第89話 後日談編 悪女アルジェンヌ王妃に怒りが沸くジュリアス様……
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今日は執務室で暫く仕事した後は、前もってリコネルから「シャルティエとドグの様子をみてきてくださる?」と言われた為、本日はドナルン王国のラディアス王と共に、中庭で子供達と談笑する事になりました。
たまには我が子と、そして将来の宰相であるドグと会話するというのも大事でしょうし、何より他国の王であるラディアス王と話をする……と言うのも、2人にはいい刺激になるでしょう。
「初めまして、アルファルト王国が第一王子、シャルティエと申します」
「これはご丁寧に。ドナルン王国が国王であるラディアスと申します」
「こちらは私を将来支えてくださる宰相となるドグです。お見知りおきを」
「これはご丁寧に……。ドグ、是非シャルティエ王子を支えてあげてくださいね」
「お言葉、心に刻み、誠心誠意努めさせていただきます」
頭を下げてそう告げたドグに私も微笑み、近くのガゼボで会話を楽しむことになりました。シャルティエはまだ幼いですし、そう長くは会話は出来ませんが、国の事を愛する息子は他国の事にも興味津々の様です。
色々と質問したのち、シャルティエの勉強の時間が来てしまい2人は去って行きましたが、ラディアス王は眩しそうな表情をしながら紅茶を一口飲まれました。
「聡明な王子ですね」
「そう言って頂けると嬉しいですね」
「私と王妃の間に子は設けるつもりはありませんが、いずれは……と思います」
「ええ、その為に今、動いているのですから」
悪妻アルジェンヌ王妃。
侯爵家の娘でもあり自由奔放我儘放題。
散財も相当なもので、国家予算にまで手を付けようとした悪女。
その上、他の男性と深い仲になっている上に国王を見下すという有様。
でも、そのやりたい放題のアルジェンヌ王妃も、こちらに来てからは随分とクリスタルによって追い詰められているという情報も貰っています。
強い酒を出して二日酔いにさせるなど、動けなくすることも多かったとか。
今日は城や庭を散策すると言っていたので、遭遇する事もあるでしょうが、私の目の前で何かやらかせば、離婚には更に一歩進めるんですがね。
「ジュリアス国王陛下のお陰で、もう後は離縁への書類は提出するのみとなっていますが、これも全てアルフォルト王国に来たおかげ……と言う、なんとも一国の王として恥ずかしい限りです」
「何を仰います。ずっと悩んでおられたのですから、私がした事は背中を押してあげた程度にすぎません」
「ジュリアス国王……」
「幸せは誰にでも平等であるべきです。国王もまた、その一人だと思いますよ」
そう会話をした時でした。
リコネルの姿をして男装しているクリスタルが、悪趣味なドレスを着たアルジェンヌ王妃を連れてガゼボまでやってきました。
あからさまに嫌な顔をされましたが、私は笑顔で接します。
「これはクリスタルとアルジェンヌ王妃。奇遇ですね」
「うむ、アルジェンヌ王妃が外に出たいと申し出てな」
「ずっと部屋の中ではつまらないもの。気晴らしは必要ですわ!」
「それもそうですね。私達も先ほどまで我が国の王子とその宰相となる者と楽しく談笑していたのですよ」
「王子……いらっしゃったのね」
「こらアルジェンヌ……。ジュリアス国王陛下とリコネル王妃の間には、聡明な王子がいらっしゃるとここに来る前に教えたでしょう」
「そうだったかしら?」
「他国の情報にも疎いと見える」
「疎いだなんて……」
クリスタルの一言にアルジェンヌ王妃は顔色を青くして「た、確かに覚えていなかっただけですわ!」と言っていますが……果たして。
「そもそも、王妃であるリコネル様が、あたくしの相手をしないのも問題ありましてよ!」
『体調が優れないからこそ、我が相手してやっておるだろう? 有難く思って欲しいモノじゃな』
「体調が優れないと言ってずっと会えないのは可笑しいですわ‼」
『お主も二日酔い状態で他人と会うのは辛いじゃろう?』
「それは」
『リコネルは悪阻が重くて休んでおるんじゃ。お主と会えば悪化する』
「リコネル王妃は……そう言う事でしたのね」
「ええ、現在安静にして貰っている所ですよ」
「あたくしと会っても安静にしていればよいではありませんか!」
「アルジェンヌ‼」
『他人の苦しみも分からぬ王妃では、離縁するのが得策じゃのう』
そうクリスタルが言えばアルジェンヌ王妃は顔色を青くして「あたくし間違ってませんわ!」と言っていますが、私達集まっている面々はそうではありません。
とても冷めた目で彼女を見ていたのです。
「だって……だって、でも、あたくしは一国の王妃だから……優遇される筈で」
「はぁ……。優遇される筈ないだろう。女児か男児かは分からないにしても、一国の王の血を引く子を授かっているのだぞ。そちらを優先するのは当たり前だろう」
「そ、そんな」
「そんな事も分からない者を妻にしているのが恥ずかしいくらいだ」
「な……っ」
ラディアス王にそこまで言われたアルジェンヌ王妃は、顔を真っ赤にして「でも、だって……」を繰り返すのみ。
私とクリスタルが大きく溜息を吐くと、ビクリとして俯き、最早声すらありません。
「リコネルに会わせなくて正解だと思いました。王妃はアルジェンヌ王妃と会った方がいいのではと言っていたのですが……皆で止めたのですよ」
「それが正解かと思います。妊婦に酒を呑ませようとするかもしれませんからね」
「それは恐ろしい」
「え? 妊婦は酒が吞めませんの?」
「「常識すらないのか」」
私とラディアス王が思わず強い口調で言うと、アルジェンヌ王妃は顔色を真っ青にして口を押えていましたが、本当にリコネルと会わせなくて良かったと思いました。
「ラディアス王、後は食事をしてから視察に行きましょうか」
「ええ、色々とまだまだ学ぶことがとても多いですからね。どうぞ、御教授願います」
「いえいえ、貴方の国が、より良い未来に行く為ですからね」
「はい!」
『その為には、要らぬ者は捨てねばな?』
「そうですね」
「あ……あ……っ」
「では失礼しますね」
こうして私たちは言葉をかけようにも掛けられないアルジェンヌ王妃に挨拶もせず横を過ぎ去り、2人食事をしてから視察を楽しみました。
その頃アルジェンヌ王妃がどうなっていたのかは存じ上げませんが、それから2日程体調不良だと言って部屋に閉じこもっていたようだとクリスタルから連絡を受けました。
精神的なものか。
はたまた自己中心的な考えを頭に巡らせているだけか。
それは、本人のみぞが知る事ですね。




