第7話 エリアル、補助魔法を使う
(で、出ないよ、魔力!)
(出すんじゃないの。自然の中の魔力の流れをコントロールするの)
そ、そんな事言われても、何を言っているのか分からない。
魔力の流れなんて分からない。
(コントロールってどうやるのー?)
(何言ってんの?
わたしの身体を使ってるんだからできるでしょ)
(できない! 分かんないよー!)
「どうした、エリアル?」
ウィンドがついに催促してくる。
「今日は調子が悪いかな、みたいなー」
(ちょっとあんた、ふざけんじゃないわ!)
エリアルがいよいよ怒り出した。
(ふざけてないよ。
本当に分かんないんだよー!)
(じゃあわたしと代わんなさいよ!)
(代わってよー!)
あたしだって、迷惑かけたくない。
ウィンドの役に立ちたい。
でも魔法の使い方なんて分からない。
あたしにはどうにもできない。
あたしもできる事なら代わって欲しい。
エリアルに魔法を使って欲しい。
魔法の力でこの場を切り抜けて欲しい。
ゲームのようなエリアルの活躍が見たい。
そう思った次の瞬間。
身体の自由が利かなくなった。
緊張のあまり気を失ったのかと思った。
でもあたしはしっかり立っていた。
でも、立っている認識があるだけで、身体の感覚はない。
「ぴより、どうしたの? いる?」
あたしに呼びかける声が聞こえる。
心の中の声ではなく、音声として。
そのしゃべり方はあたしじゃない。
それはゲームで聞き覚えのある、エリアルのしゃべり方だ。
(あ、あたしはいるよ)
心の中で話す。
「何が起こった訳?」
これもエリアルの音声。エリアルのしゃべり方。
その後、視線が下に移り、自分の手が見えた。
グー、パー、グー、パーと動かしている。
これもあたしの意思じゃない。
「どうやらわたしの意思で動いているみたいね」
エリアルの声。そうなのだ。
エリアルがエリアルの意思で身体を動かしている。
「主導権が入れ代わったみたいね」
さっき、エリアルは「代わんなさいよ」と言った。
あたしも「代わってよ」と言った。
これはもしかして……
(お互いが入れ代わりたいと思ったら、主導権が移るって事?)
「そうみたいね」
またあたしに主導権が戻ったりするのか?
二人の同意が必要なのか?
不明な点は多々ある。しかし、
「実験は後回しよ」
そう。まずは目の前の問題だ。
エリアルが両手を広げ、前にかざす。
すると地面から、暖かい力が沸き上がって来るのを感じた。
その力は、エリアルの広げた手の先で、赤い光になった。
あたしはこの世界特有のエネルギーの流れを実感した。
しかもそれは、エリアルの意思でコントロールされている。
これが魔力なんだ。
初めて目の当たりにする魔法だった。
「ウィンド、待たせました!」
そのままエリアルはウィンドに呼びかけた。
赤い光がウィンドに向かって飛んで行き、命中する。
そして、
「助かる!」
再び魔法ロボに向かって行くウィンド。
つかみ掛かってくるロボの腕をかわして跳躍。
そこから、かわした腕目掛けて上段に振りかぶる。
「うおおおお!」
二の腕に命中した重い一撃。
金属のぶつかり合うけたたましい音が鳴り響く。
魔法ロボの腕がダランと動かなくなる。
さっきとは大違いだ。
これならいける。
着地した後も素早かった。
ロボの太ももを、横一文字に薙ぎ払う。
そのままさらに逆袈裟に斬り上げ、さらに今度は逆方向の一文字斬り。
長い刀を振り回す、パワフルで、しかも早業の剣技。
これは多分、ゲームでも序盤からウィンドが使える、「連続斬り」という技だ。
わたしの目の前で、ウィンドの必殺技がリアルに炸裂した。
転倒する魔法ロボ。
ノアさんがコクピット内で操縦レバーをガチャガチャやっているが、ロボが動く様子はない。
「どうした! 動け! 動かんかー!」
今の攻撃で故障したみたい。
ロボの足は関節部分が曲がっていた。
さらに、ウィンドが攻撃した太もも部分鉄板が裂け、火花を吹いている。
そのロボの上に飛び乗るウィンド。
ウィンドの勝利だ。
「あんた、始まりの民なのに、神子を売ろうとしたのか」
ウィンドは魔法ロボのハッチを開け、ノアさんに刀を向けた。
「おれはもっとロボット作りがしたいんだ!」
怒鳴るノアさん。
「だからってホープインダストリーの言いなりで、女の子を誘拐なんて見過ごせないな」
そこに静かに近づいて行くエリアル。
「わたしは工業化による発展の、全てに反対をしているのではありません。
自然と共存できる方法を探して欲しいのです」
ロボットを見上げて訴えかける。
「ウィンド、彼をここから出して、解放して下さい」
「いいのか、あんたをさらおうとしたんだぞ」
驚くウィンド。
しかし、うなずくエリアルの瞳には強い意志が宿っていた。
「機械に詳しいあなたにこそ、自然と発展の共存の道を、切り開く事はできると思っています。
わたしに力を貸して下さい」
コクピットの中でうつむくノアさん。
しかし、ウィンドによって引っ張り出されると、エリアルに頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。
これからは心を入れ替えて、神子様のために尽くします。
何なりとお申し付け下さい」
「頼りにしています、ノア」
すっかりエリアルの言葉に感服した感じだ。
毅然としていて、凛としていて、礼儀正しくて。
やっぱりエリアルはかっこいい。
「やっとらしくなってきたな」
ウィンドもエリアルの堂々たる姿に感心しているようだった。
……ん? やっと?
「昨日から様子がおかしかった」
昨日からのエリアル……。
「オーラがなかったと言うか、頼りなかったと言うか」
それって、入れ代わる前の、あたしが主導権を握っていたエリアルがって事だよね?
うう、大ショックだよー。
ウィンドにそんな風に思われていたなんて!
とは言え、とにかく大体ゲームの通りの流れに物事は進み、あたし達はバトルに勝利する事ができたのだった。
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