第26話 生理的嫌悪感を感じる男性ってアウトだと思うんですの
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次の仕事を斡旋できないメイドとは、この王都では仕事を探すことが出来ないと言うレッテルを貼られるようなものです。
それだけの事を愛するリコネルにしたのですから、お優しいと有名な私が怒るとは思わなかったのでしょう。
屋敷使えであったメイド達は慌てふためいているようでした。
ですが、決定事項は決定事項。
今更愛する妻へ対する態度を改めても無意味なのです。
我が領のメイドであれば、妻となる女性の情報をエリオが来る際に聞いているでしょうに、信じもしなかったのでしょう。
他人の人となりを知るには本人を見るのが一番ですが、それが難しい場合、知っている方から聞く情報を主軸に動かねばらないと言うのに……屋敷仕えのメイド達は、王都で流れる噂だけを信じていたようです。
さて次の日、私とリコネルは王城にて結婚の挨拶を再度王にしなくてはなりません。
馬車で移動する間、街の中がどうなっているのか見る事にしました。
確かに人通りは今まで見たことがないほどに無く、露店さえも消え失せ、店は閉まったままのようですね……。
時折喧噪の声が聴こえますが、余程治安が悪化しているようです。
「これがあの華やかしい王都だと言うのかしら……」
「ええ、本当に……随分と寂れたものですね」
「寂れると言う言葉ですら生温いですわ」
そんな会話をしながら城の門の前に馬車が到着すると、私達の到着にどこかホッとした様子の兵士達が扉を開けてくださいました。
こうして入る王城は懐かしいやら面倒くさいやら……複雑な気分になりますね。
案内された部屋で待つ間、私とリコネルが園の創立へ向けて最後の最終確認を行っていると、扉が急に開き、現れたのはチャーリー元王太子でした。
「リコネル! 戻ってきたんだな!?」
「は? 何を仰ってますの? わたくし結婚のご挨拶に来ただけですけど」
「何も言うな……私が騙されていたのが悪かったんだ……すべてを水に流して元に戻ろう」
「一度病院で頭を見てもらったほうが宜しいのではなくて?」
「そのようですね。ノックもせず扉を開けるなど、どんなしつけを受けたのでしょう。誰か、この方を直ぐに外へ」
怪訝な表情の私とリコネルにチャーリー元王太子はそれでも食い下がります。
「お前だってこんな親子ほど年の離れたハゲより私のほうが良いだろう?」
「寝言は寝て仰って。わたくし、誰よりもどんな方よりもジュリアス様を優先しますし、誰よりもどなたよりもジュリアス様を愛してますわ。離婚なんて考えも出来ませんことね」
「目を覚ますんだリコネル!」
「わたくしに触らないで、汚らわしい」
「なっ!」
此処まで言われてやっとチャーリー元王太子は目を見開き驚きました。
そして私に抱きつくリコネルを信じられない者を見る目で見つめています。
「あなたの婚約者である頃は苦痛でしかありませんでしたわ。本当に莫迦で愚かで道化で、結局あなたのお友達からもピエロと呼ばれていたのに気が付くこともなくアルジェナ様を寝取られて妊娠までさせられて……そんな方の妻になる? 自殺したほうがマシですわ」
「な……なんて事を言うんだリコネル!」
「早くお引取りになって。声を聞くのも顔を見るのも嫌気が差しますわ」
部屋での騒ぎを聞きつけ兵士が駆け寄ってくると、兵士達は「またか」と言わんばかりの表情で元王太子を掴みあげると外へと引き摺っていきました。
何度も「待ってくれ!」だの「リコネルは私の妻になるんだ!」だのと不愉快な言葉を叫んでいましたが、それ以上に――。
「メイドさん方、窓を全開になさって」
「え?」
「あの方と同じ空気を吸うのも苦痛ですの、気持ち悪い。急いで」
「は、はい!」
本気でリコネルは怒っているようで、メイド達は急ぎ窓を全開にすると、リコネルはやっとホッと安堵の息を吐けたようです。
「大丈夫ですかリコネル」
「えぇ……本当に気持ちの悪い男でゾッとしますわ」
「生理的嫌悪感と言う奴かもしれませんね」
「だと思いますわ。生理的にあの方を受け入れることが出来ないまま婚約し、本当に地獄でしたもの」
「よく耐えましたね……」
「何時かジュリアス様の許へ妻に行くのだと踏ん張りましたもの」
「嗚呼、リコネル……。そんな苦労してまで私の許へと押しかけ女房してくださったのですね」
「勿論ですわジュリアス様!」
そう言って抱き合う私達をメイド達は呆然とした様子で見つめ、数人からは「純愛」と囁かれました。
そう、私達はお互い惹かれあうべきして惹かれあい結婚することが出来た夫婦。
その絆を誰にも奪わせる事はさせない。
強く心に決めた私は、兵士に呼ばれ王の間へと夫婦で向かいました。
足が悪い為に直ぐには到着できないリコネルのお父様は後で入ってくるとの事で王の前に入ると、既にそこには、ぶすくれた元王太子もいましたが、口を布で巻かれていて言葉を発する事はで来ません。
「国王陛下、結婚の挨拶に伺いました」
「その節はお世話になりましたわ」
「良き……とはいえぬが、実に美しい花嫁姿であったリコネルよ」
「ありがたき幸せに存じます」
「その後、変りは無いか?」
「心の底から愛し合っておりますからご心配には及びませんわ」
「同じく心の底から愛し合っておりますのでご心配いりません」
そう挨拶すると、バタバタと暴れる元王太子を兵士が押さえつけ、リコネルが小さく溜息を吐いたのが解りました。
その他、参列している貴族はいないにしても、宰相は王の側に立っておられます。
他の貴族がいればもっと良かったのですが仕方ありませんね……プレゼントをお渡ししましょう。
「……国王陛下、発言をお許しいただけますでしょうか?」
「なんだね、ジュリアス卿」
「実はリコネルと結婚してからとある調べモノをしておりましたところ、どうも王太子の使われた金額の可笑しさに気が付きまして」
「金額? 一体なんの金額だ?」
「ええ、それがこちらの書類となるのですが……。ファーネス公爵にも確認を入れたのですが、どうも王太子からの報告と食い違いがありまして」
「どう言う事だ?」
私が差し出した書類を宰相が受け取り、中を確認すると厳しく眉を寄せ王にお見せします。
そして内容を読んで王すらも眉を寄せたのです。
「当時、ご婚約されていた我妻への贈り物と、王太子の使った金の流れであるのですが」
「リコネル、チャーリーからドレスなどを贈られた事は」
「一度たりともありませんわ」
「一緒に夜会に行った事は」
「誘われた事もありませんわ。一体なんの事を仰ってますの?」
首を可愛く傾げて口にしたリコネルに、王は震え、王太子は「何のことだっけ?」と言わんばかりの表情で呆然としています。
「……チャーリー、リコネルにドレスをプレゼントした事は?」
「え? あ、え?」
「無いのだな?」
「え、あ、ハイ」
「では、婚約者への贈り物で通したこの金額は何に使ったのだ?」
「それは……私を騙していたアルジェナが将来婚約者になると思って使ったお金です。なので、婚約者に使ったお金で間違いありません!」
「この大馬鹿者が!」
王の間に響き渡った国王の怒鳴り声に、チャーリー元王太子は腰を抜かして地面に座り込んでしまいました。