第30話 悪役でも悪女でもなんでもござれですのよ?
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我が領地でも、カティラス様が仰っていた『村問題』が始まりつつありました。
由々しき問題であり、絶対に阻止せねばならない問題に直面し、私とリコネルは避難所にいるレゴラスの元へと急ぎ向かうことにしたのです。
王都からの避難民問題は大きな問題の1つですが、それが村になってしまっては国の法で裁かねばならなくなります。
避難民はあくまで避難民。
いずれは元の場所へと帰るもの。
そう決まっている以上、村を作る事は許されないのです。
急な私達の訪問にレゴラスは驚いたようですが、村の建設を進めているのか否かを聞いた際、渋い顔をしながらも頷かれました。
「避難民が村を作る事は国の法で禁止されています。重大な法律違反である事はご存知ですよね?」
「はて? そうなのですかな?」
「ええ、学を修めているレゴラスなら知っている事実だと思っていたのですが」
とぼけた様子で答えるレゴラスに私は心配して声を掛けましたが、私を甘く見ているのかニヤニヤとした表情で「法律ですか」と答えます。
「国自体が機能しておらぬのに、法も何もあったものではないだろう?」
「ですが、国に属する各領では法律を守る義務があります」
「義務ですかな。義務で避難民を追い出すというのですかな?」
「避難民としている間は問題ありません、それが村になっては問題なのです」
何度説明しても聞かないレゴラス。
その後ろには武装した避難民が数名立っており、護衛騎士団と睨み合いが続いています。
なんとしてでも村を作ろうとする避難民、国の法を守るべき領主とのやり取りは続きましたが話は一方通行でした。
「ですから――」
「ジュリアス様、よろしくて?」
今にも一触即発な雰囲気の中、リコネルは落ち着いた声色で私に問い掛けました。
レゴラスもリコネルが怯える様子すら見せない事に驚いた様子でリコネルを見つめています。
「領民になりたくも無い、でも村を作りたい。これで合ってますの?」
「そうだとも、私達は誇りある王都の生まれだ。辺境領に入ることなど考えられない」
「解りましたわ。そこまで王都に未練があるのでしたら、王都に未練がある人数を近々集めて置いて下さる? 王都にお返ししますわ」
「何を言う!」
「我々は此処に村を!」
「村を作っても宜しくてよ? 斬首刑になりますけれど文句はありませんわよね? わたくしがその様子を観に来て差し上げてよ? 一人ずつ、妊婦も老人も子供も全員の首が刎ねられるシーンを、歌劇でも観るように見学しますわ」
ゾッとする言葉を発したリコネルに、武装していた避難民は武器を握り締め互いに顔を見合わせています。
どうやら、法を犯した場合の処遇を知らなかったようですね……。
「まさか、ご存知ではなかったのかしら?」
「な……何を」
「他の領で無断で村を作る場合。いいえ、避難民が避難場所で村を作る場合、国の法によってその避難民は斬首の刑に処される事。そして村は焼き払うことが決まっている事を知らなかったのかと聞いているのですわ」
初めて知った避難民も多いのでしょう、場に緊張と動揺が走りました。
「それを知っていて領主であるジュリアス様にその様な態度を取っているのでしょう? 皆さん斬首刑を望んでおられるようですし。斬首刑を望まない方々は王都へお返ししますわ」
「ではそれでは避難した意味が」
「避難場所は領民の善意で用意された物。避難民の衣食住は領民の善意の元行われていますわ。そこに悪意で返すのでしたら……お年寄りも妊婦も子供も、訳隔てなく斬首刑ですわ」
清々しい程の笑顔で言ってのけたリコネルに、避難民からは「悪魔だ」と呟く声すら響くほど。
ですが、リコネルはその言葉に微笑み「それで」と口にしました。
「何時、斬首刑にされたいんですの?」
「馬鹿な事を言うな! 生きる為に逃げてきたのに斬首刑だと!?」
「法律ですもの、仕方ありませんわよね」
「そんな法律なんて」
「国は法律があって成り立ちますわ。その法は国王であろうと全てに平等。ですから、避難民から法律を破るものが現れるとしたら法で裁くのは道理ですことよ? 何をうろたえてますの? まさかジュリアス様はそんな真似を為さらないとでも? それこそジュリアス様を馬鹿にしてらっしゃいますわ。それに、例えジュリアス様が最後まであなた方、避難民を守ろうと動いたとしても……妻であるわたくしが許しませんわ。等しく平等に、斬首刑にして差し上げますからご安心なさって?」
此処まで言われた避難民及びレゴラスは口を開けて呆然とし、リコネルのクスクス笑う声が響き渡ります……。
「わたくし、結婚前は悪役令嬢でしたけれど、結婚したら悪魔になりましたの。領の為の斬首刑は仕方ない出来事ですわ。悲しい悲劇として語り継がれるだけですわよ」
「…………」
「それで、その上でまだ村を作ると仰りますの? 覚悟はありまして?」
リコネルの最終確認に、レゴラスは無言で首を横に振り、避難民達も武器を下ろし、意気阻喪しました。
……我が妻ながら、何とも見事な悪役ぶり。
本来のリコネルは優しい女性ですが、私の為に悪魔の仮面を被らせてしまったことに胸が痛くなりました。
「まぁ、領民になるのでしたら何時でも受け入れるはずですわ。ね、ジュリアス様」
「そうですね、領民ならば守れる範囲で守れることでしょう」
「話は以上ですわ。村なんて建設を忘れて今後の身の振り方をもう一度考え直してくださいませ。でなければ同じ問題が起きた場合……次はありませんことよ?」
「……解りました」
レゴラスも最後は深々と頭を下げ、最初のニヤニヤした表情から一変、意気消沈した趣で頷き頭を深く下げました。
それは他の避難民も同じで、私とリコネルに深々と頭を下げたのです。
――次は無い。
――次こそ何かしらの罰が下る。
その恐怖を植えつけるには最適な笑顔と声色、そして迫力でした。




