第56話 醜い動機と犯行ですわ
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――チャーリーside――
アルジェナと二人になり、屋敷から持ち出した資金を派手に使いながらの生活は、直ぐに底をついた。
それでも、アルジェナのやり繰りの中で細々と暮らしていると、ストレスが溜まる一方で、その上我が国民はあのハゲの事を褒めたたえる言葉を口にするのだ。
――ジュリアス様のおかげで平和に暮らせる。
――ジュリアス様のおかげで園に子供を安心して預けることが出来る。
――ジュリアス様は弱者を守る素晴らしいお方だ。
そんな言葉ばかりを聞いて苛立った。
本当ならば、そういわれるのは私であったはずだ。
――チャーリー様のおかげで平和に暮らせる。
――チャーリー様のおかげで安心して暮らせる。
――チャーリー様こそ素晴らしいお方だ。
そう言われるはずだったのに、リコネルを奪っただけでは飽き足らず、国民までもあのハゲは奪った。
許せることではない、絶対にだ。
せめて何か仕返しが出来ればスッキリするのに、それすらも今では難しい。
常にイライラしている私に、アルジェナは常に付き添ってくれた。
私を騙した女の癖に、甲斐甲斐しく尽くすのだ。
「チャーリー様こそが称賛されるべき国王陛下なのに、あのハゲの所為で全てを奪われているんです!」
「ああ、全くもってそうだ」
「だから、あのハゲが大事にしている所を重点的に攻撃しちゃいましょう! そしたら国民はハゲに疑惑の目を向けて、国王として相応しいのはやっぱりチャーリー様だって気づく筈です!」
素晴らしい案だった。
そしてその頃、あのハゲは園への視察にリコネルを連れてやってきていた。
二人は自然に、それでいて幸せそうにしていて更に腹が立った。
リコネルは私にあのような表情を向けたことがない。
あのように優しげに私を見つめることも、寄り添ってくれることはなかった。
グッと拳を握りしめ、二人が園での視察が終わるまで立ち尽くし、二人が帰るまで私は怒りと嫉妬で胸が焦がれた。
その時だ。
「あのハゲの大事なものを、1つずつ燃やそう」
「それは素晴らしい案ですわ!」
「アルジェナ、炎の魔石を大量に買ってこい。いくつかの施設を燃やせるだけの数をだ」
そう言うと私はアルジェナと泊っているボロボロの宿泊施設に戻り、自分の親指を噛んで叫び声をあげたいのを我慢した。
「おのれジュリアス……化け物めっ!」
忌々しい男の名を口にした時、口には血の味が広がった。
本当ならばあの男を剣で刺し、命を絶たせたくもあった。
だが現状では無理だ。まずは奴の精神をえぐる様に攻撃をした後でも遅くはない。
隙を見て――そう思っているとアルジェナが帰宅してきた。
大量の炎の魔石を持っている鞄いっぱいに入れていたアルジェナに、大小の小袋でそれらを分けさせ、夜のうちに園へと忍び込んで魔石で火を放った。
燃え上がっていく園を見て、私は声を出して笑った。
誰もまだ駆けつけていない中、久しぶりに心が躍るほどの喜びを感じたのだ。
「あはははははは! ざまぁ見ろ化け物め! 貴様の大事な施設を全て燃やしてやる! リコネルもだ! 少しは私からの制裁を受けるがいい!」
「最高ですわチャーリー様!」
「毎日1つずつ、いや、2つでもいい! 燃やしてやる……私が王となった暁には必要のない施設など、燃え墜ちてしまえばいい!」
大きく叫び声をあげながら口にすると、遠くから人が走ってくる音が聞こえ、私とアルジェナは直ぐにその場から立ち去った。
そして翌朝、もう一度焼け落ちた具合を見ようと園にやってくると、ネルファーの弟であるシャリファーを見つけることが出来た。
これで安宿から、ちゃんとした場所で生活が出来るだろう。
どうせ城に戻るんだ、暫くは世話になったところで罰は当たるまい。
しかし――。
「お久しぶりでございます。私はジュリアス様より、この園で教師をしているのです」
「教師?」
「魔力操作を教える教師です」
「なんだと? あのハゲはどこかに戦争でも吹っ掛けるつもりか!?」
庶民に魔力操作を教えるなど、どこかの国に戦争でも吹きかけるようなものだ!
そもそも魔力操作は平民には必要のないものだろう!?
高貴なものこそが魔力操作ができる特権を持つのだ!
怒りに震えていると、シャリファーは慌てた様子で私を屋敷へと招いた。
だがその時に妙なことをアルジェナに聞いたのだ。
「あの、アルジェナ様、お子はどうなさったのです?」
アルジェナの妊娠は間違いだったと、この王都で再会したときに言っていた。
なのに、お子はどうしたとは不思議なことを聞く。
するとアルジェナは「子供なんていないわよ」と返し、シャリファーの勘違いだろうと納得した。
それからの日々は、私の身の回りの世話をアルジェナとシャリファーの妻が行い、朝から昼にかけて眠り、夜には何処に放火しに行こうかと外に出かけた。
そこで、あのハゲがリコネルと一緒に今日は特別老人院に行ったことを知り、そこを狙った。
そこは見事に燃え上がった。
園の比ではないほどに燃え上がり、院からはゴミどもの悲鳴が木霊している。
「ははは! 素晴らしいオーケストラだな! いや、聖歌隊か?」
「本当に! 金食い虫の老人の為の施設なんて、何で作ってるんでしょうね?」
「全くだな、終の棲家? 路上で死ねば良いものを、こんな施設を作って何の意味がある。税金の無駄と言う物だ。あのハゲにはそういうことも分からないようだな」
「チャーリー様が国王になられた暁には、真っ先に取り壊さないとですね! 中で生き残ってるゴミは山にでも捨てればいいですし!」
「その通りだな!」
こうして、大規模火災となった特別老人院を見て留飲が下がった私はシャリファーの屋敷に帰り、次の日には子供病棟とリコネルの営む本屋を狙った。
そもそも、病気の子供を隔離しているのだ。
外に病原菌を出される前に焼却処分にするのが一番だろう?
それを何故やらないのか謎で仕方ない。
そんな事を思いながらリコネルの本屋に火をつけた時、これは彼女への愛情の裏返しだと気づいた。
私に振り返らなかったリコネル。
私に微笑まなかったリコネル。
私よりもハゲを選んだリコネル。
だがそれも、慌てふためくハゲを見れば愛も冷めて私の許へと帰ってくるだろう。
その時は、多少なりとも罰を与え、常にそばにおいてやろうと思う私は、なんて心が広いんだろうか。
次に放火するべきは――あのハゲの屋敷だ。
放火に紛れ、リコネルを奪い返す。
そしてあのハゲも殺してしまえば、後はスムーズに私が国王になることが出来るだろう。
だがもし失敗した時のことも考えると……リコネルの姿を知るシャリファー夫妻は邪魔だ。
「あのハゲの屋敷を狙うにしても、シャリファー夫婦が邪魔だな」
「そうですね! 殺してしまいましょう!」
「ああ、だがその前に晩飯の用意まではして貰わねばな!」




