第4話 騎士すら呆れる王子とアルジェナの事
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――とある騎士side――
その頃、王城ではリコネル様がジュリアス卿と婚約した話題で持ちきりだった。
――本当に良かったのか?
――あの見目麗しい姫君がアホ王子の所為で。
――あの方にどれほどの価値があるのかアホ王子は知らないのか?
そう囁かれる声を聞くたびに、王太子であるチャーリーは憤怒した。
「どうして誰もリコネルのしでかした様々な事を信用しない! それに皆、私をアホ王子と侮辱して!」
自室で謹慎を喰らっている王太子は、苛立ちを抑えきれずコップや皿を室内に待機していたメイドに投げつけ二名程怪我をした為、今室内にいるのは鎧を着けた屈強な護衛騎士。
俺達はあきれた表情を隠す事もせず、目の前で雄叫びを上げながら物に当り散らす次期国王を見つめた。
「それに、アルジェナを別室に監禁するなんて! 彼女に誰も危害を加えないと誰が約束できる! 父上か? 父上なんて飾りの王だろう!? 私が直ぐにでも王位に就くべきことだ! いらぬ政策も増えていると聞くからな!」
いらぬ政策とは、貧困層への待遇改善や、病院の建設であった。
それをさも必要の無い政策と考える時点で、王としての素質は彼には無いと俺達は溜息を吐く。
病院の建設は特に大きな事業として今進んでいるのだ。
近年、疫病が近隣の村や他の領地で発生し、村にいたっては幾つか焼き払ったと言う話も記憶に新しい。
村を焼き払ったと言うのは陛下が勝手に決めたことであって、後にジュリアス卿から酷く批難され、今後の改善点として病院の建設を進めることになったのは城で働くものたちならば半数は知っていることだろう。
「第一リコネルは一体何なのだ! 私に興味が無い? 魅力が無いとでも言いたいのか!? 少しは私に謝罪する気持ちがあれば第二妃として置いてやっても良かったものを! それをあの腐ったジュリアス卿の元へ嫁ぐなんて馬鹿げた事を言いだすとはな!」
しかし、俺達からすればリコネル様の考えは真っ当な考えだと思えてしまったのだ。
未来の無い国にいるよりは、例え見目麗しくなくとも、第二の王都と呼ばれて発展している辺境伯爵のもとへ嫁いだほうがどれだけ幸せだろうか。
リコネル様が王都から辺境伯爵のもとへ行き、婚約した事は直ぐに城中を巡り、最早王子の未来は暗雲しか立ち込めていないのではないのかと噂されている。
更に言えば、王子が愛するアルジェナは王子がいなくなった途端、態度を豹変させソファーの上で胡坐をかき、高級な紅茶を幾つも頼み、お菓子や料理をそれまた豪快に床に食べ零しているほどマナーがなっていなかった。
そんな女性が王妃となる訓練に耐えられるのか?
まず無理だろう。
王子は本当にアルジェナの何処に惚れ込んだのか、誰にも解らない。
しかし、誰よりもお似合いの二人だと城では笑いものにされているのであった。
そんな事を一人考えていた俺は、交代の騎士がやってくると扉の外で現状報告及び、今どんな状態になりつつあるのかを聞いてみた。
すると――。
「え? リコネル様は既にジュリアス卿と婚約されたばかりだろう?」
「ああ、だがリコネル様の商会はこの王都での店を畳み、辺境伯爵の領地で新たに商売を始める為に動き出しているらしい。そこでしか買えない小説や絵本も出版するらしいぞ」
「マジか! 今度娘に新作の絵本を買ってきてくれって言われてるんだよ……王都で売りに出ないならどうすりゃいいんだ?」
「こりゃ王都にとっては大打撃だな……提携店とかも無いんだろう?」
「辺境伯爵の領地にでも行かない限りは手に入らない可能性が高いなぁ……」
「全く、碌な事をしない王子だぜ。それよりアルジェナて女、さっき何やらかしたと思う」
「おいおい、昨日の今日だぜ? もう何かやらかしたのかよ」
「それがな――」
アルジェナは今度は国王が飲むような酒を持ってこいとヒステリーを起こし、それを聞き入れなかったメイドに皿を投げつけ、メイドは大怪我を負ったらしい。
『私は未来の王妃よ!? 何で誰も言う事を聞かないのよ! アンタ達全員死刑にしてやるわ!』
そうまくし立て暴れ、女性騎士に押さえつけられ今では縄で縛られているのだとか。
流石我が王子が選んだ女性だ。リコネル様なら絶対にそんな真似は為さらない。
そんな二人の婚姻はというと――王子に言いなりの陛下も流石に結婚を許すことが出来ないと反対派に入ったらしく、今のところ王子とアルジェナの婚姻は無理だろうと言われている。
また国賓や貴族の前でのあの暴言、そしてリコネルからの言葉により、王子としての地位は落ちていた。
「この国、今後どうなっちまうんだ?」
「陛下にはあのアホ王子しか子供いないんだろう?」
「陛下もまともな政治できねーじゃねぇか。今の政務はジュリアス卿がやってくれてるんだろう?」
「いっそジュリアス卿が国王になってくんねぇかなぁ」
騎士たちの未来を憂う言葉が虚しく廊下に響く。
だがそれは部屋の中にいたチャーリー王子にも聴こえていて――。
「どいつもこいつも私を馬鹿にして――!」
その後次の交代の騎士が来るまでの間、王太子の部屋の窓ガラスがほぼ全部割れるほどチャーリーは暴れ尽くしたのだった。