたんだっけ。 どうやって歩いてきたのかしら。
鏡に映った姿は僕じゃない。 鏡に映った姿は私じゃない。
この鏡の向こう側にいる彼女 この鏡の向こう側にいる彼方
彼女は右半分がない。 彼方は左半分がない。
だって、僕と彼女は一緒だから。 だって、私と彼方は一緒だから。
僕と彼女で一つの作品。 私と彼方でひとつの作品。
自分ひとりでは失敗作 自分ひとりでは失敗作
それに気付いたからやっぱり それに気付いたからやっぱり
僕らは失敗作。がらくた。 私たちは失敗作。がらくた。
もうちょっとで完成だったのにな。 もうちょっとで完成だったのにな。
もうちょっとで。 もうちょっとで。
もうちょっとで一つになれたのに。 もうちょっとで一つになれたのに。
また失敗か。後どのくらいあるんだろう また失敗か。後どのくらいあるんだろう
あとどのくらいで彼女に届くのだろう あとどのくらいで彼方に届くのだろう
ああ、一つになりたい。 ああ、一つになりたい。
彼女と、一つになりたい。 彼方と、一つになりたい。
いつになったら、完全になれる? いつになったら、完全になれる?
僕たちは二人で一つ。 私たちは二人で一つ。
それぞれが、自分の意思で それぞれが、自分の意思で
一つに、完全になることを 一つに、完全になることを
心から望んでいる。 心から望んでいる。
―――また失敗か。もう次は無いぞ。コレで終わりだ。
―――この実験も、コレで潰えたのね。ようやく肩の荷が下りたわ。
―――そもそも、こんなイカレタ実験、もうとっくに、意味の無いものなのに。だって、製作者はすでに……
そんな声が、どこかで聞こえた気がした。