1盗み、あれ?僕って無能だよね?
この作品は今日中に全て投稿し終わる予定です。
「申し訳ありませんがこの国にあなたは不要です。出て行って頂きます」
「ほぇ?」
異世界へクラスメイト共に召喚されてから3日目。僕の前に現れた国の役人さんに、追放を告げられた。不要だと判断された理由は、
「あなたのようなスキルを1つも持たないうえに、大した職にも就いていないような方を養っている余裕はないのです」
僕が1つもスキルを持っていないし、職業は普通だから。他のクラスメイト達は凄いスキルを持ってたり、中には勇者なんて言う職業の子までいる。そんなこと比べたら、確かに僕は不要なのかもしれない。
「分かったよ。でも、流石に無一文で生活するのは厳しいから、2週間の生活費とこの世界の地図を用意して貰えるかな?」
「……ふむ」
考え込むような役人さん。渋られそうだね。でも、これは大事なところだから何を使ってでもとらせて貰うよ。
「じゃあ、皆に僕が無能だから追放されちゃうって伝えさせて貰うね。この国は、罪のない僕を無一文で放り出すようなひどい国なんだって」
「っ!?そ、そのようなことをされては困ります!」
焦った様子を見せる役人さん。
そうだよね。貴重な戦力に不審がられたら国としても困るよね。場合によっては、この役人さんの首が飛ぶかもしれない。
「でしょ?困るでしょ?……でも、それをたった2週間の生活費と地図だけで解決できるんだよ。僕をこのまま養い続けるよりは、よっぽど安く済むと思わない?」
「そ、それはそうなのですが……」
悩む役人さん。でも、結局お金は支給された。銀貨を20枚。ついでにどこなのかも分からないような地図もセットで。
明らかにこの辺りの地図ではないと思うんだよね。とりあえず。『死の森』なんて名前も聞いたことがないし。
「ま、何でも良いけどねぇ。……あっ。お姉さん。ここ1泊幾ら?」
僕は王城から追い出されて王都と呼ばれるこの都市をうろつく。表通りには宿があったので、とりあえず料金を聞いてみた。もし本当に渡されたお金が2週間の生活費なら。全く問題なく払えると思うんだけど。
「お姉さんなんて、嬉しいこと言ってくれるねぇ。ここは1泊銀貨3枚。銀貨1枚追加で朝食をつけられるよ」
「なるほどぉ」
いや、1週間も泊まれないじゃん!絶対役人に詐欺られたでしょ。……困るんだよねぇ。
「とりあえず、1泊良いかな?朝食付きで」
「まいどありぃ」
1泊することに。もしこの宿がぼったくりだったとしても、僕としてはそこまで痛手には感じない。ここで1晩過ごすだけじゃなくて、色々情報も知りたいからね。
「ねぇ。死の森の噂聞いた?」
「死の森の噂?……いや、聞いてないけど。でも、帝国との国境沿いだし、何かあってもおかしくないよねぇ。帝国軍がウロウロしてるとか、そんな噂かい?」
なるほど。死の森は国境らしいね。しかもこの話を聞く限り、その国境が接してる帝国とは仲が良くない、と。
有力な情報だよ。後はもう少し自然な感じで聞いていこうか。
「いやいや。出るんだって」
「出る?何が?」
「これが」
僕はうらめしやぁのポーズを。お化けが出るって伝えてるんだよ。
でも、この人、というよりはこの世界ではこれは違う意味に捕らえられるらしく。
「え?アンデットが出るのかい?……まあ、死の森は魔物のも多いからね。アンデットが頻繁に出てもおかしくはないだろうけど」
ほぅ。死の森は魔物がいっぱいとな?それもまた良い情報。
というかあの役人さん、本当にろくな事しないね。渡した生活費も少ないし、地図も魔物がいるような場所でしょ?今すぐ城に戻ってぶん殴りたいんだけど。
「ふふっ。まあ、魔物のアンデットも出るのかな?でも、そうじゃなくて人だよ。人のアンデットが出るんだって」
勿論そんな話は来たことないよ。でも、こういうことを言うと相手は勝手に考察してくれる。そして、その根拠となることも一緒に話してくれるわけで、
「はぁ~。そうなのかい。まあ、こっちも帝国も兵士は出してるだろうからねぇ。あの辺の強い魔物に襲われたらひとたまりもないだろうよ。……あっ!あと。死の森は密輸業者の通り道だから、それもあるかもね!」
「ん。それもそっか。わざわざあんな所通るなんて、僕はどうかしてると思うけど」
そんなことを話しつつ、情報収集を続けた。そして、その結果分かったことがある。
死の森って言う場所は、僕の目的に非常に合致した場所であると。ここで1泊したら死の森に向かおうかなって思ってるよ。いやぁ~。楽しみだなぁ。
「……あっ。ごめんねお姉さん。長話しちゃって」
「いやいや。良いの良いの。今どうせ暇だったし、良い暇つぶしになったよ。お礼を言いたいくらい」
お礼を言いたいのはこっちも同じだけどね。お陰で良い情報収集が出来たよ。
宿の人と話し終わった僕は、王都の表通りを適当にうろつく。裏路地とかに入ると柄の悪い人に絡まれちゃうって話だったけど、表は治安が良いって聞いたからね(これも宿の人情報)。
「……そこの坊ちゃん。見てかないかい?」
「ん?」
ウロウロしていると話しかけられた。声のした方にいるのは、地面にシートをひいて品物を並べているおばあさん。路上販売だね。この国ではOKなのかな?
「見ては行くけど、そんなに高いものは買えないよ」
「ははっ。大丈夫さよ。もう高い物は全部売れちまったからねぇ。これは売れ残りさぁ」
いや、売れ残りを僕に買わせようとしないで欲しいんだけど!?
とは思うけど、この世界の商品を見てみるのも悪くないよね。何が売られてるのかとか、色々知りたいこともあるから。
「これは使い切りの魔法のスクロール。こっちは炎属性の付与されたナイフ」
「ん~。……じゃあこれは?」
色々紹介してくれるけど、心引かれるモノは無い。それに、どれも僕の所持金から考えると買えないようなものばっかりだからね。ここで買って1泊分のお金がなくなるのは嫌だし。
「あぁ。……これは、あんまりお勧めしないよ。強い剣ではあるんだけど、呪いの武器みたいなものだからねぇ」
「呪いの武器?」
「そう。こいつは『吸血剣』。血を吸えば吸うだけ強くなる剣さね。ただ使い始めると、デメリットとして1日に一定量の血を飲ませないといけなくなるのさ。そしてもし一定量吸わせることが出来なければ、足りない分だけ所有者の血を吸っていって……ていう武器さね」
「な、なるほど。どれは怖いね」
確かに呪いの武器だよ。実質的に、常に戦いに身を置かなきゃいけないみたいなものでしょ。戦いに身を置かなきゃ血を吸わせるなんて無理だろうし。
ただ、気になるからもう少し詳しく聞いてみよう。
「その一定量って、具体的にどれくらいなの?」
「具体的な量かい?そうさねぇ。……だいたい、人の血液の3分の1くらいじゃないかい?」
「ああ。ってことは、1人で補給しようとすると確実に殺しちゃうね」
3分の1も血液がなくなったら、確実に死んじゃう。……でも、デメリットが始まるのは使う前って事だよね。なら、持っておくだけなら問題ないかな?
「値段は?」
「勿論呪いの武器だし、安くしてるよ。銅貨1枚さ」
「やっす~」
詐欺じゃないかと思うような安さ。銅貨10枚分が銀貨1枚と同じだからね。武器としては破格の値段だよ。これは当然、
「買うよ!」
「毎度あり」
購入。その後も他の店をまわったりしつつ、華の王都を楽しんだ。
そして次の日。宿の朝食を食べて、早速死の森へと出発する。因みに夜に少し問題があり、吸血剣を使う羽目になってしまった。昨日は十分な量が補給できたから良いけど、今日もまた吸わせないといけないね。何の血を吸わせたのかは言わないけど、僕は初めて人を殺めたとだけ言っておこうか。
「ん~。速~い」
移動中の僕は風を感じていた。僕はその辺を走る馬車なんかより断然速い。まだ走り始めてから1時間くらいしか経ってないけど、もう3つくらい都市とか町を過ぎてきた。
なんで僕の足がこんなに速いのかと言えば、それは僕のステータスに関係がある。解説する前に、とりあえず見てもらおうか。
はい、どん!
《秋川香月》
職業:『闇の勇者』
LV:3
スキル:『偽装10』『隠蔽10』『暗殺10』『強奪10』『奇襲10』『同化10』『闇の力10』 『剣1』
称号:『異世界人』『追放者』『勇者殺し』『異世界人殺し』
称号やらにツッコみたいところはあるかもしれないけど、それはまた今度にして欲しい。それよりも今回大事なのは、闇の力というスキル。10という数字はそのスキルのレベルを表しているよ。10はマックスだね。レベル10のスキルに関しては、職業の力で貰えたらしく最初から持っていた。
そして、闇の力もそのスキルの1つ。効果としては、闇の中で身体能力が向上する。闇属性の力を得る。闇魔法が使える。の3つが主となっているよ。
で、今僕が走ってるのは割と影のところが多い。これで推測できるかもしれないけど、この闇の中って言うのは影の中でも良いみたい。勿論夜の暗闇に比べたら力は落ちるんだけど、それでも充分に強い。今までの全力の10倍以上速くなるよ。
……え?僕はスキル持ってなくて、職業も大したことはないはずだろ。って?
あぁ~。確かにそういう理由で追放されたよね。でも、本当は持ってなかったわけじゃなかったんだよ。ただ、役人さんとかには分からなかっただけ。クラスメイトも含めて僕たちは鑑定っていうのをされたんだけど、その時に隠蔽と偽造のスキルの効果で色々と隠されちゃったの。スキルはないことになってたし、職業は村人とかになってたし。
「……ん。ここだね」
そんなことを考えてたら、もう森が見えてきたよ。通り過ぎてきた街から考えても、ここが目的地であってるはず。死の森に到着だね!
それじゃあ早速、最初の準備をしようかな。
1話目はヒロインが誰も出てこないので長めにしました。次から短くなります。