第55話 その頃、シャリファー様の周りでは……
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――シャリファーside――
それは幸運か、不運か、はたまた運命であったのか……今となってはわからない。
働いていた園への放火事件から数日後、私は思いがけない人物と再会したからだ。
妻と一緒に焼け落ちた園に対して、直ぐに仮設の園を校庭に建てると仰ったジュリアス様の仕事の速さに感服しながらも共に仮設の園が出来上がるさまを見ていた時だった。
「そこにいるのは、シャリファーではないか」
「え?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはチャーリー元王太子の姿と、一人の女性の姿がありました。
二人とも着の身着のままと言った様子に私は驚き、更に何故二人がこの新しい王都にいるのかも気になりました。
「お前がここにきているとは珍しい」
「お久しぶりでございます。私はジュリアス様より、この園で教師をしているのです」
「教師?」
「魔力操作を教える教師です」
「なんだと? あのハゲはどこかに戦争でも吹っ掛けるつもりか!?」
一国王に対しての言葉ではありませんでした。
驚き慌て「違います!」と声をあげると、皆さんの目が私たちに集中しました。
ヒソヒソと聞こえる声には「国王への反逆的な言葉ですわね」などと言う言葉もあり、この場にいれば直ぐにチャーリー様は兵士に連れていかれると思ったのです。
「詳しい話は屋敷でお聞きします。お疲れの様子ですし」
「おお、それもそうだな」
「お風呂と着替えと料理よろしくね!」
今まで何も発していなかった女性は、チャーリー様の腕を抱きしめながら私たちにそう告げました。
一体この女性は何なのだろうか?
チャーリー様も王族ではなくなったとはいえ、このような女性と一緒にいるなんて品位が疑われるのではないだろうかと思った矢先、妻が私の手を握りしめ「アルジェナ様よ」と耳打ちしました。
その言葉に目を見開きアルジェナを見ると、嬉しそうな表情で「どんなお屋敷かしら」とチャーリー様と歩いている。
――兄、ネルファーの子を身籠っていなかったアルジェナ。
そう言えば、子は?
彼女には娘が生まれていたはずなのに、その姿はどこにもなかった。
「あの、アルジェナ様、お子はどうなさったのです?」
私の問いにアルジェナは不機嫌そうな表情で振り返ると「子供なんていないわよ」とだけ告げ、またチャーリー様の腕に甘えるようにしがみついた。
つまり彼女は、子をどこかに捨ててきたのだ。
その子が無事である保証はどこにもないだろうが、せめて生きていれば……と、私とアイリスは祈りを捧げた。
ジュリアス様が用意してくださった小さな屋敷に到着すると、私が玄関を開ける間もなく二人はズカズカと屋敷に入っていった。
「何この屋敷、小さすぎない?」
「ああ、本当に。ブタ箱の方が広いくらいだ」
「私と妻しか住んでおりませんので、丁度いい広さですよ」
「えー? なら私の世話をしてくれるのはアイリスなの?」
「「は?」」
思わぬ言葉に私と妻は目を見開いて二人を見た。
「だって~長旅で疲れているから暫くここに住んでいいんでしょ?」
「いえ、私たちはかようなことは申しておりませんが」
「何それ、ケチ臭い。いいじゃん、私たち疲れてるんだから暫く住むわ」
「客室も小さいものしかありませんし」
「ならアンタたちがその客室で寝なさいよ。私とチャーリー様が部屋を使うから。決定事項ね! まさか……次期国王陛下を小さい客間で寝泊まりさせるつもりじゃないでしょうね?」
「次期……国王?」
思わぬ言葉に私も妻も呆然としながらチャーリー様を見ると、腕を組んで私たちを見下したように見つめていました。
「そうだとも、私こそが次期国王だ。あのハゲには早々に国王の座を降りてもらわねば困る」
「えっと……何を仰っているのか、いまいち理解が出来ないのですが」
「頭の悪い奴め、私たちが滞在している間にその足りない脳みそで考えろ! 全く、それでも魔力操作を教えているのか? 凡人の癖に」
その言葉にアイリスが何かを言うとしたのを食い止め、私は笑顔を無理やり作り「それではこうしましょう」と提案しました。
私たち二人は小さい客間で過ごすこと。
ですが、ご自分の身の回りの事は、ご自分でなさることを提案し、またそれ以上の事を望まれる場合は兵士を呼ばせてもらうとお伝えしたところ、二人は顔色を赤くしたり青くしたりしながらも、渋々了承しました。
「それから、お二人はこの王都でまだ仕事にも付いていらっしゃらないのでしょう?職を探すことをお勧めしますね。でなくては服すら買えませんよ?」
「貴方たちが出すんじゃないの?」
「私たちの給料では、とてもとても……二人で生活するだけでやっとです」
「じゃあ、貴方たちが我慢すればいいんじゃないの?」
「お客様を持て成すだけの給料もなく、申し訳ありません」
最後の言葉に二人は難しい顔をしていたけれど、渋々と言った様子で納得されたようだった。
でも、私たちには解る。
――この二人は、職を探す真似はしないだろうと。
先のジュリアス様へ対する暴言、そして自分こそが国王になるという発言からして、王都で何かしらやらかすつもりだろう。
私たちも巻き込まれることになるが、二人を野放しにしてる方が危険なような気がした。
せめて問題が起きた際、二人がこの屋敷に戻ってきたら直ぐに通報できるようにしておかなくては、被害はもっと広がりそうな気がした……。
――そして、その夜の事だった。
二人がコッソリと夜の闇に消えていき、暫くすると特別老人院で火が上がったことが分かったのは。
けれど、朝帰りしてきた二人に、夜どこに行っていたのか聞くことも出来ず、すれ違いの日を過ごしていたけれど――妻は見つけてしまったのだ。
二人が出掛ける際に持ち歩いている鞄の中に……炎の魔石が入っていたことに。
そして……小袋に分けられたそれらの中で、ひときわ目立つ大きさの袋は空になっていたことに気が付いた。
そして次の日。
リコネル商店の本屋と、子供病棟への放火が起き、彼らが寝静まった頃にアルジェナの持っていた鞄を開けると、小袋が2つ減っていることを確認した私とアイリス。
――この王都で起きている放火事件は、二人が犯人だと分かった瞬間でもありました。
そしてその日の夕飯時、彼らがヒソヒソと会話しているのを聞いてしまったのです。
――次は、屋敷の二人を処分して、リコネルを取り戻しに行こう。
私は目を見開きました。
次狙われるのは、私たち夫婦と国王夫妻が使っている屋敷だと知ったからです。
そのすぐ後で、園の警備をしていた知り合いの兵士が家にやってきて、今回の放火の犯人の写真だと渡された紙には、やはり二人の写真で――。
「ニコライさん、話があります」
「ん?」
「驚かずに聞いてください。実はこの二人、今家にいるんですけど、夜になるまでは外に出歩きに行きません。この写真は王都国民皆が知っているのですよね?」
「……あ、ああ。この様子なら夜も変わらず国民たちも我々も探し回るだろう」
「二人は今日の夜、ジュリアス国王陛下のお屋敷を狙うと話していました。そこを取り押さえることは可能ですか?」
「……現行犯逮捕が望ましいが……この事件を指揮しているエリオ様にはお伝えしても?」
「はい、お任せします。それと、私たちは放火には関わっていません」
「それは、あなた方を見ればわかります。解りました、直ぐにエリオ様にお話してきます」
「よろしくお願いします」
こうして彼らが動く前に、私とアイリスは直ぐにジュリアス様のお屋敷へと向かったのでした。




