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転生も色々

 リビングに戻った少女は、ひとまず人数分のお茶を用意すると言って離席した。その隙に4人の男達は小声で何やら話し合っている。


「説明会とは言ったものの何から始めようか」

「事態は一刻を争うのだ、主の記憶は戻らないのか?」

 少女が包むと言ってくれたクッキーを結局今食べながら青年が言うと、神妙な面持ちで(元)白蛇が聞き返す。すると青年は他の2人に目を向けた。

「それがどうして記憶がないのか現状だと全く分からなくてねぇ…王2人は分かっててお嬢さんと一緒にいたの?」

 その声に(元)黒猫と(元)白猫が答える。

「いや、我は知らなかった」

「オレも、昨日コイツが連れられて来てマジでびっくりした」

「そうなんだね……え、じゃあまさかとは思うけどあくまで“薔薇”探ししてた2人が一緒になっちゃってるってことかい?」

「「…………」」

 サクサクと相変わらずクッキーを美味しそうに食べ進めながらそう言われ、バツが悪そうに黙る2人。そんな様子を見て溜め息を吐いた白蛇が、青年からクッキーの皿を取り上げながら言い放った。

「何にせよ皇帝が崩御された今、主にはすぐにでもお戻りいただく必要があるのだ

 ありのままを話すしかないのでは?」

「あー僕のクッキーだよひどい!」

「いや貴様の物ではない」

「側近に賛成、あとラグナートの言う通りそれはお前のじゃない返せ」

「包むって言ってくれたから僕のだよ!」

 この4人、彼女が戻るまでに話の筋を立てる気が本当にあるのだろうか。もし第三者がいたらきっとそう思っただろう。しかし軌道修正してくれる人物はここにはいないため、話はどんどんクッキーの方に逸れていく。始めは座っていたのに全員が立ち上がる始末だ。

「ゴシュジンが焼いたクッキーなんだからむしろオレとラグナートの分だろ」

「フン、当然だ」

「いや違うね、お持ち帰りの許可を貰った僕のだ」

「主は人数分のお茶を入れて下さると仰ったのだ、つまり全員分のお茶請けにされるおつもりと推測するのが妥当では?」


「お待たせしました………って何だこの殺伐とした雰囲気は」

 バチバチと火花を散らしていた4人は、少女の声ですぐに大人しく椅子に座り直す。結局なんの筋も立たないまま説明会に突入してしまった。




「私が……転生者、ですか」

 結局青年は、少女がどういう存在なのかを大雑把に話し始めることにした。彼女は表情こそほとんど変わらないものの、混乱しているのは明白だった。それもそのはず、青年の一言目は“君は転生者で僕や彼らは転生前の君をよく知ってるんだよ!”的な内容であまりにも唐突過ぎたのだ。


「転生者というと最近後輩達の間で流行っている漫画やアニメの主人公のような感じか…?」

 顎に手を当てて独り言を言う彼女を見て、ベルフェが口を開く。

「この間ゴシュジンがおすすめを強制的に持って帰らされて来たやつも転生話だっけ?」

「ああ、あの漫画とやらの内容はそうだったな」

 答えるラグナート。2人の会話を耳にした青年は目を見開いた。

「漫画?アニメ?はよくわからないけどなんだい、こっちの世界じゃ転生ってそんなにポンポンできるものなのかい?

 古代の秘術だよ?え、そんなレベルの術者がホイホイいるってこと?怖すぎ」

「怖いなどとどの口が言ってるんだか……」

 また溜め息を吐いて白蛇が呆れて言うと、考え事から意識を戻した少女が会話に参加する。

「いや、あくまでも作り話の中でいわゆる流行りのジャンルになっているんだと思います

 よく後輩達から聞くのは、自分の見ていた物語の悪役令嬢に転生していたとか、事故や事件でこっちの世界で亡くなった人がチート級のスキルを持って異世界に生まれ変わったとかそんな感じだったと思います」

「へぇーーーーそんな話が流行ってるなんて興味深いね」

 好奇心に満ちている様子の瞳は、通常の水色との割合よりも黄色味が強くなっている気がする。少女はそれが不思議でつい瞳を見詰めたまま会話を進めた。


「でも私はどうやら、()()()()転生者ではなさそうですね」


 彼女に見詰められた青年はピタッと動きを止め、残る3人は息を呑んだ。


「………あの?」


 黙りこくった4人に居心地が悪くなったのか、少女が首を傾げる。どうやらこの仕草は彼女の癖らしい。


「ハッ!ごめんごめん君の“気”が元に戻ったのかと思ってびっくりしちゃったよ」

「主、やはり貴方様の“気”程高潔なものはありません」

 笑う青年と、胸に手を当てて頭を下げる白蛇の青年。

「これがかの……確かに皇帝によく似ているがしかしそれよりも遥かに………」

「マジでゴシュジンがそうなんだな…」

 感慨深そうに呟くラグナートとベルフェ。


「あのね、君は確かに転生者だけれど、少し複雑なんだ」


 “気”とはなんだろうとまた首を傾げていた少女に向かって、青年が優しく言う。


「主よ……どうか、どうか我らの世界にお戻り下さい」


 少女が青年の言葉を理解しようとする前に、白蛇の青年が、堪えきれなくなったようにその青みがかかった黒の瞳で切実に、声を震わせながら縋るように口にした事でその場の雰囲気はガラリと変わった。




 曰く、白銀の青年と白蛇の青年は彼女を()()に来たのだと。

 曰く、彼女は本来彼らの世界の住人であったのだと。

 曰く、あえて転生先という言葉を当て嵌めるなら、それはこれから向かって欲しいと言われた彼らの世界ではなく彼女が今生きているこの世界なのだと。

 曰く、彼女をこの世界に転生させたのは他でもない白銀の青年と“皇帝”であったのだと。

 曰く、その世界の命運が彼女に大きく左右されるのだと。

 曰く、彼女の愛猫達もその世界の住人で、帰還要請がなされているのだと。

  

 ざっとまとめるとそんな内容の話を聞かされる。何を聞いても、現実味なんてものは一つもなかった。ああそうですかと言えるような内容ではなかった。だが少女は、ただ聞いていた。彼らの言葉を一言一句聞き逃さなかった。真っ直ぐに彼らを見詰めて話を聞き続け、彼らが一区切りすると一口紅茶を口にして小さく息を吐いた。


「つまり私はこの世界に転生して生活していたけども、転生元の世界の皇帝が崩御されたことで元の世界に私が必要となっているという現状があるわけですか…そして本来貴方と白蛇さんのどちらかと接触した時点で戻るはずの元の世界の記憶が何故か戻っていない、と」


 淡々と、冷静に言葉を紡ぐ。まだ成人もしていない少女にしては落ち着きすぎているとも言えるそんな様子に、4人は少し驚いたようだった。

 

「……信じられないだろう現象を見せまくった僕が言うことじゃないけど、疑わないのかい?」


 どこか不安気に言う青年と、同じような感情が見て取れる3人の表情。そんな彼らに少女は決して大きくはない、むしろ静かなのによく通る声で言い放った。


「受け止めます、と言ったじゃないですか

 それにどんなに非現実的でも、少なくともラグナートとベルフェが言うことなら私に疑う余地はありません」


「っ」「ゴシュジン…!」


 彼女の言葉に、愛猫であった2人が瞠目する。白銀の青年もどこか嬉しそうにうんうん頷いていて、白蛇の青年はまた深々と頭を下げた。


「…主よ」

「うん?どうした、ラグナート?」

「皇帝が崩御した以上、我もベルフェも戻る他ない、それは変わらん

 我らの世界が主を必要としているのも事実だ、急を要していることもな

 だが……我は、主がこの世界に留まりたいならばその意志を曲げる必要はないと考える」 

「…………オレも、そうなっちまうともうゴシュジンには会えなくなるけど、無理にあっちに行かなくてもゴシュジンが幸せならそれでいい

 “世界のため”とかって言うのは簡単だけど、それこそ作り話みたいに急死した先で無双するわけでもストーリーが分かってるから回避できるってわけでもねぇんだ」

 ラグナートに続いてベルフェはそう言った。どこか苦しそうなラグナートと泣きそうに見えるベルフェのその表情に、少女の胸が痛む。彼らはどんな姿でも彼女の大切な大切な家族なのだ。


「王2人の意見は...僕達には許容できないけれど」

「なぜか無責任だと追求する気になれないのもまた事実だな……困ったものだ」

 残る2人の小さな声は少女の耳には届かなかったが、彼女は結果的にその心配を払拭する答えを出す。 

 

「2人とも、そんな顔しないでくれ」 

 優しい響きは、彼らが選んだ主の声。

「私のことを最優先に考えてくれてありがとう」

 ふわりと両手を使って頭を撫でるのは、唯一信頼できると見染めた温かい手。


「行きますよ、私」


「でもゴシュジン!」

「簡単に言うものでは…」


 声を上げる2人を制止して、青年達に向き直る。

「いいのかい?いや正直僕達としては話が早くて助かるしそもそも選択の余地なんてないって言うべき立場なんだけれどね」

「主……」

 苦笑する白銀の青年と、申し訳なさそうに眉を下げる白蛇の青年。少女の答えは決まっていた。


「この子達ともう会えなくなるなんてのは考えただけでも耐え難いですし、記憶がもしあればそちらの…元の世界の私はきっと、戻る選択しかしないような気がします

 根拠はありませんが、私が私なら多分そういう奴です」


 言葉尻に“知らんけど”、と言外に含んでいるような、そんなどこか軽いとさえ感じる言い方だった。それが彼女なりの優しさだと、愛猫だった彼らは勿論、元の彼女を知る残りの2人もすぐに分かった。だから今彼らが彼女に見せるべきは暗い顔ではなく、笑顔だと4人は承知している。


「……皆さんやっと笑いましたね


 すぐに行きますか?一刻を争うんでしょう?」


 ──あぁ、皇帝陛下、僕達の選択は何一つ間違ってなかったんだよ。──

 青年は心の中で、今は亡き人物に向かって語りかけた。    




 前世は何一つ良いことがなかった。

 何一つ恵まれていなかった。

 虐げられていた。

 生き甲斐がなかった。

 でも、この世界では最強!

 …そんな話とは違う。


 目を覚ましたらあのキャラに。

 この先の展開を知ってる。

 悪役ルートを回避する。

 闇堕ちを阻止する。 

 幸せになってみせる!

 …そんな話とも違う。


 崩御。

 陰謀。

 謀殺。

 混乱。

 混沌。

 腐敗。

 汚染。

 聞いただけでも、ネガティブで重い言葉だらけ。おまけに何一つ記憶にないなら元の世界は未知の世界と変わらない。

 それならこれもまた、“転生”なのではないだろうか。 


 お先真っ暗かもしれない転生物語、そんなシナリオをどう進めるのか、全ては少女自身に委ねられているらしい。




「ご両親はなんて?」

「ひとまず私は別の世界に行かなくてはと掻い摘んで話したのですが…

 “オーソドックス転生らしい死んでからの魂遷移は許すまじ、世間には失踪扱いにしておくからなんとしてでも暗黒魔法だろうが古代魔術だろうがなんでも良いからいつか顔を見せに帰ってこい”と言われました

 我が親ながらこんなにあっさり……」

「…ゴシュジンの親ってゴシュジンの親だよなぁ………」

「我が主の肝の座り様は親譲りか…」

「いつか私もご挨拶に伺いたいものです、実に豪胆かつ愛情深き素晴らしいご両親ですね、主」

 数刻の後、杖を使って青年が描いた魔法陣の上。4人のこの世界での最後の会話は誰かが聞いていたらユルすぎないか?とツッコまれそうな物だった。しかもよく見たら青年は杖を持つ手とは逆の手でしっかりクッキーの袋を握っている。シリアスさは皆無だ。


「世界の行き来なんて暗黒魔法でも古代魔術でも前例がないんだけど……ふふ、なんでだろう、君ならいつか本当に出来そうだなって思ってしまうね

 転生にも色々あってもおかしくない、なんてこの僕が思う日が来るとはなぁ」


パアアアアア、と魔法陣が光り、転移が始まる瞬間に誰にも聞こえない声で青年は呟いた。




 “転移空間”というらしい、全てが黒に染まった中にオーロラのような光彩が混ざる不思議な空間を移動する最中。


「名乗り遅れました、私の名はメルキセデク、貴方様のただ1人の顧問魔術師です」


 白銀の青年は胸の前に手を置き、ぺこりと頭を下げた。突然丁寧になった口調に少女は驚く。

「顧問魔術師…?

 えっと、メルキセデクさん、よろしくお願いします

 ……急にそんな話し方をされると違和感がありますね」

 それに答えるように青年はふふ、と笑ってあの口調に戻る。

「いやぁ元の君も僕がちゃんと改まって喋ると“なんか気持ち悪い”とかって容赦なかったんだよねぇやっぱりこっちで良いよね!ね!良かった良かったあまり堅苦しいのは好きじゃないんだ

 というか僕にさん付けはいらないし敬語もいらないよ?」

 敬称と敬語に関しては慣れるまで時間をくださいと答えておく。話し方に関しては“気持ち悪い”とまでは現状思いませんがその饒舌さは少し減っても良いかもしれませんね、と言うのは何となくやめておこうと思う少女であった。


「……私はとある神の使徒ですが、貴方様の側仕えでもあります」 

 続いて頭を下げる白蛇の青年。彼は名乗らなかった。

「よろしくお願いします、えっと…」  

 言葉に詰まった少女の心情を察したのか彼はすぐに補足する。

「私に名はありません、そこのメルキセデクや他の者は“側近”と呼びますし

 貴方様に呼んでいただけるのであれば、先程までのように“白蛇”で充分でございます」

 名前がないというのは少女には馴染みがなさすぎる。それに“白蛇さん”と呼び続けるのも味気ない。少女が少し残念に思っていると、白銀の青年─メルキセデクがのんびりとした声で言った。

「彼女に名前を貰ったら良いじゃないか」

「え」 

 思わず声を出した少女の驚きとは対照に、白蛇の青年は瞳を輝かせる。

「もし頂けるのでしたらそれは何より尊く嬉しいものでございます」 

「でも…神様?に仕えているならその神様が名付け親になった方が良いとかそういう……」

「いえ、神の使徒は皆名前がないものなのです

 正確には使徒だからということでなく、そもそも我らの世界ではヒト以外は名前がないことの方が普通なのでございます」

 だから自分が認めた主人に名付けでもされない限り、固有名は存在しないのだと説明を受けた彼女は、そんな大事な名前を私がつけても良いんですかと躊躇いがちに尋ねる。

 そんな彼女に白蛇の青年はこれ以上ないくらい丁寧に腰を折った。


「じゃあ……貴方の名前は

 そうだな、とても綺麗な黒髪だから…………アーテル、アーテルはどうでしょうか」


 少女の言葉に、腰を折っていた青年がそのままの姿勢で答える。

「素晴らしい名をありがとうございます

 このアーテル、貴方様に全てを捧げお仕え致します」

 神様の使徒なのに私に全てを捧げるとか言ってしまって良いんですか?とは到底言えない雰囲気だったので、少女はただ自分もお辞儀することで応えた。


「「......」」

 最後に、何故かムスッとしている二人に視線を移した。2人とも少女の目にはいつもの猫の姿が重なって見える。

「2人は...こっちが本当の姿なのか?」

 少女の声に、ベルフェが答える。

「ん~......そうっちゃそうなんだけどよ」

 どこか歯切れの悪い回答に、ラグナートが続ける。

「我らはヒトではないからな、そこの蛇が言ったように固有名もない種族だ」

「そ~そ~、オレとラグナートは獣人っていう類なんだぜ

 この姿はヒト型、でもケモノ型もあるってわけ

 あ、いつものあの(ネコの)姿とは違うぞ?」

「ケモノ型..................」

 少女の瞳が鋭く光った。メルキセデクとアーテルがパッと表情を引き締めるが少女の目の前の2人はニヤリと口角を上げる。


「まさか......もふもふ?」


「へ」「はい?」

 気を張っていた表情から一変、ポカンとした2人を見て、ベルフェが噴き出した。

「ブッ、っははは!

 やっぱゴシュジンはそういう反応すると思った!」

「…我は主のこの呑気さだけはたまに危機感を覚える」

 そう言いながらもラグナートの表情は柔らかく、メルキセデクもアーテルも驚いた。そして2人で顔を見合わせて何やらコソコソ話し始める。


「今の見たかい?あの蒼の王があんな顔してるの初めて見たよ僕」

「うむ…冷酷無情で有名だからな」

「君って丁寧に話すの彼女だけなの?分かってたけどさ」

「私が慮るのは常に神と主のみ、他に何故その必要が?」

「うわぁ蛇のくせにとんだ猫かぶりめ知ってたけど!」

「主との再会に高揚する気持ちは分かるが昨日からいつにも増して喧しいぞ」

「ひどい!」


 絶妙に聞こえない大きさで会話しているため少女は早々に彼らを無視して、(元)愛猫達に向き直った。

「いやごめん、もふもふはさておき2人に聞いておきたいことがあって…」

「「?」」

 居住まいを正した飼い主に、2人も倣う。

「さっき“固有名のない”って言ってたから…今私が呼んでいるのは保護した時に勝手に付けた名前だろう?

 これからどうしようかって」

 ラグナートとベルフェの飼い主は、あまり表情が変わらない。しかし彼女は別に無表情に徹しているわけでなく、単にそういう人なのだと共に過ごす中で知った。そしてその分、声が感情を表していることも。

「そのように申し訳なさそうにするな」

「そうだぞゴシュジン、オレこの名前すっげぇ気に入ってるし!」

「でも…」

「我ら誇り高き獣人は、そもそも気に入らぬ相手の名付けには応じん

 主に保護された時、もしも認めぬ相手ならば傷が癒え次第姿を消していただろう」

 そう言うラグナートの大きな手が、少女の頭をポンと撫でる。そこにいつの間にか内緒話を終えたのかメルキセデクがひょいと割り込んできた。

「大丈夫だよ、彼らは本当に君のくれた名前が気に入ってるみたいだ

 ちゃんと主としても認めた上で向こうの世界の生活をしてたんだねぇ」

「そんなのどこで分かるんです?」

「ふふー、目的地に着いたら教えてあげよゴフッ!!」

「主に対して勿体ぶるな」

 アーテルに鳩尾に一発食らったメルキセデクが唸るのを少し引いて見た後、少女は2人に向き直って一言だけ告げた。


「2人が嫌じゃないなら、良かった」


 この声には優しさが詰まっている。本当に表情とは対照的に豊かな声音だ。きっとそれすら、長く過ごした2人だから細かく分かるほどの違いなのだろうが。


 3人の様子を鳩尾をさすりながら眺めた後、メルキセデクが宣言する。


「さぁ、そろそろ転移完了だ


 着いたら君の名前を教えておくれ、お嬢さん(あるじどの)



「私の名前は........................」



 少女の声は、唐突に明るくなった景色の中に溶け込んでいった。




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