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第32話 あたし達のトゥルーエンド

 ゲイルに戦いを止めるよう説得するあたし。

 しかし、ゲイルは耳を貸さない。

 その最中、主導権がエリアルに入れ代わった。


「星に寄生する天空の民。

 エルドラの住民を始め、多数の命を殺めた。

 そして、この星を滅ぼそうとしている。


 あんたには同情の余地も、許す理由もない」


(だ、ダメだよ、エリアル!)


(そう? じゃあなんで入れ代わったの?)


 う、それを言われると……。


(主導権の入れ代わりはお互いの同意がないと成立しない。

 あんたも心のどこかで、和解できないと思っているんじゃないの?)


 ゲイルを踏みつけたまま、エリアルは軽くパンチの素振りをした。

 その拳は闘気の輝きを纏っている。


「岩をも砕く、岩砕拳だっけ?

 イメージトレーニングはやってたの」


 岩砕拳をエリアルも使える。

 闘気を操ってるのはエリアルだし、自分の身体だなんだから、当たり前の事なのかも知れない。


「多分、他の技もできる。

 ドラゴンアッパーだって何だってやってみせる」


(エリアル!

 もう少し待って。もう一息なんだって!)


(いいえ、もうわたしの番)


 入れ代わる事はできなかった。

 もうゲイルを倒すしかないの?


「あんたを許す事はできない」


 ゲイルを見下ろすエリアル。

 一方のゲイルは微動だにしなかった。

 ただ静かに目を閉じている。

 観念したのかも知れない。


 しかし、続けてエリアルは言った。


「でも、原種細胞の力を求めた人間がいて、そいつらに利用されたのも事実。

 あんただけが負うべき罪ではないとも言える」


「何?!」


「あんたがこの星の人間として生きると言うなら、一度だけ見逃してもいい」


 意外な言葉だった。

 別にかわいそうと思わない、とか言ってたのに。


「おれは星に寄生して滅ぼす、天空の民だぞ」


 エリアルの意外な言葉に、目を見開くゲイル。


「でも今は人間でもある。

 人間として生きる事だって、できる」


 そう。ゲイルは今は人間でもある。

 そして、母親の事を助け出そうと行動した事だってある。


「な、何を言っている?」


 エリアルの意外な言葉に狼狽しているゲイル。


「おれを信じられるのか?」


「全然信用してないけど」


 大きく首を振るエリアル。


「だったらなんで……」


 その瞬間、エリアルの拳が闘気を纏った。

 そして、足元のゲイルの顔面目掛けて拳が放たれた!


 ……ように見えた。


 実際は、ゲイルの頭の横の床に、拳は振り下ろされた。


(岩をも砕く岩砕拳。

 ほらね、ちゃんとできた)


 蜘蛛の巣状にひび割れた床。

 さすがのゲイルも真っ青になっている。


「あんたなんか、目じゃあないって言ってんの、クソ野郎」


 ゲイルはあっけに取られていた、けど……


(後は任せたわ)


「えっ? そんな急に?!」


 あたしに主導権が戻った。

 こんなタイミングでなんて。

 エリアルがかっこよく決めた後に、何を言ったらいいのか、分からない。

 ……って!


「おっと!」


 足をゲイルの胸に乗せていた事に気付いて、慌てて離れる。


「ご、ごめんあそばせ」


 ゲイルの反応はない。

 だけど、そうだよね。

 あたしの気持ちをちゃんと言わないと。


「あたしは誰とも、ケンカなんかしたくない」


 悲劇の運命を変えるために、精一杯頑張ったけど、本当は戦いなんて嫌い。

 勝ちとか負けとか、罪とか罰とか、そんな事どうでもいい。


「ワンチャン、仲良くできたらいいと思わない?」


 一生懸命考えたけど、こんな言葉しか出てこなかった。

 分かってもらえるといいな。


「よく分からん奴だ、お前は」


 よく分かってもらえなかった。


「得体の知れない奴だ」


 そう言ったと思ったら……


 目の前からゲイルが消えた。

 そして、らせん階段を5、6回転は上がった位置に立っていた。 

 一瞬で、その場所までジャンプしたのだった。


「お前みたいな厄介な奴とは戦いたくない。じゃあな」


 ゲイルはそう言い残すと、すごい跳躍力で何度もらせん階段を飛び上がり、大穴を脱出していた。


「余力を残していたのか。したたかな奴だ」


 ウィンドはゲイルの消えた空を見上げた。


「でも、その余力で戦わなかった」


 隣でナタリーがつぶやく。


「そうだな」


 刀を背中の鞘にしまうウィンド。

 ゲイルを追い駆けようとはしなかった。


「師匠の仇なんでしょ?」


 そのために彼はゲイルを追っていたはず。


「エリアルが許す事にしたなら、おれはそれで文句はないさ」


 それは、さわやかな表情だった。

 元兄弟子で、師匠の仇。

 ウィンドのゲイルに対する感情は、そう簡単には推し量れない。

 それでもあたしの意思を尊重してくれたみたいだった。


 エリアルの命を奪う、にっくきラスボス、ゲイル。

 あたしもずっとゲイルは大嫌いだった。


 でも、エリアルは生きている。

 そして、彼の悲惨な過去も知ってしまった。

 今のあたしは、ゲイルを憎み切れない。

 できればゲイルにも幸せになって欲しい。

 いつかワンチャン、本当に仲良くなれたらいいなと思う。


(これで戦いは終わったのかな、エリアル?)


(温度低下で原種細胞の活動は低下している。

 いずれはモンスターも現れなくなるでしょうね)


 ホープインダストリーの壊滅も、星の環境の改善の一因だ。

 上層居住区の被害を思うと、それは素直には喜べない複雑な気分ではあるけど。


(星の危機は去った。

 そう言っていいんじゃない?)


 ゲイル亡式に勝った事により、ゲーム中盤の悲劇を回避できた。

 同時に星の危機も救う事ができた。

 これってつまり……。


「エリアルッ!」


 ナタリーが飛び付いて来た。

 視界がピンク色の髪に支配される。


「一人で行くなんて!

 心配したんだよ!」


 感極まって、声を震わせて泣いているナタリー。


「本当に心配したんだぜ。

 まさかゲイルと戦っていたなんて」


 ウィンドも降りてきた。


「こうしないと星の危機が守れなかったって言うか……」


 あたしも一人で行くべきじゃない、と思ってた。

 でも、結果としてはエリアルの意思を尊重してよかったって気持ちもある。


「心配かけてごめんね」


「無事ならいいさ」


「しかし、神子様はすごいな。

 祈りの儀式で星を守ると同時に、ゲイルに勝ってしまうなんてな」


「伝承で聞いてた始まりの民の神子とは、だいぶ違うな」


 バーンズとジェラルドも驚いていた。

 あたしの知ってるエリアルともだいぶ違うけどね。


「ヘニャニャニャン!」


「そうだねー。ヘニャニャンも頑張ったね!」


 あたしはヘニャニャンを抱き上げる。


「さあ、帰ろう。世界を立て直さなきゃな」


 それはノンポリで不愛想だったウィンドが、一回り成長した姿。


(このセリフもゲームの通り?)


 エリアルが尋ねてきた。


(そうだね。でもエンディングのセリフ)


 エンディングの始まりのセリフ。

 このセリフが来たなら、無事にエンディングにたどり着いたという事。

 でも実はちょっと違う。


「さあ、帰ろう。エリアルの分まで、世界を立て直さなきゃな」


 これがゲームの中のセリフ。

 本当にエリアルの運命を変える事ができたんだな、と実感した。


(どうしたの、ぴより?)


(ううん、何でもないよ)


 こんな事、知らせる必要はないよね。

 エリアルは生き延びて、祈りの儀式を完了したのだから。


(気になる事があるなら言いなさいよ)


 心配そうなエリアル。

 しかし、あたしは言ったんだ。


(祈りの儀式が無事終わったなら、未来が変わったって事だよ。

 その先はもうあたしにも分からない)


(そう。そうね)


「行くぞ。エリアル」


 ウィンドの呼ぶ声がする。

 見ればみんなもうらせん階段を上り始めている。


「おけまるー!」


 そう。まだエンディングなんかじゃない。

 これから、世界を立て直さなきゃないけない。

 あたし達のトゥルーエンドを目指す物語はここから始まるんだ。

 お読みいただき、ありがとうございました!

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