表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/91

第7話 悪役令嬢の使い道ですわ!

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 彼女に事の次第を伝えるべく部屋に向かったのですがリコネルは部屋にいないらしく、書斎で仕事をしていると聞き向かうと、ゆったりとした服装でなにやら構想を練っていたようで、私が来ると慌てて立ち上がり淑女の礼をなさいました。



「気を楽にしてくださって結構ですよ」

「そうは言っても、将来の旦那様に礼を尽くすのは当然の事ですわ」

「フフ、貴方らしいですね。今日は少々込み合った話がまた出てきてしまいまして、お話をと思ってきたのです」

「まぁ、国王から何か言ってこられましたの?」



 流石の洞察力、私が頷くと呆れた表情を少しした後、互いに椅子に腰掛けました。

 彼女に話すのは少々躊躇してしまいますが、これから夫婦となるのですから、そして私の妻と言う特殊な地位につくのですから……と気持ちを引き締め、向かい合いました。



「今回、色々調べさせて頂きました事を先に謝罪しておきます。貴方は悪役令嬢などと言う存在ではなかったのですね」

「当たり前ですわ。けれど、そちらの方が都合が良かったのもご理解頂いているのではなくて?」

「だからこそ、噂雀たちを放置させていたのですね?」



 私の言葉にリコネルは笑顔で「勿論」と答え、紅茶を一口飲むと私に向き合いました。



「このお屋敷に来たときに申した通り、わたくし、チャーリー王子と結婚する気なんて微塵もありませんでしたの。あんな浅慮な方に嫁ぐなんてまっぴらごめんですわ」

「それはそうかも知れませんが。では何故悪役令嬢のままの情報を放置しているのです? 我が家の雀を使えば王都での悪評など消えうせるだけの能力はありますよ」

「わたくし、悪役令嬢と言う名を有効活用しておりますの」

「有効活用?」



 思わぬ言葉に目を見開くと、彼女はにこやかに言葉にしました。

 例え悪役令嬢の行う商売であっても、どんな嫌がらせを受けようとも耐えてみせると言う気概のある職人が欲しい。根性のある人物、また、やる気のある人材が欲しい。それこそが彼女が言う【悪役令嬢の使い道】なのだと口にしました。


 確かに、悪評高い場所への就職とは難しいものです。

 出来ればしたく等無いでしょう。

 ですが、敢えてそれを【悪役令嬢が営む商店】と言うものを売りにしているのだと彼女は言ってのけたのです。



「その上で働き方改革や給料の良さ、待遇のよさが解れば、自然に悪役令嬢の名は払拭していきますわ。わたくしが王都から店を移したのは、理由は簡単、王都に金を落としたくなかったからですの」

「な、なるほど」

「確かに結婚相手に苦労する悪役令嬢と言う汚名ですけど、商売にはうってつけ、その上、好いた殿方に嫁ぐことが出来たわたくしは幸せ者ですわね!」



 そう言って高笑いする将来の妻に、最早脱力してしまいました。

 悪評を売りにする、利用するとは考えもつかなかったからです。



「それから、ジュリアス様のご様子ですと……雀を使った相手もお解りではなくて?」

「ええ、王太子に引っ付いていた金魚の糞のような男とアルジェナですね」

「その通りですわ。アルジェナ様ったら王太子とお付き合いしながらその糞ともお付き合いなさっていたのはご存知?」



 思わぬ爆弾に私は持っていたカップを落としそうになりましたが、リコネルはクスクスと笑うだけで「知らなかったのですね」と口にしました。



「今でこそ王太子と一緒に居ますけど、スリルを味わいたいと言う理由で二人は合意の下で他の男性ともお付き合いをなさっていたようですわよ。既に体も綺麗では無いはずですわ」

「そんな……はしたない真似までなさっていたのですか? そのアルジェナと言う女は」

「ええ、わたくしにとってはどうでもいい事でしたので、それとも、この話……雀にでも王都で囀らせて見ます?」



 悪戯を思いついたかのような表情で……それでいて本当に悪役のような姿で口にしたリコネルに、私は生唾を思わず飲み込んでしまいましたが、それはそれで王都に、そして国王に打撃を与えるには充分でしょう。



「ですが、そうなれば貴方を妻に返せというのではないのですか?」

「ええ、そうなってしまっては元も子もありませんもの。ですので、早い内に、近い内に結婚してくださらない?」



 まさかの逆プロポーズ。

 婚約しているのですからいつかは結婚しますけれど、早い内に、近い内に結婚をと言われるとは思っておらず、耳まで真っ赤に染まり禿げた頭からは湯気が出てしまいました。



「ああん、もう、可愛らしいお方!」

「こらこら、私をそう困らせてはいけません」

「お困りですの?」

「恥ずかしいのです……。今までその様に女性から言われることが無かったので」

「これからは、わたくしが毎日のようにジュリアス様を口説いて見せますわ」



 ウットリするような表情で口にするリコネルに、私は耐え切れず残っていた紅茶を飲み干し、深呼吸すると「ではそれ以上に口説いて見せましょう」と言い返しました。

 するとリコネルはキョトンとした表情をした後、本当に嬉しそうに……嬉しそうに微笑みました。



「では、わたくしの留飲が少しでも下がるように、早めに結婚して先ほどの噂を流せば宜しいですわ。優秀なのでしょう? ジュリアス様のお抱えする噂雀さん」

「とても優秀ですよ。王都の雀よりもね」

「楽しみが増えましたわ! 俄然執筆の熱も上がりましてよ! あ、結婚式には仕方なく陛下も呼ぶでしょうけど……わたくし、婚約破棄された身ですから小規模で宜しいですわ!」

「では私と仲良くしている者達、そして一応国王夫妻にも連絡だけはしましょう。来るか来ないかは別ですが」

「そうですわね。ふふ! 早く結婚して愛しいジュリアス様のお子が産みたいですわ!」



 その言葉に顔を真っ赤にすると、リコネルは美しい笑顔のまま、それでも頬を少しだけ赤くして微笑み「それではわたくし、仕事が残ってますの」と言われ、私とサリラー執事は部屋を後にしました。



 ――さぁ、今日からやることが沢山です。

 頑張りましょう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ