理性崩壊
「仮初の恋人ごっこだったはずが、騎士様の理性が崩壊しましたわ。」
「イザベル、俺にどうしろって言うんだ。」
アラン・ベルナーは、ソファに腰かけたまま、イザベル・フォン・ロズリンを見上げた。
仮の恋人という設定で一緒にいるはずの彼女が、今、完全に俺の膝の上に座っている。
彼女は笑みを浮かべ、甘く囁いた。
「仮の恋人って言っても触れるのは禁止、なんて契約してないでしょう?」
ぐっと顔を近づけられ、アランの鼓動がドクンと高鳴る。
彼は眉をひそめたまま、ぎこちなく背筋を正した。
「その理屈はずるい。――それに、俺は真面目なんだ。」
「うん、知ってる。真面目な人が、ぐずぐずに崩れていくの、好きなのよ。」
「ちょ、ちょっと待て。」
イザベルの指が、彼のシャツのボタンにかかる。
ひとつ、ふたつ――じわじわと外されるたび、アランの喉が詰まる。
「おい。やめろ。ほんとに、理性が持たない。」
「仮の恋人に手を出すのは、不名誉かしら?」
「いや名誉とかじゃなくて、そもそもこれは任務でって、ああっもう!」
アランは頭を抱えた。
しかし、イザベルは気にも留めず、彼の首筋に唇を押し当てる。
やわらかな吐息がかかり、背中がぞくりと震える。
「ねえ、アラン。騎士の忠誠って任務だけに捧げるものかしら?」
「健全な若者である俺に耐えろって言うのがそもそも無理なんだ。」
ついにアランが彼女の腰をがしっと抱え込む。
イザベルは満足げにくすくすと笑った。
「ふふっ。落ちたわね。」
「落としたのはそっちだろう。」
彼女の笑顔と香りに完全に抗えなくなり、アランの唇が彼女の鎖骨に降りる。
熱のこもった口づけに、イザベルはくすぐったそうに身じろいだ。
「あら、結構大胆ね。お坊ちゃんのくせに。」
「もう黙ってくれ。こっちは初めてなんだ。」
「ふふ、可愛い。」
官能と羞恥と、地獄のような自爆混じりの熱愛劇。
でも、触れ合うたび、唇が重なるたびに――
仮のはずの関係が、どんどん本気になっていく。
ベッドへ倒れこみ乱れた髪の下で彼女が囁く。
「私、仮のつもりなんて最初から無かったわよ。」
彼女の視線に、アランは完全に焼き尽くされた。
「任務のはずが、完全に俺の負けだ。」
「はい、勝者:イザベル・フォン・ロズリン。景品は、アラン・ベルナーですわね。」
「殿下には絶対あとで責任取ってもらう。」