第36話 その頃わたくしは……
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――リコネルside――
「リコネル王妃様……我々は今後どうすれば良いのでしょうか……」
「そうですわね、まずは――」
こうして、護衛騎士に囲まれわたくしは避難民の方々を領民にするための手続きに入りましたわ。
最後の通達だったんですもの、鞄には必要書類を一式持ってきていて良かったとホッと胸を撫でおろします。
この辺境領では、他の領ではあまり見ない『住民登録』と言う制度がありますの。
領の住民は老人から赤子まで全てが登録してあり、これで年齢まで把握してあり、住民税と言う税も存在しますわ。
ただし、お年を召した方や赤子までは住民税は取らず、また税率も少ないのもこの領での魅力の1つ。
他の領では、老人から働けない赤子、子供までの税を要求するところもありますわ。
悲しいことに、元王都がそのタイプで税収をあげておりましたの。
まずは住民登録を済ませること。
そして、住民税については働けない老人や子供の分は取らないこと。
最後に、税率は元王都より良心的な値段になっていることも伝えます。
その他の詳しい話は、領民になったら【役所】へと赴き、詳しい話を聞くことを伝えましたわ。
その為に、元避難民の方々を集めての説明会を開くように、役所に通達しておくことも伝えると、避難民の方々はホッと胸を撫でおろしましたの。
「流石、第二の王都と呼ばれていただけはありますな」
「ふふっ だってジュリアス様の治めていた領地ですもの。当り前ですわ!」
「それに、リコネル様の素早い判断にも我々は不安を和らげることが出来ました。老人は老人院へ、子供や文字の読み書きや計算ができないものは園へ……でしたかな」
「母子家庭、父子家庭の方々には一時的に孤児院か教会で過ごしてもらいますわ。何よりあなた方の住む場所を用意せねばなりませんもの。やることは沢山ありますわね」
そう、避難民を領民として受け入れると言う事は、今まで避難所で生活していた彼らの住む場所を用意せねばならないと言う事。
大きな事業になりそうですわ。
「後で役所の者をこちらに派遣しますわ。わたくしは今から屋敷に戻り、ジュリアス様にあなた方の住む場所の提供をお願いしてまいります」
「よろしくお願いいたします。リコネル王妃様」
「ええ、領民を見捨てることは致しませんわ」
そう言って微笑むと、わたくしはジュリアス様が馬車で帰ってしまったことを思い出し、馬を貸して貰いましたの。
これでも公爵令嬢。乗馬くらいは嗜みますわ。
ドレスがシワになるのも気にせず馬にまたがり、わたくしは護衛騎士たちと共に馬を走らせ屋敷まで向かいましたの。
けれど――玄関を開けた瞬間、目に飛び込んできた光景に息を呑みましたわ。
玄関に鎮座する、巨大なクリスタル……王族にしか見えないクリスタルに言葉を失いましたの。
でも……なぜわたくしに見えますの?
『なぜ見えるか不思議と見える』
聞こえた声に周囲を見渡すも声の主はいらっしゃらず、まさかと思いクリスタルを見つめると、クリスタルは真っ赤な色から静かに、静かに色を変え……柔らかくも優しい色合いに変わりましたわ。
『我の認めし王妃よ。ジュリアスを頼むぞ……あの者は少々優しすぎるからのう』
「否定は致しませんわ。けれどそこがジュリアス様のジュリアス様たる証ですわ」
『厳しい判断を迫られることもあろうが、お主が支えてやるのだ。さぁ、次なる問題はやってくる、急ぎジュリアスの許へ行け』
次なる問題、それが気にはなりましたけれど、わたくしは頷くとシワのよったドレスのままにジュリアス様の執務室へと駆け込み、今後の対策に追われましたの。
元王都の有様は、本当に酷いものでしたわ……。
家屋は焼け落ち、死傷者は多く怪我人も多い……これがあの穏やかなクリスタルが起こした事とは到底思えないほどの悲惨な状況。
顔を顰めるジュリアス様のお気持ちも良く解りますわ。
「城は……どうなりましたの?」
「現在詳しい状況を調べていますが、王と王妃はお亡くなりになったと」
「……そうですの」
「クリスタルの仕業でしょうね。宝物庫及び書庫は無事だったと連絡が入っています。寧ろ何かしらの封印でもされているようで、これは私が赴き封印を解くしかないでしょう」
「まぁ……」
「それと、公爵家から連絡が入りました。チャーリーは無事だと」
その言葉に目を見開くと、ジュリアス様が何かの言葉を口にしようとして何度も閉じる姿を見て、一体何があったのかと心配になりましたが――。
「公爵家で色々やらかしているようです。こちらで引き取るわけにも行きませんから、王妃のご実家に行ってもらおうかと思っております」
「どういうことですの? クリスタルから次代と認められなかったからですの?」
「いいえ」
「ジュリアス様?」
不安になり問いかけると、ジュリアス様は声を絞り出してわたくしに教えてくださいました。
――チャーリーは王家の血を継いでいないこと。
そして、王妃の不貞の子であることを教えてくださったのです。
驚きのあまり声を失うわたくしと、苦痛の表情を浮かべるジュリアス様。
そして、国王はクリスタルの祝福すら受けていない国王であったことまでも……。
「では……本当はジュリアス様が?」
「ええ、クリスタルに認められた次代は私だったのだとクリスタルは言いました。そして、弟は道化であったと……何とも心の整理がつかないのです」
それもそうでしょう……。
わたくしたちが国王と崇めていた相手が国王であらず、王家から追い出される形で辺境領を治めることになったジュリアス様こそが国王として認められていたなど、国民が知れば大騒ぎになってしまいますわ。
何より、チャーリーが王家の血すら継いでいないこと。
これは公になれば、お亡くなりになった元王妃様の家も糾弾される事件ですもの。
内々で済む話ならまだしも、今後どうしていけばいいのか一瞬悩んだものの、それは、チャーリーの行い次第だと話を纏めましたわ。
「それで、領民となる避難民の方々の住む場所ですけれど……」
「めぼしい所は付けてあります。あとはその土地を我が領で」
「我が領ではありませんわジュリアス国王陛下」
「……どうにも慣れなくて、いけませんね」
わたくしの突っ込みにジュリアス様は苦笑いを浮かべ、襟を正すとサリラー執事を呼びましたの。
そして直ぐに、土地を王国で買い取ること、そして直ぐに領民となる避難民分の住宅の建設指示が飛び、サリラー執事は直ぐに手配に動きましたわ。
「これから忙しくなります。リコネル、無理をしない程度に私を手伝ってくださいますか?」
「無論ですわ」
こうして炎上した元王都への対応と、領民へと変わる避難民の対応に追われる日々を送ることになりましたの。
それはとても忙しい日々の始まり……。けれどその頃チャーリーは――。




