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第17話 筋が通ってない事は嫌いですの①

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 ――王都から流れ込んでくる避難民の受け入れ。

 それは最初とても厳しいものでした。


 領民への説明から始まりましたが、やはり見た目での差別が気に入らないと言う理由もあり困難かと思いましたが、リコネルの「心を醜くしてどうしますの!? 御自分たちに誇りをお持ちになって」と言う言葉に次第に同意し、一週間で難民を受け入れる場所の用意が出来ました。


 リコネルへの評価は両極端ではありますが、やや好意的な反応が多いのが救いです。

 やはり最初の【婚約破棄された悪役令嬢がジュリアス様の元に押しかけてきた】と言う不名誉な噂が尾を引いているようです。


 領民が土地を貸し難民の受け入れが始まると、領を上げて彼らの為の寝床となるテント作りや炊き出し、難民から領民になりたい方々は、領民へなる為の手続きなどが進んでいます。

 とは言え、一度「見た目が麗しいからこそ優遇される」と言うモノを経験した彼らはプライドが高く、領民となってもいざこざが耐えないのも、また事実です。


 頭の痛い問題……。

 けれど、彼らを纏め上げなくてはと気合を入れる日々。

 結婚して一週間の休みが、きちんと夫婦だけの日となる事は無理なことではありましたが、リコネルは嫌な顔1つせず、着実に仕事をこなしていったのです。

 そんな中、本日避難民の受け入れ先を視察する事になりました。

 これもリコネルの発案で、その場に行かねば見えないこともあるのだと説得されてのことです。


 本来なら私一人ならなんとかなるとしても、危険な場所にリコネルを連れて行く事はしたくはないのですが……。

 そうは思っても「彼女は自分の目で見て確かめる」と言う事を大事にしている為、安全な屋敷で待っている事は出来ませんかと聞きましたが、聞き入れてはくれませんでした。


(自分の目で確かめる……有言実行のリコネルですね……)


 馬車で揺られること3時間。目的地である避難民集落に着くと、護衛騎士達が私達を前を囲うように立ち、視察が始まりました。

 まだ真新しい避難用のテント、あちらこちらから聴こえる会話には、今後の不安をよく耳にします。しかし衛生状況が悪い状態でもなく、食事も3食炊き出しが行われている為、飢える事は一応無い事でしょう。

 辺境とは言え農耕地も多く、気候も安定している我が領だからこそ出来る支援の1つです。

 問題は、避難民が何時まで滞在するつもりなのか。

 無論王都が安定するまでの間でしょうが……仕事をする気がない国王では、今後も戻ることが出来ないかもしれませんね……。

 そんな事を思いながら、避難民代表者と会話をするテントへと足を踏み入れました。

 中には3人の代表者が立っており、私とリコネルが入ると会釈なさいました。



「お初に御目にかかります。避難民代表のレゴラスと申します、他2人は私の息子です」

「ヒューマと申します」

「サタルと申します」

「ありがとうございます。領主のジュリアス・アルファルトと申します。此方は妻のリコネル・アルファルト」

「存じ上げております。かの有名な……」

「悪役令嬢ですわ」



 ニッコリと微笑むリコネルに、レゴラスは一瞬だけ目を見開いた後、会釈しました。

 席に座り今後の話し合いが行われたのですが……やはりというかなんと言うか、レゴラス達の考えは同じく「ジュリアス様が王都の仕事をサボったからこうなった」と言う事でした。



「サボったわけではありません、国のお仕事を陛下にお返ししただけです」

「それがサボったと言うのです。その所為で国は荒れ放題、貴方様が陛下に代わり仕事をすれば元に戻るのでしょう?」

「戻りません。それに、そもそもの問題として陛下が仕事をしないのが問題なのです。論点があなた方はずれておられます」

「しかしですな」



 この会話を何度繰り返したでしょう。

 私は国王代理ではありませんし、国王としてシッカリと国を支えていかねばならないのです。

 ですが、彼らにその言い分は通用しないようですね……。

 すると――。



「ところで……」



 一方通行の会話の後、今まで静かだったリコネルが口を開きました。



「1つ疑問に思いましたのですけど、宜しいかしら?」

「何でしょう」

「あなた方は避難民としてこの辺境領へとやってきたのは解りましたわ。それも、責任がジュリアス様にあると勘違いしている事も解りました」

「そう言うわけでは……」

「でも、どうしても謎ですの。何故避難民となる前に、王都で国王への嘆願書や懇願書を民達で動いて出すことも出来たはず。何故王都から避難してきた方々はそれをなさっておりませんの? まずはそこからでしょう?」

「それは……」

「先に動くべきは王国に留まり、陛下を民が動かすことでしょう? 民あっての王なのですから。それをせずに真っ先に避難民になってジュリアス様に全ての責任を押し付ける。それは余りにも道理が通って無いのではなくて?」



 リコネルの言葉に3人は苦虫を噛み潰したような表情でリコネルを見つめました。

 確かに、働かない陛下を動かしたければ民がまず動かねばなりません。

 民の声とは、小さな声では届かなくとも、大きな声となれば陛下に届くはずなのです。



「最初から諦めておられましたのね」

「そんな事は無い!」

「そうだ! 知った顔をするな!」

「諦めた後、全ての責任を国王代理のように仕事をしていたジュリアス様に向けた。あなた方にそれが解りやすいように会話をしているだけですわ。あなた方がどうしても、何度話し合っても理解しないようでしたので、民が何故できる事をせず逃げ出したのか……。まぁ、本当に最初から諦めていたとは思いませんでしたけれど」



 リコネルの言葉にレゴラスの息子達は顔を真っ赤にして今にもリコネルを殴りそうな勢いでしたが、護衛騎士が動くと顔を青くして留まりました。



「それと、此処まで歩いている最中、色々な会話を耳にしましたわ。確かに皆さん仕事を失ったと言う点では不安が大きいようですけれど、一番大きかったのは『このままの状態が長く続けば楽が出来てよい』と言うのと『見目麗しくない人間もどきと一緒に暮らせるか』と言う暴言ですわね……。その辺り、代表としては如何為さいますの? あなた方の言う、見目麗しくない方々の善意で此処に避難民として受け入れられているのに、何故あなた方はそうも上から目線でいられるのです? 恥を知りなさいませ」



 リコネルの厳しい言葉に3人は口を少し開けて呆然とし、直ぐに復活したレゴラスは厳しい表情で口を閉じると「確かに……」と言葉を続けられました。



「確かに、我々は甘えているだけかもしれません。ですが」

「ええ、甘えてますわね、ズブズブにですわ。自分達の成すべき事を為さらず、善意の上に胡坐をかき、その善意を行っている人間達を馬鹿にしている。言っておきますけれど、王都とは違いこの辺境領では見た目による優劣なんて関係ありませんわよ。ジュリアス様」

「はい! なんでしょう」



 思わず名を呼ばれ声が上ずりそうになりましたが、リコネルのほうを見ると少しだけ怒っているのが解る笑顔で……。



「この避難施設、壊しましょう」


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