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<上>~出会い~

~キャラクター~


主人公:ヘルベルト・レイズ・フレーベル。代々有名な剣士を生み出している家系に五男として生まれた、普通の剣士。


ヒロイン:レーナ・レナ・ファイズ。謎の家系に長女として生まれ、『英勇者』と呼ばれる、伝説の勇者。強さは世界一ともいわれる。剣士でありながら、聖女と呼ばれる、補助役の力もある。


・見た目


主人公:茶色の髪を短く切り、金色の鋭い目で、肌の色は白。服は動きやすさを重視したベルトが多いもので、アクセサリーなどはなし。傷などがなく、戦場に出たことのない、初々しさが出ていた。


ヒロイン:赤の髪を肩ぐらいまで下げ、青色の目。柔らかさが目立つ。肌は白で、服は青のワンピースで可愛らしく、伝説の騎士と言われてもあまり実感がない。花のアクセサリーを頭に付けており、子供っぽさが目立つ。

~序章~

ヘルベルト・レイズ・フレーベルは、才能に乏しかった。

だが、努力家だった。

フレーベル家は、比較的いい家で、代々有名な剣士を生み出していた。

ヘルベルトはそこで、五男として生を受けた。

一つ上の兄さんは、才能に恵まれていた。


――彼は、努力家だった。


もう一つ上の兄さんも才能に恵まれていた。


――彼は、努力家だった。


更に上の兄さんも才能に恵まれていた。


――彼は、努力家だった。


長男は、伝説級だった。才能も、努力も凄かった。

とにかく、凄かった。

彼は、そんな兄たちをみて、剣士を目指した。


――彼は、努力家だった。


努力家だが、決して真面目ではなかった。

親の言いつけをやぶり、裏庭で鍛錬した。

決して休む日はなかった。


――だが彼は、非才だった。


兄にも、親にも言われた。


『そんなことしても意味が無い』


と。

彼の中で、色んな言葉がよぎった。

絶対に、兄さんを超えてやる。

最後にそう決心した。


――彼は、努力家だった。


約五年の時が過ぎた。

そこで彼は、戦いの大会に出場することにした。

そうして、両親に、兄に、証明するために。

無駄じゃなかったと。


――彼は、努力家だった。


はずだった。

何もできずに、あっさりと負けた。

あんなに努力をした。はずなのに。

一番最初の試合で、負けた。


――無駄。


負けた。


――無理、無駄。


何もできずに。


――無理、無駄、無謀。


努力したはずなのに。

努力を信じたはずなのに。


――無理、無駄、無謀、無為、無茶、不可能、不条理、不合理、理不尽、非合理


信じたのに。


――信用、信頼、信切、信念、信心、信奉、信憑、信赖、信服、信望、信任、信条、信託、信仰、信念、信賞、信受、信愛、信照、信楽


どれも違う。

ただの


――過信


だった。


――彼は、努力家だった。


その日から、彼は、才能に恵まれている人を恨み、超えようとした。

しかし、すぐにやめた。努力じゃ超えられないと、思い知ったから。

彼は、生きる意味を失った。

その代わり、

”彼女”を恨んだ。

何もしなくなった。

諦めていった。

”彼女”は何もしていないのに、才能に恵まれていたから、周りからあんなに称賛を受けているんだ。

という、嫉妬をした。


――彼は、努力家”だった”。


彼は、家を飛び出した。

何も出来ないし、変われないのに。


――彼は、努力をしなくなった。


”彼女”、『英勇者』レーナ・レナ・ファイズに会うまでは。


~第二章~

気づくと彼は、何もない草原に大の字に寝転がっていた。

小さくだが、先程までいた都市が見える。

都市を見るために上げていた頭を落として、彼はまた、寝転がった。

「はぁ」

ものすごく大きくため息をした。

「ものすごく大きいため息ね」

凛とした声が響いた。

最初は何か理解できなかった。

すぐに何者かがいると理解した。

「……誰だ」

起き上がって、家出した際に盗んだ剣の柄に手を置いて、目線を鋭くし、言った。

「そんな怖い目しないでよ」

彼の前に居た赤髪を肩まで下した少女は可愛く膨れっ面をし、言った。

「……するだろう、普通。こんなところに何の用だ」

彼は不安げな顔で言った。

なぜなら

(こいつ、隙が無い……)

から。

彼女の立ち回りは、どう動いたって防御しきれる位置だ。

彼の実力では到底叶わない。

「う~ん。何の用、か。暇つぶし、かな?」

最後は可愛らしく笑顔で言った。

「なぜに俺に聞く……。言い訳みたいだな」

彼は不安を呆れにし、肩の荷が下りたように言った。

彼女が足を延ばして座り、隣を手でトントンとたたいたので、仕方なく彼はその隣に座った。

「言い訳、かもね。だって、これでも家を脱出してきた身だから」

「俺は家出してきた身だ」

彼女の言葉に、彼は競い合うように言った。

彼の言葉に、彼女は青色の目を見開いた。

「それってだいぶやばいのでは……」

「もう、生きる意味を失ったよ」

そこまで気にしてなさそうに彼は答えた。

そんな彼に――

「前までの生きる意味は?」

さっきまでの子供らしさを無くして、鋭い目線で彼に聞いた。

「剣士になる。いや、強い剣士になる」

「……だいぶ抽象的ね」

彼の答えに、彼女は子供らしさはないが、鋭い目線を消して、呆れた様子で言った。

「でも、剣士になるのも諦めたのなら、その剣も要らないんじゃないの?」

「――ッ」

彼女の予想に、彼は心を痛めたように言った。

実際、彼女の予想通りだった。

心の奥底で、まだやれると思っていた。

外は危ないからという理由で、建前で盗んだ。

自分に言い聞かせて。

こんな草原に誰も来なければ、動物も、魔獣も来ない。

それは分かっていた。分かり切っていた。

だけど、持ってきてしまった。盗んでしまった。

「なんで、諦めちゃったの?」

「才能がないからだ」

彼は重々しく言った。

「才能がなくても、努力すれば――」

「努力してもかなわなかった。強くなれなかった」

彼女の言葉を遮って彼は言った。

「誰かに教わらないと、強くはなれないわよ」

「俺に教えてくれる馬鹿がいると思うか?」

彼は自分を嘲笑するように言った。

「じゃ、バカな私が教師をしてやろう」

彼女は最初の子供っぽさを戻して、大げさに、偉そうに、胸を手でたたいて言った。

「ま、暇だし、先生のお言葉に甘えようか」

と、彼は久しぶりの笑みを浮かべたのだった。

――と、そこで彼は気づいた。

「あ、俺らまだ自己紹介してなくねぇか?」

ちょっと余裕を取り戻した彼――ヘルベルトが、少し慌てたように言った。

「もう、今更ね」

呆れたような、膨れっ面しているような、非常に分かりにくく彼女は反応した。

「じゃぁ、俺から。俺は剣の才能がない最弱の剣士。ヘルベルト・レイズ・フレーベルだ」

という彼の自己紹介に、彼女は「えぇ……」と少し引いた。

「……おほん。えぇっと、気を取り直しまして。私は剣の才能が多分ある、自称最強の騎士。又は剣士。……えぇっと、ア、アリスフィアです」

「なんで少し考えた?まぁ事情があるんだろうけど……それじゃ隠してんの、バレバレじゃねぇか」

彼女のてんぱった自己紹介に、今度は彼が呆れる番だった。

――彼の怒りと動揺を心に隠して。


~第三章~

彼女の特訓は少し意外なところから始めた。

「よく、『どれだけ早く相手をつけるかが大切だ』とか言う人居るけど、私はそれ、お勧めしないかな」

まずは彼女なりの『型』を知ることから始める。これは当たり前だ。理想の『型』を決めずに訓練するのは馬鹿と言っても過言ではないだろう。

要するに未来予想図がないという事なのだから。

「じゃぁ、何をするんだ?」

「簡単よ。攻めるんじゃなくて、防ぐ、避ける」

彼女は自分の『型』を指を上にして教えた。

「いつか攻めなきゃ勝てねぇだろ」

「いつかね。でもその前に守備を万全にする。それが大切よ」

「要するに力技じゃ勝てねぇからまずそれを防いで相手の『型』を見破るってことか」

彼の言葉に彼女は諭し言葉で返し、彼はその教えをまとめた。

「流石はって感じね」

彼女は彼に自分の『型』を見破られて、少し驚いた。

「それほどでも。それより、体を動かそう。それが一番だ」

「頭を使うことも重要よ」

彼らしい言葉に彼女は呆れで返した。


「いてっ!」

「全く読めてない」

「だいぶ無理があるだろ、これ⁉」

後ろから彼女が木の模擬刀で振り落とし、それを気配かなんかで防ぐ。

とても素人にやらせることではなかった。

――彼も素人ではないが。

「いったっ!もうちょっと弱くしてくれ!」

「それじゃ訓練にならないでしょ?」

「お前見た目以上にスパルタだな⁉」

それを百回二百回と繰り返し、ある程度慣れていく。

前はあんなに成長しなかったのに。


「何が違うんだよ」

休憩の彼女がいないところで、八つ当たり気味に彼は言った。

「目指してる『型』」

「……っ⁉いつの間に……」

突然現れた彼女に驚いて、彼は反射的に剣の柄に手を置いた。

しかし、すぐに彼女だと分かり手を放す。

そんな彼を見ずに彼女は続けた。

「あなたは力を強くしようと素振りを続けてた。だけど、それじゃ強くなれない。才能がないなら、技術力を上げないと。まぁ、一人だとそういうのに気づけないんだけどね。だから、誰かに教わるのが大切。分かった?」

「あ、あぁ」

いつもとは違う、さっきの鋭い彼女とも違う、どこか悲しげな様子で言った。

いや、悲しげというより、自分に対しての苦笑だろうか。

そんな彼女が美しくて、彼は少し惚れていた。

「さ、続き続き」

いつもの子供っぽさを戻して、彼女は特訓を再開した。


「はい、気配を感じ取る!その構えじゃダメ!」

「痛い痛い!」

どんなに見繕っても、傍から見れば彼をいじめているように見えるだろう。

しかし、確実に彼は強くなっていた。

正確に言えば、気配を感じ取れるようになっていた。


「魔力を剣先に集中させて……ポンっと放つ……あれ?」

「ちょっ⁉うわっ!」

彼女は思っていたより魔力を入れ過ぎたようで、見本のはずが彼を吹っ飛ばしてしまった。


「力がないなら、相手の力を使う!例えば、相手の力を流して!こう!」

「ぐはっ!」

相手の力をそのまま受け流し、刀で受けた力のまま回転して相手の首に手刀打ち。

彼は見事に倒れ、剣を落とし――

「……あ~。ちょっと強すぎたかな?」

「……」

意識が飛んだ。


色々あったものの、順調に彼の剣技は良くなっていっていた。

「そういえば、お前は何で家から脱出したんだ?」

休憩の時、最初の彼女の言葉を思い出して彼は聞いた。

「周りの人がうるさくてね。『お前の才能は天からの授かりものだ。だから使命を全うしろ』って」

どこか遠くの方を見ながら、彼女は言った。

「使命は全うするべきだろう」

非才の身にとって、才能は楽できるものだと思うものだ。

努力したときに、差が出来るのだから。

「そうね。だけど、そういうのに紛れて、仕事を押し付ける人もいるわ。そういうが私の周りに多かったってこと」

だが、才能があるからと言って、楽できるものではない。

逆に言えば、才能があるからこそ、ない人以上に努力しなければならない。

――それが使命だから。

「だからと言って、才能がないから何もしないっていうのも馬鹿だと思うな私は」

「ん?」

急に小さく何かを言った彼女に彼は首を傾げる。

「何でもない」

彼女はいつもの笑顔を取り戻した。

――少し悲しさが混ざっていたが。


~第四章~

あれから約一年――は盛り過ぎか、まぁとにかく時が過ぎた。

王都は混乱に包まれていた。

世界で最もおそれられていると言ってもいいであろう伝説の生物――魔獣が復活したとのことだった。

正確には前の討伐で倒し切れなかった。いや、倒し切れていなかった。それに気づいていなかっただけだった。

王都に兵隊や傭兵、商人や職人がなだれ込む。

魔獣は王都の近くに生息している。と言ってもそこから動かないそうだが。

魔獣の大きさは王都並み。狼のようなその巨体が王都を蹂躙することも可能だろう。

しかし、余り好戦的ではなく、近くによらない限り、攻撃してこない。

――それが、人間の攻撃準備時間を与えてしまうことになる。

「伝説の勇者、聖女とも称えられている『英勇者』が今回は参戦することとなった!」

「おぉぉっーー!」

歓声が広がる。

場所は王都の門の前。と言っても外だ。彼らは今夜、魔獣と決戦することとなった。

テントを張り、机を置き、作戦会議をし、兵を集め、士気を高める。

そんな夜戦と野戦の中で、”彼”の姿があった。

「……ヘルベルト」

少し控えめな声が掛かった。

「ん?あぁ、アリス……いや、レーナか。どうしたんだ?」

その声を掛けた”彼女”に”彼”は笑顔で答えた――作り笑いの。

「その……ごめんなさい。黙ってて」

申し訳なさそうに”彼女”――レーナ・レナ・ファイズは言った。

「はぁ。ま、いいよ。最初っから言われてたら俺も感情的になってただろうからさ。それにお前にはたくさん助けられたよ。レーナ」

彼は呆れを含ませ言った。最後の言葉は今まで聞いたことのないぐらい、優しかったが。

「うん。ありがと」

彼女は涙を含ませながら言った。彼の気遣いがどれだけうれしかったかは彼にも分からない。


――彼こそが、『努力家』だ。皆そう思うようになっていった。


「右を押さえろ!!左に誘導!!」

「正面に来るぞ!!突撃!!」

「騎士隊12番!!退却しろ!!」

号令やらなんやらが飛び交う。

時は討伐の終盤。

一見して事態は混乱に陥っていた。

しかし、確実に魔獣を追い詰められていた。

慎重に慎重に、自分たちが見たことのない技が出ても対処できる位置に移動しながら。

――しかし、そんな警戒も無駄だった。

「グォォォォーー!」

魔獣が雄叫びを上げた。

そして、魔獣は動きを止めた。

「なんだ?」

「終わったのか?」

「いやそんなことはないはずだ」

混乱が困惑に変化した。

皆、攻撃を止め、後退し始める。


「何なんだ。こんな動き聞いたことないぞ」

「えぇ。私も知らない。……けど、とにかくやばいのは分かる」

ヘルベルトの八つ当たり気味の疑問にレーナも賛同し、勘のような予想を立てた。

「逃げた方がいいか?」

「……そうね。だけどもう遅い」

彼の質問に、首肯し、しかし無理だと否定する。


「おい、動き出したぞ」

「何してんだ?」

「やべぇんじゃねぇか?これ」

魔獣は空を見上げて、口を開けた。

「ワォォォォォォォォォォン!!」

それは狼のような雄叫びだった。

腰を下ろし、顔を月に向け、吠えた。


――次に瞬間、景色が壊れた。


それは錯覚だった。

正確にはそれは景色が歪んだのであった。

――俗に言う魔力の”光線”で。

大地が解け、空気が膨張し、水が蒸発する。

それは誰にも敵わなかった。

魔獣は”光線”を自分の足元から、どんどん上に向けていった。

そして、王都が両断される。

はずだった。


――『英勇者』がいなければ。


彼女はいわゆる”居合切り”で、”光線”を散らし、そのまま魔獣にダメージを与えた。

魔獣は怒り、吠え、尾を振り回し、地団駄のようなものを踏み、威嚇した。

そして、魔獣は地面の中から岩の槍を突き出す――つまり魔法を使った。

「はああああああ!!」

彼女の斬撃。

それを見て、皆動き出す。

「おい!ボーっとしてないで行くぞ!!」

「おぉぉぉぉぉぉ!!」

彼女が魔獣に飛び掛かり、魔獣は吠える。

それに乗じて皆が突撃する。

ヘルベルトは一人彼女と同じような技が使えるため、近くで援護している。

他にも伝説級の人物が得意な立ち位置に居る。

「よろしく頼むぞ!クリスティナ!!」

「あぁ!」

クリスティナ・フォン・アルベルティ。

『異長者』の異名を持つ、伝説級の突撃が出来る人物。

そのため、主力部隊の彼女たちと一緒にいる。

「はあああぁぁぁぁ!!」

「おぉぉぉらぁぁぁ!!」

レーナとクリスティナの斬撃。

クリスティナの見た目は立派な女性なのだが、何せ言動が男性っぽい。

という重大な欠点を持つ。

そんな軽口を言えるのもこれで最後だろう。

「へっ⁉」

「なっ⁉」

弾かれた。攻撃が。

必殺技とも言える挟み撃ちが。

そして――

「おい、あれは何だ?」


――本当の悪夢が始まる。


「煙か?」

「しかし茶色いぞ」

「見たことない」

「あれも魔獣の攻撃か?」

「とにかく退却した方がいいだろう」

彼らは知らない。


――それが、”砂嵐”だということを。


「おいなんか速くないか?」

「思ってたよりデカいぞ」

「マズイ!」

蜘蛛の子を散らすように皆逃げていく。

その最後のあがきを嘲笑うかのように魔獣が踏み潰していく。

「あぁぁぁ!!」

「オイオイオイ!!」

「待ってくれ!待って――」

バンという地面を踏む音が聞こえれば、グシャッという、何かが潰れた音が聞こえることもある。


ヘルベルトは何も考えたくなかった。

否、何も考えられなかった。

動けなかった。

見れなかった。

落ちた剣すら取れなかった。

「絶望するにはまだ早いぞ。ほら、立て」

そんな彼に手を伸ばしたのはクリスティナだった。

そんな中でも、希望を捨てずに闘っている人がいた。

そんな中でも、約束を忘れずに考えている人がいた。

――魔獣を倒すという希望。

――魔獣を倒すという約束。


――これまでの、仇を討つという、希望、約束。


それを見れば、立てずにはいられなかった。

辺りを見れば、主力部隊のメンバーは全員いた。

その他のメンバーも、残っていた。

逃げていった人も、正気を戻し、前線へ戻ってきたり、遠くからの援護射撃だけでもしたり。

方法は色々だが、皆、諦めてはいなかった。

――絶望を前に。


――これが、彼らなりの『努力』だ。


「来るぞ!!」

辺りは”砂嵐”に包まれ、不可視化する。

本当に一歩前も見れない。

ここで、『気配』を感じることが重要になる。

ここで言う『気配』は、一般的に言う気配じゃない。

――ある種の未来予知。

それがここでは必要とされていた。

「右押さえろ!!」

「右ってどこですか⁉」

「あぁもう!埒が明かん」

当然、主力部隊の全員が出来るはずもなく、ほぼレーナやクリスティナが戦うこととなった。

自分にも出来なかった。

やはり自分は役に立たないのだろうか。

そう思った。その時――

「ぐはっ」

誰かの断末魔が小さく聞こえた。

――ヘルベルトだけに。

少し、砂嵐が弱まった。

そこで彼は見た。

魔獣の魔法によって、空に打ち上げられた――




――レーナ・レナ・ファイズを。




「グァァァァァ」

魔獣の断末魔が響き渡った。

しかし、彼には何も聞こえていなかった。

ただ、一心不乱に彼女を見ていた。

何か、助けようとするわけでもなく、

打つ上げられている彼女を、目を見開いて、見詰めていた。


「……終わった」

「よっしゃー!!」

「敵討ち取ったり!!!」

色々な歓声が聞こえる。

膝をついて泣き叫ぶ者もいれば、戦勝を叫ぶ者もいる。


その中で、彼は何も口にしなかった。

「ヘルベルト……」

もう死んでしまいそうな、か弱い声だった。

彼女は笑みを浮かべた。

まだ彼女は、生きていた。

彼はハッとして、彼女に近づいた。


――この勝負、彼らの負けだった。


一見すれば、これで”勝ち”だと言うだろう。

決して間違ってはいない。

これで”勝ち”だ。


――『英勇者』レーナ・レナ・ファイズを犠牲にした、勝ち。


しかし、それだけでは収まらない。

そう、彼らの負けなのだ。

惜敗ではない。






――完敗だ。






『ガァッハハハハハハ』






――笑っている。


――誰が?


――魔獣が。






次の瞬間、大地が震えた。

否、壊れた。

粉砕した。











誰にも、理解できなかった。











否、理解したくなかった。











――全滅











――したということを。











正確には、生存者がいた。


約三名











――ヘルベルト、クリスティナ、■■■。











雄一、レーナの死体は残っている。


それが、景色だった











――『悪夢』という名の『絶望』の景色だった。


<続く(かもしれない)>

どうも、山本やまもと 2kニケです。

小説家になろうに掲載をチャレンジする為、まぁまぁ昔に作ったこの作品を引っ張り出して来た次第です。

昔と言っても一年もたってないんですけどね。

小説家になろうにおいても、小説を書くという点においても初心者なので、色々分かっていないところが多々あると思いますが、ご了承ください。

ちなみに、この物語は自分の作っている別の物語に、昔話として出てくるんですが、この先を作るかどうかは……神のみぞ知る真実ですね。

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