第二話「席替え」
席替えに一番重要なのは、好きな人と隣になれるか……ではなく、どれだけ、後ろで、どれだけ端っこの席を取れるかにかかる。
注意:この評価は石上翔太の偏見と私情と気分によるものです。決して真に受けてはなりません。
まぁ、後ろの席を取れるのは大体の人が喜ぶ……のではないだろうか。
翔太はそのことに命を懸けてんのかって言いたくなるぐらいには、必死になっている。
なにせこのクラスでは、学年の最初に班を決め、学期ごとにその班の間で席を変えることになっている。
つまり、最初の席替えが一番重要なのだ……!
「頼む頼むっ……!」
翔太は燃えていた!
もう、天井に炎がつくぐらいに燃えていた!
「なぜだ……」
燃えすぎて灰になった。
翔太の席は見事に一番左端の真ん中。
一番前じゃなかったから、まだよかったと安堵すべきか、一番後ろじゃなかったと嘆くべきか。
翔太は嘆く方を選んだ。
まぁ、班としては、一番後ろになれる席なのだが、なにせ班の人がいるところだ。
翔太がそんなところに「あ、一番後ろの席がいいです」と言えるはずもなく……
こうして翔太は少し涙目になりながら、ふてくされることなった。
……ただただ交換してもらうだけでいいのだが。
「あ。隣の席になったね」
と、そんなふてくされ翔太に声を掛ける猛者が現れた。
翔太はふてくされ顔のまま、頬杖を突いたまま、横を向いた。
……向かなければよかった。
と、翔太は後悔した。
隣の席に居たのは、正直あんまり顔を合わせたくない、というか合わせたくなかった少女。
彼女――井上まひろはニコニコと笑いながら(どちらかというと悪魔の笑みだったが)言った。
「部屋も隣で席も隣って、なんか運命感じない?」
思わず翔太は吹き出しそうになった。
ギリギリのところで止めた。
そして、前のように、笑顔を張り付けながら、全集中で高々と言い放った!
「ふん!たまたまだね!」
鼻笑いをつける余裕っぷり。
これはいけたんじゃないか⁉と翔太は内心でガッツポーズした。
何に戦っているのかは不明だが、少なくとも恥をかく事態は避けれた……はずだった。
なぜかまひろの反応が思っていたのと違った。
翔太としてはがっかりするような、驚くような反応を期待していたのだが……彼女は笑っていた。
それもニコニコというより……
「っふ……っ……あはっ……」
爆笑を我慢しているような感じで……
翔太はなにか嫌な予感がして、辺りを見渡した。
全員の視線が自分を向いていた。
それもちくちく刺さるような。
先生もだんまり……。
それが余計、雰囲気を怖いものにしていた。
「あ……ぁ……」
謝罪の一歩でもしようと思ったが、声にならず。
「あははははは!」
まひろが耐え切れず爆笑してしまったのをきっかけに、クラスの雰囲気が微笑ましいものになった。
「う……うぅ……」
クラスのみんなは笑い、まひろは爆笑し、
翔太は羞恥に、耳まで真っ赤にして俯くのだった。
ちなみに、このことがきっかけで、翔太とまひろは気が合うんじゃないか、と周りから言われるようになった。
そのからかいのような、周りの評価によって、さらに翔太とまひろの恋愛は加速していくのだが……
それはまた、別の話である。
第二話 終