第11話 ジュリアス様を攻撃するならお解りでして?①
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そして、結婚式当日――。
招待客の半数が、王太子とアルジェナが来ると聞いて辞退した結婚式。
けれど、私やリコネルにとっては余り気にしてない問題でもあり、寧ろ結婚式と言う名の戦いの場でもあります。
領内で一番美しい教会で挙げる結婚式……。
既に来客や来賓達は席に着き、今は、大人しくしているようです。
教会の扉の前でサリラー執事と共にリコネルを待っている間、正直気が気ではありません。
リコネルに対して暴言を吐かれた場合、私は冷静さを保っていられるか、正直解らなくなってきたからです。
「サリラー……私は冷静で居られるでしょうか」
「旦那様、私もリコネル様への暴言を聞いた場合、冷静でいられる気が致しません」
「どちらかは冷静で居ましょう」
「そうですね……」
そんな話をしていると、ヒールの音が聴こえその方面を見つめると……純白の美しいマーメイドラインのウエディングドレスに身を包んだリコネルがメイド長と共にやってきました。
――なんと言う女神でしょうか……。
あまりの美しさに私もサリラーも言葉を失いました……。
編みこまれた美しいベールで顔を隠し、それでもベール超しに見える美しい笑顔。
天使を通り越して女神です。
私の妻は悪役令嬢などではなく、女神だったのです。
「……なんと美しい」
「まぁ、嬉しい言葉ですわジュリアス様」
思わず零れた声がリコネルに聴こえていたようで、花の咲く笑顔でそう返事を返してくださいました。
スッと差し出される手を取ると、その小さくも美しく気高さを感じました。
自信に満ち溢れたオーラです。
それに気付いた瞬間、先ほどまでの不安は綺麗に吹き飛び、筋肉で膨れる胸を張り、堂々と前を向きました。
「貴女と共に生きれる事を、誇りに思います」
「わたくしもですわ」
その言葉と同時に教会の鐘が鳴り、扉が開きました。
さぁ……結婚式の始まりです。
◆◆◆◆
2人で進むバージンロード。
本来なら公爵様が彼女を私の元まで連れてくる予定でしたが、足の悪い公爵様はそれを辞退し、私に全てを委ねて下さいました。
歩調を合わせ2人で進むバージンロードに、視線は喜びのものから怪訝したもの、そして悪意を感じる視線もあります。
悪意ある視線……まぁ、言うまでもありませんね。
「イヤだわ、リコネル様のお相手ってチャーリー様の叔父上なんでしょう? 何故あんなにもぶさいくなの!?」
神父の前に到着した矢否や聴こえたアルジェナと思われる女性の大きな声に、会場は更なる静けさに包まれました。
「頭もハゲてるし、醜いし! 本当に血が繋がってるの?」
「ああ、悲しいことにあの化け物……っと、叔父上とは血が繋がっているんだ」
「信じられませんわね! チャーリー様はこんなにも見目麗しいのに!」
騒ぐ二人に神父様の咳払いが木霊し、会場は静かになりました。
そして進む結婚式、誓いの言葉をお互いに神に誓い、教会の書面にサインを入れる。
この書面へのサインはとても重要で、離婚する時にも必要になる神への契約書。
魔法で出来ており、不貞を働く事はお互いできないと言う契約書でもあります。
また、元々結婚前から不貞を働いていた場合、この契約書に名を書くことが出来ません。
アルジェナはそれに分類されることでしょう。
そして、サインが終わると指輪を互いに付け、誓いのキスになった時。
「うぇっ! 気持ち悪い」
「大丈夫かアルジェナ!」
「リコネル様、よくあんなのとキスが出来るなって……私なら耐えられません!」
そう言って立ち上がったアルジェナに対し、神父が怒りの言葉を口にしようとしたその時でした。
「あら、貴女は結婚できるかも怪しいのに何を仰ってますの?」
「!」
リコネルの響く言葉に会場の視線は私達に注がれました。
「ジュリアス様の良さは、わたくしだけが知っていれば良い大事な事……貴女のような阿婆擦れには解らないでしょうが、わたくし達が幸せそうだからといって文句をつけないで頂きたいですわね」
「文句なんて……ただ思った事を言っただけで」
「王妃になりたのでしたら、そのお喋りな口にチャックでも縫いこんでおきなさいませ。ね? ジュリアス様」
「え?」
不意に声を掛けられリコネルのほうを向いたその時、美しい両手が両頬に伸び、生まれて初めてのキスを……唇を奪われました。
情熱的なキスでした……。
唇が離れる瞬間、私は意識を失うのではいかと思う程真っ赤になってしまいましたが、リコネルは唇を少し舐めた後「幸せの味ですわね」と悪戯っぽく微笑んだのです。
「信じられない……あんなのがいいなんて。それにあんな情熱的なキス……やっぱりリコネル様は他の男性と遊んでいらっしゃったのね!!」
そう叫んだアルジェナに、リコネル様はクスクスと笑い私の両手を掴んで微笑まれました。
「本来、情熱的なキスとは、心から愛した男性とするものでしてよ? 他に男性が数人いらっしゃるアルジェナ様」
「なっ!」
「何時か契約書に名を書ける日が来ると良いですわね。契約書の意味をご存知? 神への誓いですわよ? 不貞を続けていれば書けませんわよ」
リコネルの言葉にアルジェナは顔を真っ赤にして「嘘を言わないで!」と叫んだ。
「あら、証拠が欲しいんですの?」
「証拠なんてあるはず無いじゃない!」
「では、沢山依頼して撮ってきて貰ったアレを会場の皆様におくばりしますわ。無論、チャーリー様も真実を知りたいでしょうしね」
そう言ってリコネルがパチンと指を鳴らすと、私達が入ってきた扉からリコネルの商会で働いているナナリー、ピカリー、ニナニーが入ってきて、会場にいる皆さんに【プレゼント】の入った封筒を一人ずつ手渡されました。
それは、王であっても、王妃であっても同じ、一人一つずつです。
「結婚式へ参列して下さったアルジェナ様とチャーリー様へのプレゼントですわ。是非会場の皆様、開けて中を見てくださらない?」