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第22話 元王太子の周辺は賑やかですこと…そして夫は――

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 リコネルが小説執筆に勤しんでいる間、私が領地の運営だけをしていた訳ではありません。王都が今どうなっているのか、エリオが影に率いる偵察部隊を王都へと派遣して頂いておりました。そこで、王太子に関わる情報も調べて来てもらっていたのです。


 アルジェナの不貞の事実から、王太子はどうなったのか。

 そして、王太子を取り巻く環境がどう変って行ったのか。


 この2つを知らずして……いえ、敵を知らずしてリコネルを守っているとは言えません。キッチリとケジメをつけて貰うためにも、大事に保管している証拠品と共に、王に報告せねばならないのです。


 その件の王太子ですが、教会から次期国王とは認められないと言う正式な書面を貰い憤怒したものの、教会の絶対権力の前に成す術は無く、彼は【次期国王】から外されました。

 それは王も納得した上での大きな決断だったと言えるでしょう。


 では次の王は誰がなるのか。

 それは、まだ話し合いの最中だという事でした。


 王の兄弟と言えば私のみ。

 そして、私は王家から既に身を追い出される形で辺境伯爵になった身です。

 その私には幼な妻であるリコネルがいる。


 私とリコネルの間に生まれた子供が次の王へ……と言う話も出ているそうですが、肝心要の私がそれを了承するかと言えば了承するはずも無く、また国王も乗り気では無いらしく、有耶無耶のまま進まないのだとか。

 無論、あの弟である王の元に子を渡す義理もありませんので、私のほうから出せる答えは「お引取りを」と言う言葉のみでしょう。


 では、王太子はどうなったのかと言うと――アルジェナと不貞を働いた友人3人に詰問し、完全論破されたとの情報が入ってきました。


 次期宰相であったアルジェナの不貞相手その一は、次期宰相の座を弟に渡し、罪の重さから屋敷にいる事は出来なくなって教会入りしたそうです。

 次に、次期伯爵であった彼は、これまた次の領主とは認められないとの事で立場を追われ、同じく教会入り、最後に蜜にアルジェナと密会を繰り返していた次期騎士団長は、追われるように王都から出て行ったとの事でした。


 3人が家から追い出された事も愉快な話題として私は受け取りましたが、友人達に裏切られた元王太子は人間不信に陥っているようで、城でも居場所がなく、一応王子としてまだ扱われているようですが腫れ物を扱うような対応をされているのだとか。



「上々ですね、此処でこの書類を提出すればどうなるでしょう。リコネルの体力が回復したら結婚の挨拶にと王都へ向かう予定なのですが」

「その時用のプレゼントとしては最適かと」

「国の金をアルジェナに使っていたのですからね。偽りの報告書まで書いて。まぁ、結婚の挨拶に行く際には、公爵家もいらっしゃるとの事でしたから信憑性は更に上がることでしょう」



 そう言うと、報告書を暖炉で燃やし、証拠を消すと椅子に腰掛け、一息入れると両手を組んで目の前にいる2人に視線を送ります。



「それで、リコネル商会へ対する嫌がらせの報告は?」

「王都からやってきた避難民の中にいたようです。まぁ、避難民というよりは領民となり、リコネル商会に対しての嫌がらせをする為に送られてきた刺客……というべきでしょうが、送りつけてきた相手の調べは?」

「やはりアホな元王太子のようですね。少し痛い目を見てもらうと吐いて貰えました」



 そう、リコネルには解らないようにしていましたが、リコネル商会は避難民がきてから、そしてその避難民を領民として受け入れ始めた頃から嫌がらせを受けていました。

 窓を割る、本を破かれるなどと言った軽微なものから、仕事をしている人間へ対する嫌がらせも。

 これらの事も考えての私服兵士をつけていたのですが、役に立ったようですね。



「リコネルが我が物になる為には手段は選んでいられない……といった感じでしょうが、先に捨ててくださった癖に、妻になった途端……いいえ、アルジェナへの恋が終わった途端、元鞘に戻りたがるとは情けない男ですねぇ」

「「本当に」」

「妻を奪うのでしたらご自信の命を懸けてきてもらわなくてはならないと言うのに……――。本当に、私を怒らせるのがお得意のようですね」



 そう続けて口にした瞬間、2人は背筋を伸ばし、何故か冷や汗を流し始めました。



「おやおや、如何為さいました?」

「いえ……ジュリアス様でもその様なお顔をされるのだなと恐怖に陥っただけです」

「僭越ながらジュリアス様、その様なお顔をリコネル様には絶対に見せてはなりません」

「おやまぁ……気をつけねばなりませんね。すみません2人とも……愛する妻の事になるとつい」

「愛妻を横取りしようとする者がいればそうもなりましょう」

「全くです」



 と、最後は同意してもらえたのでホッとしました。

 そして、力が抜けたと同時に、目の前にある書類を片してしまおうと手を伸ばします。


 避難民として残った人数はそれなりに多く、その大半がお年を召した方や妊婦、女性と子供でした。

 避難民の方々は子供への教育への不安や職への不安も大きいらしく、また、病気が流行った際、我が領が対応してくれるのかと言う不安の声も届いています。



『弱者には優しくなければなりませんわ。それを忘れないでくださいませね?』



 脳裏にリコネルの言葉が過ぎります。

 確かに善意の上に胡坐をかくような悪意があれば、それは滅せねばならないことです。ですが、老いた人やこれから生まれてくる新しい命に差別があってはならないのです。

 等しく同じ命……そして、避難民であっても、等しく人間なのです。



「避難所に仮説病院の建設を急がせましょう。医師には妊婦を診察出来る医者も入れて置いて下さい。命に差別があってはなりません」

「宜しいのですか?」



 驚いた様子で私を見るサリラー執事に私は微笑んで頷きました。



「確かにリコネルは避難所を無くそうと言いました。ですがそれは、善意の上に胡坐をかいていた悪意があったからこその発言です。今はその悪意もそんなに数は無いでしょう。それに、これから生まれてくる命にその様な差別があってはなりません。また残されている妊婦や女性たちの話を聞き、夫との生活に不安がある、または夫から離れたくても離れられなかった女性などに関しては、我が領で保護と言う形で受け入れようと思います」

「保護……ですか?」

「領民ではなく?」

「妻に暴力を働く男性も多いと言う報告を受けています。そう言う女性は逃げる場所が無いのです。なので……領で保護をして差し上げようと思うのです。リコネルならばそうします」



 私の言葉にサリラー執事とエリオは頷き、直ぐに対応に走り出しました。

 まだまだ領を上げてやらねばならない事は多そうですね。

 力のない女性に対する男性の暴力……性的暴力に加え、精神的暴力、はたまた経済的な暴力まで様々ありますが、それらは我が領では法律で裁かれる問題。

 その法律で裁かれる罪が、王都では当たり前の日常……何度国王に進言しても進まなかった、私の手の届かなかった問題の1つ。



「さて、リコネルに良い知らせが出来るように私も頑張りましょう」



 そう言うと羽ペンを持ち、仕事に取り取り掛かりました。



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