第70話 後日談編 クリスタルから見たドグ達の様子ですけれど……
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――クリスタルside――
図書館をプレゼントされたドグ達は、それからシャルティエと一緒に文字の勉強をしながら本を読み漁り、知識を蓄えて行った。
娯楽小説に専門書、絵本に、絵本の中に書きこまれた道徳を伝える内容。
それらはドグ達、シャルダン王国からしてみれば刺激的で、夢の様な世界で、アルファルト王国が如何に自由な国であるか。
そして、美醜での差別、男女差別……男尊女卑が如何に残酷であるか、罪であるか本を通して学習していったのである。
「俺達は……本当に狭い世界しか知らなかったんだな」
『ははは! 世界は広い。何よりリコネルの脳内は何処迄も広がっていて我でも分からぬ程よ!』
「リコネル王妃様は本当に素晴らしい人だったんですね……。男女差別、弱きを助ける心。時には悪妻になってまで民を守ろうとした」
『中々、自分を悪者にして民を守ろうとする王妃はおらんだろうな。じゃが、そうでもしないと守れない命があるのならば、リコネルは進んで悪役になり、そして正義を貫くジュリアス国王と言うのを作り上げるじゃろう』
「俺は……。俺は本当に視野が狭かった。男のプライドなんてものではジュリアス国王陛下やリコネル王妃の前では、なんてちっぽけな事なんだろうか……。弱き民、自国民を守る為に必死になってきたお二人を知れば知る程、自分と言う存在が余りにもちっぽけに感じられる」
そう言って一冊の専門書を本棚に返したドグは、小さく溜息を吐き前を向いた。
その顔には、憂いはあったものの悩みは無くなりつつあるようにも感じられる。
「思えば、母上を困らせてばかりで泣かせてばかりだった俺は、最低野郎なのだと思います。父王には頭が上がらないから言いなりで……母上は、俺が奴隷としてこの国に行くことを最後まで父王に辞めるように進言していた。あれが母上の本当の愛情だったのだと今なら知ることが出来ます……。母上はご無事だろうか……」
国に残してきた母親を心配するのは、当たり前の事。
クリスタル情報では、ドグの母親は無事の様じゃが……酷い扱いを受けているのは間違いない。それでも一心に耐えておるのは、ジュリアスが「我が国では奴隷制度は無く、彼らをシャルダン王国の者として丁重に扱っている」と言う手紙のお陰じゃろう。
無論これにはシャルダン国王は驚き、奴隷制度がないのに子を何人も欲しがったのかとなったようじゃが、一年にも及ぶ食料支援を貰っては言うに言えず……と言った所であったようじゃ。
また、次期国王とシャルダン王国で言われているドグの兄は、弟妹達が奴隷として死んでくれれば自分の身は安泰と思っていた事もあり、ジュリアスとリコネルに関して支援は感謝するものの「余計な事を」と思っている事も知っておる。
国におれば間違いなく毒殺されておったであろう子供たちは、この国に隔離するようにして守っておる事を、ドグは恐らく見抜いておるじゃろうな……。
弟妹達は幼い故に、この国の絵本や本を読み、この国の在り方、生き方を学んで折る際中。現に自国との差に驚き質問をしてくる幼い子供たちは多い。
では、実際にこの国を見て貰おうと【花の舞姫】の祭りを堪能した子供達は、外の世界に圧巻されておった。
男が女を虐げる事も無く、手と手を取り合い同じ花の冠をつけて微笑み合う姿。
それだけでも衝撃は充分大きかったようで、自国シャルダンとの違いに呆然としておった。
本で読んでいたモノが、実際に目の前に当たり前として存在する光景とは、やはり夢や幻想だと思っていた事が事実だと分かった時、子供達には大きな変化が訪れた。
あんなにもメイドたちに反抗的だった男児は、メイドたちに頭を下げてお礼を言う様になり、妹達を可愛がるようになった。
――男尊女卑、男女差別の思考に亀裂が入ったと言うべきだろうか?
信じていたものが違う世界。それを嫌と言う程体感したという事もあるだろう。
何より大きかったのが――我が国次代の国王となる、シャルティエの存在であった。
両親に愛されて育ったシャルティエは男女平等を当たり前とし、年幼いドグの妹達に優しく接していた。
この国の文字が読めぬという子供達に、我と一緒に文字を一緒に教えて行ったのはシャルティエでもあったのじゃ。
まずは単語から、少しずつ文字を教えていき、数字を教えていき、読み書きまで出来るようになる頃には、子供達の中心にいつもシャルティエがいた。
「シャル様の父上と母上は、大変なかがよろしいのですか?」
「はい! 僕が恥ずかしくなるくらいとても仲が良いです!」
「本当に? 母上は殴られたり蹴られたりはしてませんか?」
「その様な真似を父上が母上になさるはずがありません! 父上も母上もお互いにとても尊く、愛し合っていらっしゃいますから」
「「「素敵……」」」
「そちらでは、王族であっても誰かの元に嫁いだら殴られたり……してしまうのですか?」
そう問いかけたシャルティエに、ドグは眉を寄せつつ小さく頷き、少女たちは体を寄せ合って震えあがった。
それがまかり通ってしまうのが、シャルダン王国なのだと嫌でも知ることになったシャルティエは、悲しそうな顔をしながら少女たちに手を合わせ祈りを捧げる。
「どうか、暴力の無い世界で生きていけますように……」
「「「シャル様……」」」
「僕の力で出来る事は限られていますから……せめて祈りだけでも……。己の無力さを嫌でも痛感します」
『ほっほ! シャルよ、そうでもないぞ』
「本当ですか?」
『この国の国王や王妃だけではなく、次期国王となるシャルティエからの清らかなる祈りと言うのは、我らクリスタルにとって大きな力となる。特に、純粋故に優しい祈りと言うのは、とてつもないエネルギーとなる』
「もしそうなのであれば、ドグ達皆が幸せになれるように……更にお祈りします」
「シャルティエ王子……」
『良かろう。その願い必ずや、いずれ聞き届けたいと思う。しかし、今は時を待っておる際中。ドグ達もまた、まだまだ時間が掛る時なのじゃ。特にドグ、そして弟たちにはこの国をもっと知って貰わねばならない。夢、幻ではなく、ここが現実であると本当の意味で理解をした時……時は訪れよう』
「はい!」
「俺達は知らねばならないのですね。あらゆる事柄、あらゆる問題から目を背けず、立ち向かわねばならないのですね」
ドグがそう口にすると、我は強く頷き……ドグは目を閉じて大きく息をすると、目を開けて我に向き合う。
「まだ夢物語の中にいるような感覚ですが、俺はもう逃げません。このアルファルト王国を受け止める事を頑張ります」
『それでよい。まずは一歩ずつこの国を理解していき、知識と言う武器を手に入れるがいい。その為の図書館ならばリコネル王妃が用意しておる』
「「「はい!」」」
まずは第一段階――知識の蓄えから。
先は長いかも知れぬが、ドグ達を守る為の術をリコネルは用意した。
その為に、愛するシャルティエにドグ達と深くかかわる事も許可した。
――まずは此処から、変わって行くじゃ。
一歩ずつ、半歩ずつでも前へ。前へ――。




