第75話 後日談編 シャルダン王国の王太子殿下は浅はかですわね?②
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第一子で生まれたからと言う理由だけで王太子となった彼の事は、クリスタルから色々と聞いております。
ドグは14王子だと紹介されましたが、それまでの兄弟たちはどうなったのか、クリスタルから聞いて居るのです。
第一王子であり王太子である彼は、ドグまでの間にいた王子たちを毒殺。
王女たちは皆家臣に無理やり褒美として嫁がせ、排除しました。
シャルダン王国のクリスタルは、何度も王に『次の国王たるは、ドグである』と伝えたらしいが……国王は第一子の王太子可愛さにクリスタルの言葉を聞かなかったそうなのです。
確かに第一子は可愛いでしょう。
私だってシャルティエが可愛い。
ですが、クリスタルが『次期国王はドグである』と告げているのに、ずっと無視をし続けた国王と、好き勝手弟妹を殺したり褒賞と称して嫁がせた彼の罪はとても重かった。
ドグ以下の子供たちをシャルダン王国のクリスタルは守る事にし、それでも幼い弟妹は何とかなっても、年ごろの妹達は褒章にやられ助ける事が出来なかったことも……クリスタルの共有情報から聞いたことです。
今我が国に来ているドグの弟妹はと言うと、上は10歳、下は4歳までの子供が来ています。
その彼らを保護できただけでも大分違うでしょう。
そして、王太子のしでかした罪は弟妹達だけに留まりません。
父王にまで及ぶのです。
父王が寝酒に飲んでいる酒に、子種が出来なくする薬を混ぜてこれ以上、子が出来ぬようにしたのです。
此れにはまだシャルダン国王は気づいていないようですが、そう遠くない未来に知ることになるでしょう。
それらも踏まえて――実はリコネルとドグは知っているのです。
今目の前に不機嫌を丸出しにしている王太子の罪の重さを。
「王太子殿下に起きましても、変わらぬ様子で安心致しました」
「フン」
「あらあら? 弟に会いに来た……と言う様子ではありませんわね?」
『ほんにのう? 感動的な対面の筈なんじゃがのう?』
そうリコネルとクリスタルに言われ、ハッとした様子で顔を引き攣らせながら、自分よりも大きく成長し、王たる資格あるオーラを放つ弟相手に、王太子が出来る事など限られておりますね。
「ドグよ。随分と見ていない間に立派になったな」
「恐れ入ります。これもアルフォルト国王陛下及び王妃様、そして、クリスタル様のお力あってこそ。奴隷の身分になることなく、学ぶ機会を与えて貰い感謝しております」
「そ、そうか」
「特に最近は水路関連の書物を読むことが多く、シャルダン王国には戻れないでしょうが、王に水路関連で水不足を出来るだけ解消できるように手紙を書く所存です。国民が喉の渇きに悩まされる現状を、俺も弟妹達も憂いております。無論、王太子殿下におきましてもそうでしょうが」
「く……そ、そうだな」
「災害後、王太子殿下もさぞや視察や王太子としての仕事に忙しかったことでしょう。民はどのように過ごしていますか? 父王も視察に忙しいとクリスタル様からお聞きしております」
「ええい。これより先は出来るだけ二人きりの時に話そう。ここでは――その、人の目がな?」
おやおや、逃げるおつもりのようですね。
ですが、そう簡単には行きませんよ?
「まぁ、確かに兄弟で語り合いたいこともあるでしょうけど」
『ドグと王太子を2人にする事は不可能じゃな』
「人の目が何だと言うのです? 流石に王太子です。視察の話など山のように持っていると思うのですが? 違うのですか? では、あの災害が起きてから王太子殿下は一体何をしておられたんです?」
「う、煩い! 俺は……その……忙しかったんだ! その、なんだ、色々と!」
「はぁ……? 自分を優先して、国民を蔑ろにしたと……そう仰りたいんですか?」
ドグの底冷えしそうな程の冷たい声に、シャルダン王国の王太子は言葉を詰まらせ、目を逸らして下を向かれました。
これではどちらが王太子か分かりませんね。
『これは傑作じゃのう? 国民の為にと勉学に励みあらゆる専門書を読んで父王に民が水の奪い合いをせぬでよい様にと他国で頑張る弟と……自己本位で民を見もせず、いや、民を無視して……もしや、水を奪い合う民を淘汰する気だったか?』
「まぁ、何て恐ろしい事を仰るんです!? そのような者を他国は王太子とは認めませんことよ!? 無論、我がアルフォルト王国も彼を王太子とは認めないと書状を送る事でしょうね」
「なっ!?」
「だってそうでしょう? 民を淘汰する気でいたのでしたら……許されない行為ですもの。そんな者を王太子に沿える国に支援等一切今後はしないでしょうね。王太子を交代させるまでは」
「おおおおお……王太子を交代だと!? ふざけるのもいい加減にしろ! 女の分際で図が高い!」
「王太子殿下! 何を仰るんです! 直ぐに謝罪を! リコネル王妃様は我が国に一年の食糧支援をして下さっているアルフォルト王国の大事な唯一の王妃様ですよ!」
「ええい! 女如きがギャーギャーと俺に指図するのが悪いのだ!」
「ごほんっ!」
収集憑かなくなる前に、私がわざとらしく咳払いをすると顔面蒼白のシャルダン王太子がいましたが、私は厳しい表情で彼を睨みつけます。
そして――。
「シャルダン王太子よ。王妃に謝罪を」
「なっ!」
「私が心から愛し、敬い、尊ぶのは王妃であるリコネルです。その愛する妻に対する暴言、許し難し!」
「ヒッ!」
そう叫ぶとシャルダン王太子と部下たちは深々と頭を下げましたが、ドグもまた頭を下げそうになったので、それについては手で指示を出して止めました。
彼に非はないのですから。
「随分と勝手な王太子のようですね……。シャルダン国王には私からも書状を送っておきましょう。暫く滞在は仕方なく許しますが……早々に帰って頂く事になりそうです」
「もももも、申し訳ありませ……」
「それは、リコネル王妃様に対する謝罪でしょうか? それとも私に対する謝罪でしょうか?」
「~~!」
そう私が問いかければ返事はない。
やはり女性を下に見ている、男尊女卑が根強いのだと理解しました。
「リコネル王妃様。我が国の王太子が誠に申し訳ありません。恥じると同時に、情けなく思います」
「まぁ、ドグが謝罪する事はなくてよ? 問題があるのはそちらの……王太子から外れるかもしれない男の方ですから」
『うむ、それは言えておるな。――誰ぞ! この者達を部屋に案内しておけ。それと、部屋から出ぬように見張りも頼むぞ!』
そうクリスタルが口にすると、シャルダンから来た王太子一行は兵士に連れられ、案内された部屋へと見張り付きで暫く滞在する事が決まりました。
とは言っても、そう長くいさせる気はなく……書状を書いて魔導具でシャルダン国王に全貌を伝えて送り、沙汰はシャルダン王国で決めて貰おうと思います。
「やれやれ、ひと悶着やはりありましたね」
「あら、わたくしまだ物足りなくてよ?」
「リコネルはファイティングポーズすると強いですからね……流石元悪役令嬢です」
「うふふ」
さて、シャルダン王国の王太子殿下はどう出るか。
そして、シャルダン王国の国王も、どういう反応を返すか……。
此ればかりは分かりませんが、波乱の幕開けであることは――間違いないようですね。




