第41話 お仕事モードのジュリアス様、素敵ですわ!
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「ネルファーのご実家が彼を探していたのですか?」
「はい」
それから数日後、エリオからの報告にて、ネルファーの実家が彼を探していることを知りました。
彼の弟が跡を継ぐという話でしたが、その当の弟に子供を作る能力がないことが判明したからだろうとエリオは言います。
賭けでアルジェナを匿ったけれど、生まれた子供は魔道具により、彼の子ではないと判明しています。そうなると、直系の、不出来な息子であっても戻ってきて欲しいのでしょう。
「既にここ、王都に潜んでいることを考え、部下たちが総出で探していますが……」
「見つからないのですよね?」
「今のところは。もう屋敷に連れ戻された後かも知れません」
屋敷に連れ戻されたとしても、社交場から追い出されたような身では、貴族の場に復帰することは不可能でしょう。何より職をどうするのか? と言う問題もあります。
「弟さんが不憫でなりませんね」
「ええ……」
そんな会話がなされた数日後の事でした。
ネルファーの弟である、シャリファー様から書簡が届いたのです。
そこには、兄であるネルファーが家に戻ってきたことが書かれてあり、お家騒動に発展しているとのこと。
そしてシャリファー様の奥方様にネルファー様のお子を産ませようとしていることが書かれてあり、私は眉を寄せました。
ネルファーだけではなく、彼の姉であるエリファー様はその事に乗りきらしく、シャリファー様夫妻に我慢しろと迫っているのだとか。
国王が介入すべき問題ではありません、ですが放っても置けなかったのです。
姉であるエリファー様は、以前私の第二妃に名の上がった女性ですが、とても相手できる相手ではありませんでした。
ですが……。
「ネルファーは公爵家に放火したと言う問題があります、これを彼の御父上たちがどう判断するのか聞いてみたいところですね。どちらにせよ、息子を守るにしても多額の賠償が必要となるでしょう」
「では城に呼びますか?」
「ええ、そうしてください。できればシャリファー夫妻にも参加をお願いしたいところです」
そう告げるとエリオは直ぐに動き、数日後には元騎士団の団長であるクリファー様とシャリファー夫妻が城へと謁見にやってまいりました。
最初は軽い挨拶で済ませていたのですが、明らかにクリファー様の顔色は青い。
私たちが現状を把握していることを理解しているのでしょうか。
「お変わりなさそうで何よりです。ところでネルファーがお屋敷に戻ったという話を耳にしましてね」
「それは……」
「シャリファー様がお子が作れない体であることも報告が上がっております。その上で、シャリファー様の奥方にネルファーのお子を産ませようとしているという情報が入ってきているのですが、まさかそのような鬼畜な所業を貴方がするとは思いません、ですよね?」
笑顔で問いかけると、脂汗を流しながら「滅相もありません」と口にしたものの、シャリファー様が「発言をお許しください」と口にしたので許可を出しました。
「父は妻を兄、ネルファーに渡して子供を産ませろと言っています……妻も私も何とか父に思いとどまってもらおうと必死なのですが」
「黙れシャリファー!」
「私が発言を許したのはシャリファーです、クリファーは黙っていてもらえますか?」
私の言葉にクリファー様は唇を噛み、シャリファー様は更に言葉をつづけました。
「姉のエリファーもそれに賛同し、私たちは屋敷を出て平民に身を落とす事も考えております」
「勝手な事を」
「クリファー、発言をお控え為さい。シャリファー、それは本当なのですか?」
「はい!」
力強く返事をした瞬間、シャリファー様の奥方様は泣き崩れ、これが事実であることが判明するには十分なものでした。
「そうですか……なんと悪魔のような所業を」
「シャリファーの口からの出まかせです!」
「ですが、こちらの調べた内容と一致しております。ああ、ネルファーを跡継ぎに復帰させたいのであれば、公爵家への賠償金を支払ってくださいね。あなたが野放しにしている間に公爵家に向かい、火を放ったそうなので賠償金はとても高いでしょうが」
「な!?」
初めて知る内容だったのでしょう。クリファーは目を白黒させ、顔色を真っ青にさせました。
既にラフェールとモンドが公爵家で今後の処遇を決める話し合いが行われていることも伝えると、顔を青くしたり赤くしたりと忙しそうにしておりました。
「それで、ネルファーを跡継ぎにした場合ですが。シャリファーご夫妻は辺境にある王都にお越しになることは可能でしょうか? 平民に身を落とした場合でもそのままでも構いません。お屋敷はこちらでご用意しましょう。ネルファーの賠償金で屋敷を設けることは難しいでしょうからね」
「私たちは兄を跡継ぎとするのであれば、家を出る所存です」
「分かりました。ではこちらで家を用意します。必要家財などは平民に落ちれば屋敷にあるようなものは使えませんが、あなた方には是非、王国のためにやって頂きたい仕事があるのです」
クリファーの事など無視して話を進めると、シャリファー夫妻は首を傾げつつ「私たちにして欲しい仕事?」と口にしました。
「現在、我が王国では園を創立して魔力操作を教えていることはご存じかと」
「「はい」」
「二人とも魔力操作は出来ますよね? そして、二人とも面倒見がいいと評判です。ですので、魔力操作を教える教師として園で働いてもらおうと思っているのです」
「なるほど……」
「魔力操作には個人にあったコツがありますものね……」
「どうです? 出来そうですか?」
そう問いかけると、二人は揃って良い返事をしてくださいました。
それに慌てたのはクリファーですが、国王からの依頼ともなれば中々反論することも難しく、何度も「しかし」と口にしていました。
「しかし! シャリファー達が平民に身を落とす事は」
「そうですね、本来ならば必要のない事でしょう。まともな親ならば息子夫妻をここまで追い込むこともなかったことでしょう。貴方が今考えるべきは、公爵家への賠償金の額をどこから捻出するかを考えた方が宜しいですよ。シャリファー夫妻には、用意が出来次第、辺境の王国へと来てもらいますので、通達をお待ちください。もし、それまでにナニカ起きれば、国王である私が動きましょう」
「「有難うございます!!」」
私の脅しともとれる発言にクリファーは既に顔を青から白に変え、私は笑顔のシャリファー夫妻に笑顔を送りました。
これで、リコネルが頭を悩ませていた教師問題は解決しますね。
良い人材が見つかってホッと安堵しました。
そして何より。
「ジュリアス国王陛下、本当にありがとうございます!」
「助けていただき、本当にありがとうございます!」
涙を流しながらお互いを支えあう、この夫婦を救えることが出来てよかった……。




