第63話 後日談編 一日の終わりの2人きりの湯船は至福の時ですわ……
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私に背中を預けてもたれ掛かるリコネル。
広い湯船だと言うのに、この体勢で入るのが彼女は大好きです。
腹が出ぬよう鍛えてはいますし、絞ってはいますが、こんな私に背中を預けてウットリとした表情で一緒に入る湯船は、何よりも至福の時かもしれません。
「一日の疲れが取れますねぇ……」
「ええ、本当に。やはりお風呂は夫婦で入るのが一番ですわ」
「ははは。とは言っても、この時間の為に朝から大変ですね」
「そうなんですのよ! 朝から磨かれて大変ですわ! これもそれも美しさを保つためとはいえ、毎朝沢山のメイドたちに全身くまなく洗われて……。ジュリアス様とシャルの為だと我慢してますのよ?」
「でも、毎朝美しいリコネルに会えるのは嬉しいですよ」
「もう、仕方のないお方。だからこそ我慢してますのよ?」
「ふふふ」
そう言って、そっと頬に触れるリコネルの美しくも細い指に顔を寄せ、お互い見つめ合うとキスをします。
触れるだけの優しいキス。
夫婦なのだから照れる事も早々ないのですが、結婚当初は何かと忙しくこういう時間も取れなかった為、最初の頃こそ……とても緊張しました。
緊張しすぎて鼻血を出したことも一度や二度ではありません。
お恥ずかしいながら、初夜もリコネルに襲われての一夜でしたので、当時の自分は何をやっているのかと叱咤したいくらいですね。
とは言え、今も左程変わらないのですから……お恥ずかしい話です。
「今回の小説作家さんたちとの集まりでは、どんな感じだったんです?」
「そうですわね。他の作家さんたちとも話してたんですけれど、今の流行を知ることが中々に難しいという話を聞きますわ。皆さん何だかんだと作家作業に忙しくて引き籠りがちですもの。少しは外に出てカフェでネタを拾う事も大事だと伝えてきたくらいですわ」
「時勢で読まれる話は変わってくるとは聞きますからね」
「その中でもダントツに強いのは恋愛ですわ! 何時、どの世でも恋愛に勝る娯楽は無いのかも知れませんわね!」
「恋愛……ですか」
「後は何だかんだ強いのはエロですわ。ここはクリスタルの得意分野ですけれど、中々に強敵でしてよ」
「でしょうね!」
クリスタルが得意分野と言う時点で作品としては強敵なのでしょう。
流石と言うべきか、クリスタルは娯楽の為にエロ小説を愛読しています。
無論他の小説も愛読していて、城にはシャルが読む用の図書館とは別に、クリスタルとリコネル専用の図書館があるくらいです。
大きさで言えば、両方同じくらいの大きさですね。
リコネルは幅広い知識を持っている様で、農業や産業の本も執筆したりと、その博識さには大臣たちですら感服されている程なのです。
更に農業や林業の本は他国でも需要があり、高値で売られているのだとか。
その為リコネル商会の小説部門の売り上げは凄まじく、次に力を入れていた花屋関係の売り上げも季節に応じて相応に入る為、国民の間では『リコネル王妃は商売の女神』とさえも言われています。
まだ領地だった頃は他の領地よりも、女性の社会進出は進んでいたのですが、リコネルが率先して働く姿が当たり前になって行きました。それに伴い女性が働く環境が整い、今では国では女性が働く事への問題はある程度落ち着いたと言って過言ではありません。
「ふふ。リコネルが色々と精力的に頑張ってくれているからこそ、守られている女性国民が居る事が誇らしいですよ」
「ふふふ。ジッとしてるのがダメな、お転婆なだけかも知れませんわ?」
「ジッとしているのがダメなのに、小説も書いてるんですよね?」
「そうですわね。実体験に勝る話は読者に突き刺さると思いますもの」
「だからと言って、率先して私の事を小説にするのは……」
「だって素敵なんですもの――!」
そう言ってギュッと湯船の中で抱き付いてくるリコネル。
思わず血が鼻に集まりそうでしたが我慢しました!
嗚呼、湯船の中で何という大胆な!
そこが可愛いのですけれどね!
「リ、リコネル……あまりそう抱き付かれると……」
「嬉しくありませんこと?」
「嬉しいですよ! 嬉しいですが……」
「ふふ、今度の視察が終わった翌日は……時間をかけて……ね?」
「ええ、シャルを預けて……ね?」
深い口づけをして抱きしめ合う時間。
嗚呼、出来るなら早めに2人目は欲しいんですがね。
こればかりは神様に祈らねばならない事でしょう。
本当なら今からでも愛し合いたいくらいなのですが、明日の朝も早い事を考えるとグッと我慢です!
我慢ですが――!
「ねぇ……ジュリアス様?」
「何でしょう?」
「今夜、どうです?」
「なっ!」
「ふふ、お部屋のベッドでお待ちしてますわ?」
「わ、かりました……」
明日は早いのですが、リコネルは私に愛されたい様で先に湯から出ていかれました。
愛妻に求められて嫌だと言う男が居るでしょうか?
否、いないと思います!
私は湯船から出ると歯磨きなど身支度をある程度整え、リコネルの待つ寝室へと入って行ったのでした……。
既にベッドにバスローブ一枚で横たわるリコネルに、そっと口づけを落とし……。
「明日の朝はお辛いですよ?」
「まぁ、手酷く抱いてくださいますの?」
「我慢が出来ないかも知れません」
そう言って部屋の明かりを少しだけ落とし――私たちは愛し合ったのでした。




