第39話 少しだけ落ち着きを取り戻しつつありますけれど
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それからの日々は、元王都にある城を借り拠点にしながら、新国王の就任挨拶など、色々と公の場に出ることが多くなりました。
元々公の場に出ることは、そう多くなかったのですが、国王となれば式典だのと色々と出ることも増えるでしょう。
あぁ、またリコネルの仕事が増えてしまう……。
仕事好きなリコネルは楽しそうですが、あまり無理をしないで欲しいと思ってしまいます。
そして新国王の挨拶の際には、徐々にリコネルに似てきたクリスタルも共に立つことが多く、貴族や国民は「ジュリアス様はクリスタルに認められし国王」と知らしめることが出来たとクリスタルは喜んでいました。
余程、私が王家から追い出されたことが気に入らなかったようです。
こうなってくると今度は年ごろの娘を持つ貴族たちは「娘を第二妃に」と持ち掛けてくるようになりました。
それを毎回断っていたのですが――。
『ジュリアスにはリコネル王妃だけで十分じゃ、余計な娘は王家にいらぬ』
クリスタルの言葉により、貴族たちは苦虫を噛むような表情を隠しきれずにいましたが、母なるクリスタルからの言葉は重く、第二妃の話は無くなりました。
ホッと安堵した私をよそに、屋敷に帰ってからクリスタルとリコネルがハイタッチしている姿を見てしまい、思わず微笑ましくその姿を見つめてしまいました。
その後のリコネルはというと、王妃の仕事をこなしながら、リコネル商会の運営もシッカリこなしておりました。
また【王妃が行っている仕事のスタイル】【リコネル王妃が進める働き方改革】と言われ、リコネル商会を手本に従業員の在り方や給料面、そして従業員が育児休暇を取る際の手続きなど、梃入れが入るようになります。
一度仕事を辞めてしまえば二度と雇ってもらえないのが普通だった元王都とは違い、領地を治めていた頃のやり方を王国の在り方とした時、国民に少しだけ幸福が舞い降りたようでした。
また他の貴族領でも、チャーリーの意味不明な重税などの置き土産をなくし、元の状態へと戻すと安心したようです。
さて、私とリコネルを支える宰相ですが、リコネルの兄であるカティラス様が就任なさいました。
前国王に仕えていた宰相及び騎士団団長は変更し、新たな人員の配置替えとなりました。
無論騎士団団長の方は抵抗が凄まじかったですが、アルジェナを匿っていること、そして、王妃であるリコネルを陥れた罪を考えれば妥当と判断しました。
さて、件のアルジェナですが、無事に男児を産んだらしく、そして残念な事に、魔法での検査にて、騎士団の長男の血は引いていなかったようです。
よって、子と共に屋敷から追い出され、今ではどう過ごしているのかも不明となっております。
今更、アルジェナのその後を追ったとしても価値はなく、放置していても良いだろうと判断しました。
ただし私なりの制裁として、各教会、及び孤児院にアルジェナの似顔絵を送り「危険人物」として報告だけはさせて貰いました。
今後どう自分を律して生活するかは、彼女次第でしょう。
「ふう……まだまだやる事は多いですが、まずは一段落ですかねぇ」
「お疲れ様ですわ」
『それよりジュリアス、早くお子を作るのだ』
「ははは」
疲れ果てて頑張る気力がまだ沸かないとはなかなか言えません。
「出来る限りクリスタルの期待に応えられるよう努力します」
『うむ、せっかく人間の姿を保ってお主たちのそばにいるのだ。次代の顔を見なくては安心して眠りもできない』
「あら、クリスタルは寝なくても大丈夫じゃありませんこと? だって徹夜して小説読んだ~とか、今度こんな話を書いてくれ~だの言ってますもの」
『好きなことと安心して寝るのは別問題じゃ』
「別ではありませんわ。そんなに安心して眠れないのなら頑張って徹夜なさって?」
『か――! リコネルは相変わらず手厳しいのう!』
そう言って降参だと言わんばかりに手を挙げたクリスタルに、リコネルはクスクスと笑いました。
「そんなにお暇でしたら、コンテストに応募されている小説でもお読みになる? なかなかの力作揃いで皆さん困ってますの」
『それは良い、我でよければ幾らでも読んでやろうではないか』
「助かりますわ」
リコネル、使えるものはクリスタルでも使うその心意気、流石です。
「それとジュリアス様、近々園に視察に行きたいのですけど宜しいかしら?」
「視察ですか?」
「ええ、文字の読み書きや計算はいいとして、プリザーブドフラワーを作れるだけの魔力操作が出来る方が何人かいらっしゃるようなの。実際会ってみたいですわ」
「よろしいですよ。ついでですし、ベアルさんにも会って花屋の視察にも行きましょう」
「ええ!」
久しぶりの外への視察。
王都炎上から色々と忙しい日々を送っておりましたが、少しだけゆっくりできそうだと二人で喜んだけれども――そこで思わぬアクシデントに見舞われるとは、思ってもいませんでした。




