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第25話 王都での差別は相変わらずですこと

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 雇用問題が一応の解決をした後、リコネル商会の本屋では「絵本コンテスト」「小説コンテスト」「挿絵となる絵のコンテスト」の3つが告知されました。

 期間は1年、1部では【1年に1回の夢の就職口】や【夢で食べていけるコンテスト】とも言われ、趣味で物語を書いている方々や、絵で食べていこうにも苦労している方々からの応募が殺到するであろうと予想されています。


 皆が口々にするのは【あのリコネル商会で働ける夢の切符】と言う事。


 働き方改革もリコネル商会では進み、また領主である夫の私が支援しているということもあり、告知が出てから彼らは一気に執筆などに入ったようです。

 1年後が楽しみだと思いつつ、領を上げて頑張って進めている【園】の建設もある程度目処が立ちました。

 本当に数ヶ月で建てきった職人達には料金を上乗せさせてもらい、また必要な備品についての受注も頼むと、張り切って仕事をすると言ってくださいました。

 私達が王都から戻ってくる頃には必要備品は揃っているとの事で、これで安心して王都へと赴き、王に再度結婚の挨拶が出来ますね。


 魔法陣に魔力の元となる魔石を入れておいてから数日、王都からは使者の一人も来ませんでした。

 何故王都からの使者が来なかったのか、また何故その様な事をしたのかと言うと、以前、王から届いた書類を全て返したことに関連します。

 何かしら向こうから連絡がくるのなら、文面だけではなく人もやってくることでしょう。

 ですがソレすらなかった事、及び民からの懇願書や嘆願書に関しても連絡が無かったのです。


 エリオからの連絡では王都は荒れ放題、商売も出来ない有様で、王都にくる他国の行商人すら別の領で販売経路を広げている始末。

 王都の停滞は他の領にどんな影響を与えるのか……正直、影響が出ている領もあるでしょうが、我が辺境領では影響は全くありません。



 ――この領地へと私が追いやられた時に心に決めたこと。

 それは、王都がどんな状況になろうとも、絶対に揺るがない領に発展させることでした。

 それが実際に機能しているのですから、私も頑張った甲斐があったと言うものでしょう。


 つい自画自賛してしまいましたが、あれから数日が経ち、私とリコネルは一週間ほど王都にある我が領の屋敷で過ごさねばなりません。

 あちらにも何人かの屋敷を守る為のメイドたちもいますが、領の仕事での連絡事項などをサリラーにはして欲しくて残って貰い、代わりにある程度育った次の執事候補であるランディを連れて行くことにしました。


 魔法陣に乗り、一秒もせず到着したのは王都に所持している我が領の屋敷の魔法陣の中。

 我々の到着時間は伝えてあった為、既に複数のメイドが立ち並び「お帰りなさいませ」と頭を下げています。

 しかし、その視線は「主の帰還を心から喜んでいる」と言うものではなく「婚約破棄された令嬢を妻に娶った愚かな男」と言う目に見えます。

 そんな事を気にもしないリコネルは笑顔で「暫くお世話になりますわ」と口にし、現れた王都にある屋敷のメイド長に挨拶を受けました。



「お帰りなさいませ旦那様……と、奥様」

「只今戻りました」

「王都は久しぶりですわ」

「でしょうね」



 厳しい口調で、まるでリコネルを嘲笑うような態度に私の眉が寄ったのが解ったのでしょう、メイド長は頭を下げて「お部屋に案内します」と事務的に口にしました。

 それは他のメイドも同じでした。

 王都にとって、リコネルの立場がどれだけ厳しいものなのか良くわかる瞬間でもあります。

 されど、リコネルは気にもせずメイド長の後ろを歩き、夫婦の部屋へと案内されると明日からのスケジュールをランディから受けていました。

 すると――。



「ジュリアス様って趣味悪いわ……」

「本当に、婚約破棄された女性を妻にするなんて」

「しかも悪役令嬢で有名な方でしょう? 私達暴力を受けないかしら」

「「「怖いわー」」」



 そんな声が廊下から聴こえてきて、私が眉を寄せてメイド長を見つめると、メイド長は気にもしてない様子で「何か?」とだけ口にします。



「メイドたちの躾けがなっていないようですね」

「そうでしょうか? 事実は事実でしょう?」

「ジュリアス様、お気に為さらないで」



 私がメイド長に注意をしようしたその時、リコネルは笑顔で私を止めました。



「王都のメイドの質の悪さは知ってますもの。既に報告は上がってますし気にしませんわ」

「お言葉ですが、質の悪いと言うのはどういう意味でしょう」

「主の妻に対する礼儀作法がなっていないと言う事実ですわ。何か間違いでもありまして?」

「ジュリアス様に相応しい女性ならばメイドたちも安心できるのですが……貴女では」

「メイド長、妻を侮辱する事は今後一切許しません」

「ですがジュリアス様」



 それでも食い下がろうとするメイド長に怒鳴りつけようとしましたが、リコネルのクスクスと笑う声が聴こえ、彼女のほうを見ると楽しくて仕方ないと言う笑顔でメイド長を見ていました。



「視野の狭い方」

「口も達者のようですね」

「ええ、ジュリアス様の領地ではその様な態度を取る方はいらっしゃいませんから新鮮ですわ。一週間宜しく頼みますね」

「お好きにどうぞ」



 そう言うとメイド長は頭を下げ、さっさと部屋を出て行ってしまいました。

 残されたのは私とリコネル、ランディのみで、ランディですら呆れて溜息を吐いています。



「ジュリアス様、この屋敷のメイドを全て変更する事を提案します」

「それが宜しいでしょうね」

「あら、私はこのままで構いませんわ。邪魔さえされなければ」

「リコネル様、ああいうのを、給料泥棒って言うんですよ」

「まぁ! では早く出て行ってもらわなくてはなりませんわね!」



 その一言に私とランディは声を出して笑い、リコネルもクスクスと笑ってしまいました。



「仕方ありませんね、領地からメイドを派遣して貰いましょうか」

「リコネル様担当のメイドはその方がよろしいかと思われます」

「仕方ありませんわね……ランディ、何人か呼んできて頂けるかしら」



 そう言うとランディは直ぐに動き、この屋敷のメイド長に「ジュリアス様のお屋敷からリコネル様専属のメイドを何人か連れてくる」と言うと二つ返事で許可が下りたそうで、諸々終わったらメイドの人選を考えようと思います。

 殆ど使っていない屋敷でしたから、魔石は高いですが領地が潤っていますし、屋敷を売り払い領地から城にある移動用魔法陣を使えるようにすれば良いでしょう。



「全く、お恥ずかしい限りですね」

「仕方ありませんわ、使ってない屋敷のメイドなんてそんなものですもの。刺激が無いから噂話に熱心ですの」

「なるほど」

「この屋敷を売り払って、そのお金を有効に使ったほうが領の為ですわ。給料泥棒は必要ありませんもの」

「それもそうですね。私もこの屋敷のメイドたちがあんなにも質が悪いとは思っていませんでした」



 この話は聞き耳を立てているのが解る位置に立っているメイドに聴こえるように言うと、メイドは顔を青くしてバタバタと走って行きました。

 コレで少しは改善してくれれば良いのですが……逆恨みされる場合も考えて動かねばなりませんね。

 そしてその夜、我が領でリコネルを担当しているメイドたち5人が到着し、リコネル専属としてつき、屋敷に元々いたメイド達は引き攣った笑顔のまま私担当になりました。

 特にメイド長など何か言いたそうですが「あの」と問い掛けられるたびにランディに次の仕事を持ってきてもらい話を聞きません。

 ですが――。



「あの! ジュリアス様!?」

「何です、声を荒げて、それがメイド長のする事ですか?」



 淡々と答えるとメイド長はグッと何かを飲み込んだようですが、静かに「お話したいことが御座います」と伝えてきました。

 一応話を聞いたところ、次の仕事先の斡旋をして欲しいと言うお願いだったのですが――。



「我が妻への横暴な態度、アレでは次の仕事先など斡旋できるはずがありません。恥ずかしくて無理ですね」

「そんな!」

「あなた方は噂が好きだと言うのは理解しています。では、我が領でのリコネル商会の働きなどご存知なのですか?」



 そう問い掛けると、メイド達は顔を見合わせ首を捻っている。

 リコネルが以前「顔が良ければ学歴などは」と言っていた片鱗を見た気がしました。



「我が領に女性がよりよく働ける環境作りを率先してやっておられますよ。働く女性の為に子供を預かり、文字の読み書きや簡単な計算、魔力持ちには魔力操作を教えることが出来る園というものもその1つです」

「それは旦那様がおやりになっていることでは?」

「発案はリコネルですよ。リコネルは御自分の商会が忙しい為、私はその合間にリコネルに今後をどうするのか確認したりしながら進めています。まさかあなた方は我が領で雇っているメイドなのに知らないのですか?」



 呆れたように口にすると、メイド達は次々に「まさか」「嘘でしょ」と口にします。



「そんな当たり前の常識も知らないようなメイドを雇っていることが恥ずかしくなりますね。よって斡旋はしません。この屋敷も売り払います」

「そんなっ!」

「決定事項です。これ以上仕事の邪魔をしないで頂きたいですね」



 ニッコリ笑って口にするとメイド達は揃って顔を青くして俯き、言葉数少なく、ただ立っているだけでした。


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