第34話 その頃王都ではとんでもないことが起きましてよ!
――護衛騎士side――
遡ること数時間前――。
王都にある城では、チャーリー王太子を連れた陛下が、神秘の間と呼ばれる地下にやってきていた。
この神秘の間の奥には、此処を王都と認める印であるクリスタルが眠っている。
王の血筋にしか見えないとされている不思議なクリスタル。
私達のような護衛騎士には一生見ることが出来ないだろうが、せめて空気だけでも触れてみたいものだ。
王にしか開くことが出来ない扉を、陛下が開き中に入ると、そこは真っ暗な世界だった。
本来なら眩いほどの光りを放つクリスタルがあると言うが、それは国王とチャーリー王太子にしか見えないものだろう。
王の直系のチャーリー様がどうはんのうするのか楽しみだった。
この時までは……。
「おぉ……まだクリスタルは此処にある。怒りに赤く燃えるクリスタルだが、まだ此処に……」
「ナニを仰っているんです父上、何も無い真っ暗じゃないか」
「……なんだと?」
その言葉に耳を疑ったのは、私達護衛騎士だけではなかった。
「この真っ赤に燃えるクリスタルが何故、王太子であるお前に見えないのだ!」
「だから、一体何を仰っているのか解りません。なにも無いただの洞くつではないですか」
「チャーリー……まさかそんな……」
フラリと足元が揺れる陛下を支えると、チャーリー王太子はそんな王を馬鹿にしたように見つめた。
「ボケたのではありませんか? 早々に私に王位を譲るのが懸命かと思われますよ?」
「嗚呼……アァ……王妃、お前は私を裏切ったのか……」
「ですから、一体何を言っているのか」
『解らぬであろうな』
「!?」
突如響いた声に、その場にいた誰もが周囲を見渡した。
すると――何も無いところから炎が揺らめき、そこから現れたのは一人の人間だった。
不思議なことに、男とも女とも取れない、不思議な見た目であった。
ただ解るのは、透明に透き通るような白い肌に、白く輝く長い髪……真っ赤に染まっている瞳が印象的だった。
「誰だ貴様は!」
『誰だとはまた可笑しな事を言う。王の資格なしの貴様の為に態々人型になってきてやったというに……やれやれ、国王がコレで、次の世代もいないとなるとこの国も終わりだのう』
「嗚呼……アァ!」
暴れ狂ったかのように私達護衛騎士を払い除けた国王は、足を縺れさせながらその人物に縋った。
「終わりではない……終わりではないのです!」
『往生際の悪い……お前の母への罰だけでは足りなかったようだ』
その言葉と同時に、国王は炎に包まれた。
異様な光景に我々は動くことが出来ず、国王の悲鳴が木霊し、チャーリー王太子は腰を抜かして失禁していた。
「陛下!」
『アレはもう陛下とは呼べぬよ。この国も王都とは認める事は出来ぬ。次なる王都へと我は旅立とう。この場所は国ではなく領地になるのだ』
「何を言っているのだ! 勝手な事は許さんぞ!」
震える声で叫んだチャーリー王太子に、ソレはゴミでも見るように王太子を見つめ、馬鹿にしたように笑うと続いて話した。
『そもそも、お前には王の資格など無かったのだよ。なにせ、王の血を受け継いでおらぬのだから』
「……どう言う事だ?」
『お前の母親が不貞を働いて出来た子よ。王の血はリコネルが次代を生むであろう』
「リコネル……リコネルの子だと!? リコネルは私の子を産むのだ! 何を馬鹿な事を言っている!」
『哀れな道化よ。リコネルはお前には相応しくは無い。お前も血の繋がらないあの男のようになりたいか?』
そう言うと、全身に火傷を負った国王を指差して見せると、怯えた表情のチャーリー王太子を見て笑い声を上げた。
『此処はもう王都ではない。王都は辺境伯爵領と今は言われているジュリアスの元がそうなるであろう。ジュリアスこそが王に相応しいのだ』
――その瞬間、一気に炎の渦に巻き込まれた。
チャーリー王子は失禁して動けず、何度も「嘘だ」と口にしていたが、私達が助けられたのは……奇しくもチャーリー王子だけだった。
王は既に事切れ、王妃はかの者の手に堕ち、燃え盛る王都を幾人の人々が悲鳴を上げながら逃げ回り、命からがら見つけた馬で逃げた先は――王都から程近い領地にある公爵家領だった……。
その瞬間、血に、体内に、記憶に、全てにソレが伝わったのだ。
――王都は、クリスタルは、辺境伯爵である、ジュリアス様の許へと向かったのだと。




