第44話 作家とはミステリアスですのよ!
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「纏め上げてきましたわ~!!」
とても機嫌のいい声が玄関から聞こえ、リコネルが帰宅したのが分かりました。
昨日の夜、ボランティア園で働く老人院の方々がいらっしゃったら、送迎馬車を用意すると伝えていたのですが、早速案を纏め上げて朝から出かけていました。
「ご報告いたしますわね!」
「王妃様、護衛騎士も少なくして外出為さるのははやめてください。我々の心臓が持ちませんよ」
「あら、ごめんなさいね。急いでいましたの」
エリオに言われ苦笑いを浮かべるリコネル。
一国の王妃となってもリコネルの行動はあまり変わらず、寧ろ積極的に仕事に打ち込んでおられます。
「それで、ご報告と言うのは?」
「ええ、老人院に向かい、元気なお年寄りで園でのボランティア活動をしたい方々を募ったんですけど、シフトを組んでも余るくらいの人数がいらっしゃいましたわ。取り敢えず一週間通えるようにシフトを組んで、一度に送迎できるのは8人までと決めてきましたの。馬車二台分ですわね」
「なるほど、それを一週間分でシフトを組むことが出来たのですね」
「ええ! 体調不良などがある場合は休んで頂いて、その代わり別の日のシフトの方がヘルプで入ることも決まりましたわ」
「良かったです。先ほど園から連絡が来て、0歳から3歳までの子供の保育士が不足し始めていると連絡があったのですよ。一旦はその方々には0歳から3歳までのお子さんの面倒を見てもらいながら保育士の募集をかけようと思います」
「それが宜しいですわね」
精力的に働く親の助けになるように動くリコネルに感謝をし、尚且つ、ボランティアでも子供の面倒を見てくださるご老人達に後々お礼を言わねばなりませんね。
老人院は現在元王都にも建設中で、これで路上で亡くなるお年寄りが少しでも減ればと力を入れています。
園を含め、老人院もそれなりの規模の建築をお願いしていますし、建設の為には費用は渋ったりはしません。
できうる限り早く、それでいて働いている方々の無理のない範囲でとお願いしつつ、元王都では建設ラッシュが始まっていました。
――その中で1つ立ち上がっている問題が、焼け落ちてしまった学園の建設です。
貴族の社交場、貴族の顔つなぎの場でもある学園を作ることに反対はしません。
ですが、華美なものを要求してくる学園側に、私は眉を寄せたのでした。
学園側の言い分は「将来を担う貴族の為の社交場であるのだから、一流の物を用意すべき」と言う事でした。
私は学園にも通っていませんし、貴族との顔つなぎは当時苦労した記憶はありますが……そこまでして貴族の顔つなぎとは大事なものなのだろかと首を傾げます。
「リコネル」
「何でしょう?」
「元王都にあった学園からの要請書が届いています。華美で一流の物を使った学園を新たに作るべきだという要請書です。リコネルはどう考えますか?」
学園を追放されたリコネルにこんなことを聞くのは気が引けましたし、胸が痛みましたが、リコネルは「そうですわね……」と口にしたのち、静かに口を開きました。
「正直、華美なものなど必要ないと思いますわ。確かに貴族だから美しいものをと言うのは分かりますけど、最低限、礼節に重んじる建設が望ましいと思いますの」
「ふむ」
「そもそも、今は貴族の相手をハイハイと聞いている暇はほとんどありませんし、時間の無駄ですわ。あの方々は求めるならば天井がありませんもの。しかも自分の懐が痛まないのであれば尚更でしょうね」
「確かにそれはありますね」
「質素堅実に過ごせば人としての大事なものも理解できますわ。煌びやかな世界だけが貴族の世界ではないと思いますもの」
質素堅実。
そう口にしたリコネルの言葉には重みがありました。
確かに華やかだけが貴族ではありませんし、華美な学園など必要ないと思いました。
「そもそも、そんなに美しい学園がいいのなら、貴族たちに寄付金を募ればよいですわ。どれほどの寄付金が集まれば彼らの求めている煌びやかな学園が出来るのか理解させれば宜しいですし」
「それもそうでしたね。この要請書には貴族の間で寄付金を募る事も考慮せよと返事を返しましょう」
「それが宜しいですわ」
こうして暫し頭を悩ませていた学園からの要望書は、何とか処理ができそうですね。
私自身が貴族とのやり取りがあまり得意ではないので、リコネルがそばにいてくださって良かったと改めて思う瞬間です。
問題は今後も浮上するかもしれませんが、その時はその時で対応していきましょう。
「それから、明日のリコネル商会の親睦会ですけど、ジュリアス様も来られるんですの?」
「ええ、貴方さえ良ければですが。新人の小説家さんや絵本作家さん、挿絵作家さんなど中々会うことが出来ない存在ですからね」
「フフッ! 確かに小説作家に童話作家とは謎が多いですわよね。人気になる小説の名前は分かっても、作家の名前がいまいち覚えられないとかありますもの」
「そうですね、お恥ずかしい限りですが」
「それが作家の運命ですわよ。世に出ても本人の事は分からない。それが作家であり絵師ですわ」
クスクス笑いながら語るリコネルに、私は「なるほど……」と返事を返しました。
確かにそう思えば不思議な職業ですね。
「作家は姿を見せないのも1つの方法であり、やり方ですわ。姿が見えないほうが小説を楽しめると言うのもありますけど、姿が見えない事でミステリアスさが増して良いと言うのも1つの事情でもありますのよ」
「そうなのですね」
そんな会話をしながらも、私は無粋ながら作家さんに会えると言う事にワクワクしていました。
リコネルを見ていても思いますが、まぁリコネルの場合公の場に出ることが多いので、一般的とは言えませんが……やはりどことなくミステリアスなのです。
作家とはそういうものなのでしょうか?
『ちなみに、我も明日一緒に行くぞ? セクシー小説を書く作家と言うのを見てみたいからのう!』
「ま、まぁ確かに」
一番会うのに勇気がいるのは、セクシー小説作家さんかもしれないと思いました。




