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断罪された悪役令嬢は押しかけ女房~第二の王都と呼ばれる辺境領地で、彼女の夢を応援してたら第二の国になりました~  作者: 寿明結未(旧・うどん五段)
悪役令嬢は愛妻なんです!

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第31話 優しくて悪魔さえも手懐けてしまう領主様、素敵ですわ!

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 避難所からの帰り道、リコネルは何時も以上に言葉少なく私の前に座っていました。

 馬車に揺られながら、私も何を話そうかと頭の中でグルグルと考えてしまいます。

 リコネルが避難民に発した言葉は、本来私が発せねばならない事でした。

 悪役を妻が買ってでてくれたのです……本当に自分が不甲斐なく、情けなく思います。



「……リコネル」

「謝罪の言葉ならば聞きませんことよ?」



 先に言われてしまっては言葉に詰まります。

 ですが予想していたのでしょう、リコネルはクスクスと笑うと「もう、困った方ですこと」と慈愛ある微笑みを向けて下さいました。



「今回のあの場では、私が悪役になるほうが都合がとても良かったのですわ。領主が怨まれてはたまったものではありませんもの」

「かといって、妻である貴女がそれを引き受ける事も無かったのではありませんか?」

「事情を知らないお馬鹿さんたちが多すぎたのも原因の1つですわ。お気になさらないで」



 苦笑いをするリコネルに私は言葉が詰まりました。

 確かに法律を知らなかった避難民の多さには驚きましたが……やはり法律のような事柄は良家でしか教育されない事柄なのでしょうか……。

 基本的に貴族には法律はある程度教育されます。

 その教育を放棄している貴族もいるようですが、リコネルの実家に火をつけた彼らの場合、元貴族ですし、何よりアホ王子の友人だった方々なのでその程度なのでしょう。



「私の妻を悪魔と呼んだ避難民を……私は受け入れることが出来ないのです」

「まぁ、一体どうしましたの?」

「貴女は避難民に不幸が起きないように悪役を演じました。本当はとてもお優しい女性なのに、悪役に仕立てたのは私なのです。私の不甲斐なさが、貴女を悪魔と呼ばせてしまった……。なんと情けない夫かと……嫌気が差します」



 私が目を瞑り、搾り出すように口にしたその時でした。

 柔らかく優しい温かさの小さな手が、私の大きくゴツゴツとした手に舞い降りたのです。



「馬鹿な事を言わないで下さいませ」

「リコネル……」

「領主様はお優しい。それを知らしめる為には必要なことですわ。そして、その領主様には悪魔のように恐ろしい妻が必要ですの。何故だかお解り?」

「……何故です?」

「領民を纏め上げる為ですわ。そしてその悪魔を飼いならすだけの力を保持している事も領民に知らしめる為に必要なことですわ」

「リコネル……」

「優しく、悪魔さえも手なずけてしまう領主様……素敵じゃありませんの! これ、売れますわ!」

「そっちですか!?」



 行き成り小説スイッチが入ったリコネルに思わずツッコミを入れてしまいましたが、リコネルは嬉しそうに笑いながらメモ帳を取り出し、先ほどの内容を書き留めました。

 流石商魂逞しいと言うか、小説家というかなんというか、もうなんだか自分が情けないと思っていたことが、どうでも良くなってしまいました。



「そうですね、私は優しくも悪魔を手懐ける領主であり続けようと思います」

「素敵ですわ! 流石わたくしの夫ですわ! 最高ですわ!」

「リコネル、落ち着いてください」



 小説のネタのほうに頭が既に走っているリコネルにクスクスと笑い、屋敷まで帰ったその夜、私達は近々オープンする『園』について語り合いました。

 0歳から6歳までの子供を預かる園で働く人員の確保も急務でしたが、リコネル商会のまとめ役の一人であるディランとディロンに人選を頼むことになりました。

 人を見る目は確かであるディロンと兄弟であるディランは特に、その辺りの嗅覚が鋭いのだそうです。



「園で働く女性は年齢層は幅広く取りますわ。お年を召して教員を辞めた方も採用予定ですの」

「魔力操作の教員としてですね」

「ええ、幅広い年齢層の大人と接することで子供達も成長しますし、同じ年代、違う年代、兎に角子供が集まれば集まっただけ刺激が強く成長しますわ。そして年中さんや年長さんにはお仕事も頼もうと思ってますの」

「お仕事……ですか?」

「以前、子供達にもできる簡単なお仕事をと話しませんでした?」

「話していましたね」

「その1つですわ!」



 そう言ってにこやかに一枚の書類を手渡したリコネルに、私はその内容を読んで驚きました。

 そこには子供達にお手伝いをさせる、お手伝いを覚えると言う名目の元、家での洗濯物を持ってきて良い事と、その洗濯を子供達に遊びながら覚えさせようと言う内容でした。

 無論子供の数が多くなる事も視野に入れ、園児達の家族の洗濯物は曜日で子供達を絞り、洗濯するものを分ける事も書いてあり、尚且つ洗濯物には家のものだと解るようにマークなり名前なりを縫い付けておく必要がありますとも。



「屋敷を見ていて思いましたの。洗濯って大変ですのねって。それで、子供達を預かってる間、有り余る元気を洗濯物に使ってしまおうと思いましたの。園はそれなりに大きい軒下も多いですもの、雨の日でも洗濯物が出来ますわ。乾かすのは魔力操作の練習にも使えますし一石二鳥でなくて?」

「確かにそうですね」

「お勉強も出来てお家の手伝いも出来て一石二鳥にもなりますわ!」



 そう言って嬉しそうに語るリコネルに私も頷き、承認の判子を押しました。

 無論、子供が熱を出したりすれば親に迎えに来て貰わねばなりませんし、熱の高い子を預かる事も来ませんが、一先ずはこれで女性の働き方も変ることでしょう。


 何より、父親しかいない父子家庭においても有効に使うことが出来ます。

 昔ほどではないにしろ、出産で命を落とす女性も多く、父子家庭もそれなりに多いのが現状です。



「園の方も本腰を入れてやっとスタート出来そうですわね。やることが多くて目が回りそうですけど頑張りますわ!」

「そうですね、ある程度人に任せられるところは任せましょう。信頼できる相手をご用意もしておきますよ。何せリコネルは商会運営もありますからね」

「頼みましたわ!」



 そう言うと、リコネルはそのまま「小説の執筆ですわー!」と部屋に戻ってしまわれました。

 今夜はお預けですね……と、少しだけションボリしましたが、リコネルのエネルギー供給が出来てしまったのですから仕方ありませんね。



「その内、私とリコネルの話が世間に小説という形で暴露しそうですが……」



【領主夫妻の暴露本】……そうなったら諦めましょう。

 小さく溜息を吐き、今日一日の出来事を思い出し、やはり出来た妻を持ったものだと神に感謝した数週間後、リコネル商会の運営する花屋がスタートしました。



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