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第20話 多少無理してでも進めたい事は進めますの

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 それからのリコネルは、人気作家である事を生かし、花を主題にした小説を数本書くのだと言って部屋に篭りがちになりました。

 無論、午前中は仕事を手伝ってくれますし、午前中のうちに園芸店との打ち合わせもねじ込む勢いでした。

 そして一週間しない内に、第一弾として3つの小説が世に出たのです。



 1つは、【母の想いと子の想い】を題材にした『愛すべき母へ』と言うシンプルな題名。それは、他の話でも使われており、後に『愛すべきシリーズ』と呼ばれるようになりますが、それはまた別の機会に……。


 愛すべきシリーズでは、母の日や父の日、敬老の日に子が、親が花を贈ると言うストーリーが組み込まれていました。

 母の日はカーネーションを。

 父の日にはアジサイを。

 敬老の日にはバラを贈ると言うものでした。


 母の日のカーネーションは、母と娘のストーリーで、涙なしでは読まれない感動物。親子2人で必死に生活する中、疲れた母へ少しでも感謝の気持ちを伝えたいと言う幼い主人公の健気な行動により、一輪のカーネーションを母に渡すと言うストーリー。


 父の日のアジサイは、アジサイを見ると亡くなった父親を思い出すという男の子視点のストーリーでした。

 兵士だった父親が父の日間近に魔物に倒されると言う衝撃的なストーリーですが、息子は父の好きだったアジサイを、亡くなったとされる場所に植えると言う内容で、息子は後に父のような立派な兵士へと育つというストーリー。


 此処まで読んだ時、私の涙腺は崩壊し、次の日には目を真っ赤に晴れ上がらせたのは言うまでもありませんね。


 最後の敬老の日ですが、これは親になったからこそ親のありがたさが解り、そして命の尊さを感じるのだと言う大人向けのストーリーでした。

 老いた両親にバラを贈る、それは愛した人にこそ相応しいバラを親に贈ると言う意味を【親であるあなたに感謝すると共に愛しています】と伝えうるストーリーでした。



 これらの本が世に出回った頃、リコネルは園芸店の社長と面会を果たしました。

 ついに応接室で始まった話し合い……私もその場に参加しましたが、リコネルの表情は既に商売人の顔になっていました。



「お初に御目にかかりますわ。ベアル様」

「お初に御目にかかりますリコネル様。礼儀が出来ておりませんでしたらお許し下さい」

「気にしませんわ」



 そんな話題からスタートした交渉。

 ですが相手は三冊の本をリコネルの前に出すと、大きく溜息を吐き項垂れました。

 一体何が起きたというのでしょうか?



「まぁ、本を読んでいただけたのですわね」

「ええ、娘が貴女のファンで本を買ってきて読ませて頂きました。まさかこの日の為に花を題材にした小説を出されたのですか?」

「半分当たり、半分ハズレですわ」



 にこやかに答えたリコネルに、ベアルさんは小さく溜息を吐くと次のように語りました。今まで花と言えば生活に困らないくらいの収入さえあれば、何とかやっていけるような職業だったこと。

 この本が出されてから、何故か贈り物にと花を頼む顧客も増えてきたこと。

 カーネーションは女性が。

 アジサイは男性が。

 バラは男女問わず注文が入るようになったのだと口に為さいました。



「まぁ、売り上げが上がりましたのね。喜ばしいことですわ」

「ええ、喜ばしい反面……全ては貴女のこの小説のおかげだというのも理解しています。それで、俺……いえ、私の園芸店をどう扱う御つもりですか?」

「話が早いことで助かりますわ。お互い腹芸は得意では無さそうですわね」



 そう言うとリコネルは「文字はお読みになられて?」と確認した後、一枚の書類をベアルさんに手渡しました。



「提携店……もしくは俺の店を丸ごと買うというのですか?」

「ええ。この度わたくし、花屋を経営することにしましたの。無論、領の為に今後必要となる問題へのモデルケースを作るためでもありますわ」

「領の為の政策に花屋……ですか」

「花は全てを癒しますわ。命が咲くのと同じ様に咲き誇り、命が終わる様に枯れ行くもの……儚さの中の美しさ。わたくしは大好きですの」

「はぁ……?」

「わたくし、好きなものにこそ仕事としてやりたいタイプですの。故に花屋をこの領をより良くする為のモデルケースに使いますわ」

「な、なるほど。それで、そのモデルケースと言うのを教えていただければ幸いですが」



 リコネルのニコニコした表情に押されつつも、ベアルさんは何とか声を絞り出して問い掛けました。

 そして、リコネルが口にした政策はこうです。


 現在、領では昨日話した【園】を作るための体制を整えている最中であること。

 園とは、働く女性の為に0歳から6歳までの子供に文字を教え、数字と軽いお使いが出来る程度の計算を教えるまではする事。

 更にそこに、魔力持ちであれば、魔力を操作するための教師も派遣すると言う事まで語りました。

 これは午前中だけしかリコネルとしか領の話が出来なかった為、何とか昨日までに纏め上げた内容でした。



「また、孤児院に預けられている子供達も園に希望者は入れるようにする予定ですわ。孤児院では文字の読み書きと軽い計算までは教えているそうですけれど、魔力操作までは出来ておりませんでしたの」

「なるほど」

「その子等に、将来の働き口として花屋を考えておりますの。魔力操作が出来る人材は幾らいても足りないくらい。何故なら、プリザーブドフラワーを我が領で作っていくことにしましたから」

「プリザーブドフラワーを……ですか? それを作るには均等な魔力が必要になりますし」

「ええ、その為にベアルさん、貴方の園芸店が必要ですの」

「どう言う事ですか?」

「廃棄処分になる花も、多いのではなくって?」



 この言葉にベアルさんは目を見開き「なるほど……」と口に為さいます。

 リコネルは廃棄処分になる花を、魔力を均等に送るための慣らしの為に使う事を思いついたのです。

 そうすれば実質かかるお金は殆どなく、練習用ですから好きなだけ花に魔力を入れる練習が出来ます。



「ある程度慣れた子供達の将来の職場作りをと考えておりますわ」

「……それは、長い目で見ても」

「長い目でしょうか? 子供は直ぐに大きくなりますわ。それに魔力が無い子供達でも、ベアルさんの職場に就職できれば食べるに困る事はありませんわよね? 実際現在は人手不足でしょう? そして更に言うなら、本が出るまでは家族が食べていければ充分な程度の収入であったのもまた事実」

「……ええ、その通りです」

「提携するか、それともわたくしが園芸店を全部買い付けるか、どちらがお好みでして?」



 真っ直ぐに相手を射止める瞳で口にしたリコネルに、ベアルさんはゴクリと生唾を飲むと暫く考え込みました。

 5分……10分と時間が過ぎ、そろそろ15分になろうかという時、ベアルさんはこう切り出しだします。



「家族を路頭に迷わせないためにも、私達含めてリコネル商会に買い取って頂きたい」

「決まりですわね。領を良くする為のモデルケースに、ベアルさん家族も使わせて頂きますわ」

「モデルケースに俺の家族も?」



 思わぬ一言に、ベアルさんは眉を寄せリコネルを見つめました。



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