第16話 さぁ、領地の為に働きましてよ!
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幸せで充実している日々と言うのは、あっと言う間に過ぎ去るのだと思いました。
結婚式を挙げて一週間、本当にあっと言う間で、今日からは今まで通りの仕事の再開となりました。
積み上げられた書類と睨めっこしながら過ごす時間。
リコネルとの挙式の後、私は噂雀を使い、事の内容を王都とこの辺境伯爵領で広めました。
それまでは、悪役令嬢を娶ったジュリアス様は可笑しい。お可哀そうに。そんな噂が飛び交っていたようですが、真実を広める形で囀らせれば、リコネルへ対する民の見かたは変わってきたようです。
率先して仕事をするジュリアス様の奥様。
弱い立場である女性に手を差し伸べるリコネル様。
そして、チャーリー王太子への不満。国王への不満。
我が領ではそんな噂で持ちきりです。では王都ではどうなのかと言うと――。
「やっぱり王がシッカリしてないから王太子も馬鹿なんだよな」
「リコネル様は厳しい王妃としての修行にも耐え切っていたのにお可哀そうに。罪もでっち上げだったんだろう?」
「今では辺境伯爵様と仲良く領地経営をしていらっしゃるそうよ」
「そう言えば、王子の新しい婚約者は随分な阿婆擦れだったみたいだな」
「王太子のご友人達とそう言う事して妊娠したんだろ、父親も誰か解らないみたいだし」
「王太子には人を見る目が無いのよ」
「国の未来が心配だわぁ……」
等といった会話が成されているようです。
報告書を受け取り、掻い摘んだその内容を読んでニッコリと微笑みました。
「良い報告ですね。エリオ、次は王の噂雀がナニを囀るのか調べて置いて下さい」
「解りました」
そう言うと、私の情報部の部下の一人であるエリオにそう告げました。
エリオは私の護衛騎士も担っていますが、我が屋で雇っている噂雀達の総括もしています。
何かと優秀な人材の一人です。
ですが、年は私と同じだというのに髪はフサフサ……何とも羨ましい頭皮をしておられます。
「それで、教会のほうはどう動いているでしょうか」
「教会本部にて今回のジュリアス様のご結婚式での騒動は既に伝わり、教会本部はチャーリー王太子を次の王とは認めない方針で纏まったそうです。アルジェナに関してはタリーズ男爵家は御取り潰し、アルジェナの家族は平民に落とされ、彼女は妊娠したまま寂れた教会に入れられるという情報が入っています」
「上々です」
「ですが、本当に宜しいのでしょうか?」
「何がです?」
「国王夫妻にはアホ王子しかおりません。次を担う者がいなくては国が成り立ちません」
「既に成り立ってはおりませんよ」
「……そうでしたね」
そう口にしながら提出されている書類の一番大きな束をポンポンと叩くと、エリオは溜息を吐きながら答えてくださいました。
噂雀からの報告の下に書いてあったこと。それは最早王都では全ての事業が麻痺状態になっており、失業者も続出、盗難窃盗、犯罪の巣に成り代わっているという報告でした。
王都から離れられない貴族は傭兵を雇っているようですが、離れられる貴族は領地に篭っているのが現状です。
その打開策をと王から嘆願書が届いていますが、結婚式での騒動及びチャーリー王太子の私への挑戦状とも言えるリコネルの事もあり、嘆願書を通す事は出来ません。
「最終的に困るのは私だと脅しをかけてきているようですが、今困っているのは国王及びその下にいる国民でしょうに。何故あんなにも出来が悪い弟が国王になれたのか、今でも不思議でなりませんね」
「当時の第二王妃の所為でしょう」
「まぁそうですが」
「いっそ、ご主人様の領を国にしてしまったほうが宜しいのではありませんか?」
「おやおや、その様な事をすればリコネルが働きすぎて疲れてしまいますよ」
冗談と受け流しましたが、実際他の領より『国を興して欲しい。そしてそこに自分達貴族を入れて欲しい』と言った内容の手紙は山の様に来ています。
国王を見限る……と言う事は重大な問題の1つですが、私がそうしているのですから追随する方々も居るでしょう。
また、王都から流れるように我が領には避難民が押し寄せてきているのも事実です。
今は急ぎ、リコネルと共に彼らを受け入れる仮施設を作っているところでもあります。
結局、結婚式後の一週間、そう言った仕事が山のように押し寄せ、夫婦での営みもそこそこに仕事ばかりしていたように思えますが、リコネルと行う政策はとても楽しいものでした。
「失礼致しますわ」
「おはよう御座いますリコネル」
そんな話をエリオとしていると、リコネルが私の執務室へと入ってきました。
此処一週間、リコネルは私の執務室で自分の仕事をし、更に私の仕事への手伝いもしてくださるようになりました。
元来働くことが好きなリコネルにとって、天国のようなものなのだそうです。
「頼まれていた書類を纏めてまいりましたわ」
「おお、助かります」
「次の書類はどちらにありまして?」
「此方の書類をお願いします。緊急にやらねばならないことなのですが、生憎中々手が開かなくて」
「お任せくださいませ、最終判断とチェックはジュリアス様にお願い致しますわ」
そう言うとリコネル専用の机に座り、書類の束のチェックを始められました。
その様子をエリオはジッと見つめた後、私をジッと見つめ返します。
「どうなさったのです?」
「いえ、本当にお似合いの夫婦だと関心致しました。では失礼致します」
そう言うとエリオはカツカツと靴音を立てて部屋を出て行きました。
すると――。
「難民、増えているようですわね。王国はどうなってしまうのかしら……」
「私の方にも他貴族から山のように、この辺境伯爵領を王都にしてはどうかと連絡が来ていますよ」
「すれば宜しいではありませんの」
「色々と手続きが面倒なのです。周辺に戦争をしそうな相手もいないのは解っていますけれどね」
「そうでしたの。でも最終的な判断はジュリアス様にお任せしますわ。安心なさって、わたくしは貴方の味方ですもの」
「ふふ……力強い味方ですね」
お互いクスクスと笑いあいながら書類を整理し、サリラー執事を呼んで指示を出したり、サリラー執事の後釜に育てているランディと言う青年はリコネルを担当してもらいました。
書類の山ももう少し……明日は避難所への視察が待っています。
視察を提案して下さったのはリコネルですが、実際に行って民の状況を見なくては話にならないと言う強い意思で突き通しました。
そして、避難民の代表と今後の話をする予定です。
「明日も忙しくなりそうですね」
「ええ、王都がどんなことになろうとも揺るがない領地があって良かったですわ」
「その為に私達夫婦で領地を支えているのですから当たり前です」
「そうですわね……押しかけ女房からスタートしましたけど、役に立ちまして?」
「無論です」
そんな事をお喋りしながらも手と頭、目線は動き、事態の収集へ向けて働く私達夫婦の姿がありました。




