第57話 身代わりと罠と
ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
――チャーリーside――
その日の夜、シャリファー夫妻を殺害しようとしたが、二人して出かけているらしく、犯行に及ぶことは出来なかった。
あの雑魚は直ぐに始末できる。
そう考えた私はアルジェナと二人外に出ると、人々は「探せ!」などと叫び声をあげているではないか。
なんと見っとも無い。
国王がアレだから国民も見っとも無いんだな。
そう思った時、足元に飛んできた紙を拾ったアルジェナは口を押え、私に汚い紙を見せた。
そこには何故か、私とアルジェナが載っており、更に懸賞金まで……。
「おのれジュリアス……化け物め! そんなにも私が邪魔なのか!」
「し――! 声が大きいです……静かに顔を隠してあのハゲの屋敷まで行きましょう? 探してる振りをして走れば直ぐたどり着く筈です」
「そ……それもそうだな、急いで向かおう」
そう言うと私たちはフードを深くかぶり、人を探しているフリをして化け物のいる屋敷へと走った。
城下町からは少し離れた場所にあるハゲの屋敷、道中人の姿は無く、アルジェナと二人ひた走った。
屋敷の警備も薄く、殆どの者たちが今頃城下町にいるであろう私とアルジェナを探しに行っているのだろう。
馬鹿な奴らだ。だがそっちの方が、都合がいい。
アルジェナと二人、頷きあうと木々の隙間を抜け、庭先に入ることが出来た。
真っすぐ前を向き、屋敷を見るとそこには――愛しいリコネルが座っていた。
どうやら編み物をしているようだ。
他に人が居るのかどうかを確認すると、部屋にはリコネル一人だった。
――ここにリコネルがいる。ならば火をつけるならばどこがいいだろうか。
屋敷をじっと見つめていた私は、アルジェナの様子など気にもしてなかった。
そう、編み物をしているリコネルを恨みの籠った瞳で見つめ、隠し持っている短剣に手を当てていることに、気が付かなかったのだ。
「……アルジェナ、お前は向こうの端から一気に屋敷に火を付けろ」
「はい!」
「私はそこから火が出て人が集まり次第リコネルを連れてこの屋敷から少し離れる。その時、お前はリコネルを連れて待っているんだ。いいな」
「はい!」
力強く頷いたアルジェナは、屋敷の端まで向かうと、持っていた炎の魔石を空いていた窓から炎の魔石を投げ込むと、呪文を唱えて火を放った―――筈だった。
「どうしたアルジェナ」
「あの……魔石から火が出ないんです……」
「なんだと?」
その言葉に私はアルジェナのもとへと向かい、同じように炎の魔石を投げ込んで呪文を唱えたが、炎の魔石に火が付くことは無かった。
一体何がどうなっているんだ?
他の施設では、いくらでも炎を放つことが出来た炎の魔石。なのに、ハゲの屋敷では魔石は炎を出さず、まるで石ころのようにその辺に散らばっていた。
「一体どうして……」
「もしかして、重要な屋敷とかって火が上がらないようにできているんですか?」
「まさか」
「まさか、何ですの?」
私たちの言葉に質問で返してきた声に後ろを振り返ると、そこには愛しいリコネルが立っていた。
それだけではない、後ろには屈強な護衛騎士までもが並んでいて、アルジェナが逃げようとした矢先、見えていなかった壁の方からも護衛騎士が滑り込んできた。
まさに――囲まれたのだ。
「お久しぶりですわね、チャーリーにアルジェナ。私とジュリアス様の愛の巣にようこそ」
「リコネル、いい加減目を覚ますんだ! あのハゲではなく私の方が優れていると!」
「馬鹿なことを仰らないで。放火魔と一緒にされてはたまったもんじゃありませんわ」
どうやらリコネルは私たちが各所を放火したことを知っているらしい。
「それは全て、君への愛情の裏返しだ!」
「本当ですの?」
「無論、あのハゲを許せないと言う気持ちもある! だがそんなに怒る事じゃないだろう? 老人の終の棲家など私の国に必要ない。老人は路上で死ぬべきだ。それに子供たちの病院だってそうだぞ? 病原菌を持つ子供を焼却処分するのは、国を守るために必要な行為だ!」
「呆れましたわ」
その言葉と同時に、アルジェナはリコネルのもとへと駆け寄った。
そして持っていた短剣を抜くと、一気にリコネルの腹を刺したのだ。
「リコネル!」
「あんたの所為で全てが滅茶苦茶なのよ! 私の輝かしい未来も、何もかも!」
「アルジェナなんてことを!」
アルジェナが勢いよく短剣を抜き去ったその時――刃が……砕けていることに気が付いた。
そして。
『ふふ……ふはははははは!』
突然声をあげたリコネルの声に、私は聞き覚えがあった。
そう、あの声は忘れるはずがない。
あの声は。
あのリコネルの姿をしているアレは……。
『阿呆どもめ』
「ヒッ 化け物!」
『化け物? ああ、我がリコネルの姿をしているから不思議か? それもそうであろう? お主たちを誘き寄せるための罠よ。リコネルに刺激を与える訳にはいかぬからなぁ。だがアルジェナと言ったか? リコネルの腹を狙ったのは許さんぞ』
その言葉にアルジェナの両手が炎に包まれ、雄叫びのような悲鳴を上げた。
慌てて消そうとするアルジュナ、だが炎は消えることがない。
『罪人の証じゃ。喜ぶがいい』
その言葉と同時に炎は消え去り、焼き爛れた両腕には真っ黒な入れ墨が出来上がっていた。
それは――終身刑となる罪人に付けられる焼き印と同じだった。
「チャーリー様には、素敵な焼き印がジュリアス様の手により付けられると思いますわ」
「クリスタル……だな?」
「ええ、やっと理解なさったの?」
「ああ、やっとだ。お前が私を裏切った!」
「裏切ったのではありませんわ。貴方に国王となる素質も、血も、流れていなかっただけのことですわ」
「リコネルの声で私を馬鹿にするな!」
「ふふ……ふははははは!」
目の前にいるリコネルの姿をした正真正銘の化け物、クリスタルに向かい剣を抜くと、それに合わせて護衛騎士全員が剣を抜いた。
「う……」
「大人しく捕まらないと、首と胴体が離れてしまいましてよ?」
「くそっ! 誰だ! どいつが私たちの情報を……っ」
『リコネルの本屋を狙ったのが間違いじゃったのう?』
「―――っ」
『ははははは! 阿呆な奴らよ。 ほれ、護衛騎士共はこいつらを捕まえて直ぐにジュリアスのもとへと向かえ。裁きの時じゃ』
「放せっ 放せ―――!」
「いだいぃぃぃぃいいいい!」
こうして、護衛騎士たちに捕まった私たちは……そのまま憎き化け物、ジュリアスのもとへと連れて行かされたのだ。
憎い。
悔しい。
憎い。
憎い。
おのれ……化け物どもめっ!
――そう叫んでも、喚いても、私の言葉は闇の中に消えるだけだった。




