第82話 後日談編 クリスタル同士であった約束とは……
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――クリスタルside――
シャルダン王国が亡くなったことは、母なるクリスタル達による同意の元であった。
とてもではないが、国として破綻しておったのじゃ。
男尊女卑は激しく、女性は虐げられ、子も虐げられる。
男児が生まれれば喜ばれ、女児が生まれると出産後であっても殴る蹴るは当たり前。
その様な国民を守る事も、最早クリスタルに出来ようか?
否、出来はしまい。
我とて出来ぬわ。
ましてや次なる王太子を選んだのは――シャルダン王国のクリスタルは王家とは血の繋がっておらぬドグを選んだ。
ドグならば国を変えられたかと言うと、そうでもないのだ。
確かに時間をかければ男尊女卑に凝り固まったシャルダン王国を徐々に戻せたかもしれんが、ドグが生きている間では到底無理であっただろう。
ならば、何故ドグを次の王太子に見据えたのか。
偏に、ドグの心根がとても優しかったことにある。
他の王族が幼い妹達を蹴り飛ばしたり殴ったりする中、ドグは身を挺して幼い妹達を守っておった。
「貴様! それでも誇り高きシャルダン王国の者か!」
「例え誇り高きシャルダン王国の者だとしても、血の繋がった弟妹を守る事もまた、勤めで御座いましょう!?」
そう言って幼い弟妹を守っていたドグに、幼い弟妹達は懐いておった。
精神を守って貰ったことも、一度や二度ではない。
「価値のない奴らめ」等とあの王太子に言われても、ドグは弟妹に寄り添った。
そして何より、暇が出来れば母親と共にクリスタルのある部屋の前で祈りを捧げた。
祈りの内容は様々じゃが、よりこの国が良い方に動くように、幼い弟妹が此れ以上苦しまぬように、嫁いだ姉たちの幸せを願っておった。
――ドグは家族思いじゃったのじゃ。
それは本来、王太子である兄にこそ必要なものであったが、それは到底無理な話。
率先して弟達を殺していき、妹たちを褒賞として投げ売りのようにしてきた王太子にとって、まだいる弟妹達は邪魔でしかなかったのだ。
だからこそ、ドグが奴隷として我が国に来た際、弟妹達を真っ先に保護しようと動いた。
――あれは天晴であった!
だからこそ一国の王に相応しいと思ったのじゃが、国民も腐っていれば王族も腐っておる中で、ドグが苦労するのは見えておった。
故に、シャルダン王国にあったクリスタルはドグの姿を借り、国民を、王族を罰したのである。
姉たちくらいは助けてやっても良かったのではないか――と思うじゃろうが、最早人として生きて行けるだけの精神が残っておらんかったのだ。
生きる屍とかした姉たちを救う事は最早不可能であった。
故に、クリスタルは涙を流しながらドグの姉君たちに引導を渡しのたのだ。
彼女たちは泣きながら微笑み「ドグ、助けてくれてありがとう」と言って死んでいった……。
想像を絶する生活であったのだろう。
皆痩せこけ、生きておるのが不思議な程であった。
王族であっても、女性と言うだけでこの待遇――。
シャルダン王国を残すことは、クリスタルの中で無くなるのは道理であった。
クリスタルは国が無くなれば大元の母なるクリスタルに戻るだけじゃが、ほんの僅かな時間、シャルダン王国にいたクリスタルと会話をする時間があった。
『長きに渡る苦痛からの解放であったな』
『うむ、これから先、ドグが苦しむ事も……無いと思いたいが……。他国がシャルダン王国の血が残っている事を良しとするかどうかが問題だな』
『なに、その時は我もドグやその弟妹を守るように頑張るとしよう。それに、他国のクリスタルも場合に寄っては苦言してくれようぞ』
『そう願うことしか出来ぬことが歯痒い……。どうか、ドグ達に明るい未来が訪れる事を祈るばかりだ』
『後の事は、我を通してドグ達の未来を見ていくがいい……お主は疲れたのだ、少し休むがいい』
そう言うと、ドグの姿をしたクリスタルは悲し気に微笑み、母なるクリスタルに溶けて行ったのじゃった。
結果として――ジュリアスとリコネルが後見人となりシャルダン王国民であった彼らはアルファルト王国民となり、今後の未来を生きていくことが決まりホッと安堵したのは言う迄も無いが、最も安堵したのは――シャルダン王国のクリスタルであったかの者であろう。
『ドグよ、これから先の人生はこのアルファルト王国と共にあるが、異論等一切ないな?』
「はい。わたしはこのアルファルト王国民として弟妹達と生活し、これから先の人生を歩み、そして、この国を支えていく所存です」
『宜しい。我もそなた達を新たに受け入れよう』
――こうして、アルフォルト王国のクリスタルとして、我はドグや弟妹達を新たに受け入れる事が出来た。
それと同時に、守らねばならぬ民であると再確認し、尚且つ――シャルダン王国のクリスタルから託された子供達であると、改めて感じる事が出来たのじゃった――。




