第11話:『北の大地と、黄金の収穫(セカンド・シーズン)』
第11話:『北の大地と、黄金の収穫』
旭川の冬は、卒業しても相変わらず容赦がなかった。
二十歳になった拓海は、市内にある大規模農業法人「大雪ファーム」の若手ホープとして働いていた。
高校時代の「ゆるゆる」とした空気は、プロの現場では通用しない。
朝5時。氷点下25度の極寒の中、拓海は凍りついたトラクターのエンジンをかけることから一日を始める。
「佐藤! 3番ハウスの温度が上がらねえ! センサーが凍ってやがる、手動でボイラー回せ!」
先輩職員の怒号が飛ぶ。
「了解です!」
拓海は迷わず雪の中に飛び込む。高校時代、一条との対決で学んだ「ハイテクと手のひらの融合」が今、実戦で試されていた。ボイラーの震え、排気ガスの色。五感を研ぎ澄ませて機械と対話する。
ふと見上げた空には、あの頃と変わらない、燃えるような大雪山の夜明けがあった。
ある土曜日の夜。拓海たちは、旭川駅前の居酒屋に集まっていた。
かつての「ゆるふわ4人組」も、今やそれぞれの道で戦う大人だ。
源: 実家の農場を継ぎ、美瑛で「ブランドポテト」の立ち上げに奔走中。日焼けはさらに濃くなり、手は岩のように固くなっている。
ちひろ: 町の獣医師助手として働きながら、夜は酪農の勉強を続けている。ハナが産んだ仔牛は、今では立派な成牛になったという。
一条: 国立大学の農学部で、AIを活用した「超・省力化農業」の研究者候補。相変わらず眼鏡は光っているが、休日は源の畑を手伝いに行くほど現場主義になっている。
「なあ拓海、そろそろ『自分だけの何か』を作ってみたくねえか?」
源が、ジョッキをテーブルに叩きつけて言った。
「農業法人の下っ端で終わるお前じゃねえだろ。俺たちの世代で、この旭川の農業をひっくり返そうぜ」
拓海には、秘めた野望があった。
それは、高校時代に愛した「サチコ」のような豚たちが、最高に幸せに育ち、そしてその命を最高に美味しく届けるための**「体験型養豚レストラン」**の設立だ。
「……僕、独立しようと思う」
拓海が静かに言うと、居酒屋のテーブルが静まり返った。
「法人の社長には話した。休耕地を借りて、まずは一頭から始める。一条、お前のデータ管理と、源の野菜、そしてちひろの健康管理を貸してくれないか」
一条が不敵に笑う。
「……面白そうだ。僕の理論の実験場としては、最高に泥臭い場所だね」
「当たり前だべさ! 最高のジャガイモ、格安で卸してやるよ」
ちひろも優しく頷いた。
かつて、進学校の受験に失敗し、逃げるように農業高校へ入った拓海。
当時の自分が見たら、今の泥だらけで、借金を背負ってまで豚を育てようとする自分を「負け組」だと笑うだろうか。
いや、違う。
今の拓海には、コンクリートのジャングルでは決して得られなかった「確信」がある。
命は繋がり、土は嘘をつかない。
挫折という肥料があったからこそ、今、自分の足元には強固な根が張っている。
「よし、乾杯だ。俺たちの、本当の『収穫祭』のために!」
平成の空に、四人の笑い声が響く。
佐藤拓海、20歳。
ゆるふわだった物語は、いつの間にか、大地を揺らす壮大な「挑戦の物語」へと変貌を遂げようとしていた。




