第31話 戦いの行方 運命の行方
「ごめんね、エリアル。
頑張ったけど、ワンチャン死ぬかも」
ドラゴンアッパーからの猛攻で、ゲイルのラスボス形態を解除したが、まだ危機は去っていなかった。
「予想外の強さだったが……!
覚悟を決めるのだな!」
硬い甲殻で覆われた拳が迫る。
これは避けられない。
あたしが諦めかけた、その時だった。
「へニャン!!」
あたしとゲイルの間にヘニャニャンが立ちはだかった。
そして、後ろ足で立ち上がり、前足で素早くワンツーパンチの素振りを繰り出し、
「ヘニャーニャヘニャニャンニャンニャ!」
「来たコレ!」
ヘニャニャンの突き出したパンチから竜巻が起こる。
これこそ、ねコークスクリューパンチだ。
「またコイツかあああっ!」
竜巻に巻き上げられるゲイル。
このチャンスを逃がす訳にはいかない。
落下するゲイルに合わせて……、
「ドラゴンアッパーー-ッ!」
竜王の闘気を纏ったあたしはドラゴンアッパーを放った。
「ぐ……、ぬぅ……!」
その直撃を受けたゲイルは落下後も目を回している。
ひよこバッジのピヨり効果だ。
そして……、
目の前に一条の光が。
床のエメラルド色の光じゃない、上からの光。
見上げてみると、その光は、雲の間から射した太陽の光だった。
ゲイルもその光景に呆然としている。
雲はどんどん晴れていき、空が明るくなって行く。
これはゲームでは見た事のない光景。
しいて言うなら北極のラストバトルでの光景と似ている。
エリアルの霊魂が祈りの儀式を完成させた光景に。
(よく頑張ったわね。あたしの祈りは完了したわ)
そう。
あたしがゲイルと戦っている間も、エリアルは祈りの儀式を進めていた。
それがついに完成したのだ。
(この星の気候を正しい形に戻した。
一時的なものでしかないけど、効果はあったようね)
ゲームでは霊魂になったエリアルが完成させる祈り。
それが殺害される事なく、完成できた。
(冷えたのに晴れるなんて、なんだか不思議)
(極冠地帯に雲が移動したの。
それでこの辺りは晴れた)
そういうものなんだ。
「ふん! 晴れたからどうだと言うのだ!」
吐き捨てるように言う、ゲイル。
しかし、その直後……
「な、何だ、これは……!」
シューシューとゲイルの身体が煙を上げている。
そして、
「力が……、抜けて行く……」
ゲイルを覆っていた鎧がひび割れ、崩れ落ちていく。
ゲイルは崩れ落ちる鎧を押さえようとするが、崩壊は止まらない。
結局、甲殻類のような鎧は全て崩れ落ちた。
「こんな……! こんなあああ!」
現れたのはコートのない、プロテクター姿のゲイルだった。
ゲイル・滅式は無印ゲイルになった。
さらに、
「エリアル! 無事か!」
岩壁の螺旋階段の上の方からウィンドの声が聞こえてきた。
「ゲイルと交戦しているのか?!」
ナタリー、バーンズ、ジェラルドの姿も見える。
ヘニャニャンが現れた事で予想していたが、仲間が駆けつけてくれたのだ。
「みんな! でもなんでこんなに早く?」
ウィンド達は儀式の祭壇の場所を知らない。
ゲームでは飛行船でエリアルを探す。
雷雨の中、光を放つ穴を見つけて、そこにエリアルがいると直感して向かって来る。
しかし、到着を目前にして、祭壇からの光は消えてしまう。
それがエリアル殺害の瞬間なのだ。
そのはずだったけど、展開が変化しているって事?
「クレイフさんとジーナさんが、エリアルが急に姿を姿を消したなら、儀式の祭壇だろうって」
クレイフさんとジーナさん!?
(どうやらぴよりは、すでにわたしの運命を変えてくれてたみたいね)
そうか。あの二人が生き残ったから、ウィンド達は早くここに現れたんだ。
「エリアルゥゥゥ! 許さんぞ!」
無印ゲイルの激昂する声が聞こえる。
ゲイルが殴りかかってきた。
最強の剣士の攻撃ではあるけど、武器もないし、滅式や亡式とは比べものにならない。
なんなら、
「何でも弾く反衝拳!」
闘気を纏えば、あたしにも受け止める事ができる。
そして、弾かれたゲイルの隙をついて、
「岩をも砕く岩砕拳!」
「おぐっ!」
岩砕拳が腹部にヒット。
ゲイルは再びダウンした。
しかし、そこであたしは構えを解いた。
「もう終わりにしようよ!」
悲劇の運命を変えるために全力で戦ってきたけど、あたしは本当は戦いなんて好きじゃない。
とどめを刺すまで戦う、なんて思ってない。
「あたし達が戦う理由なんてないよ!」
「理由がないだと!?
この星を滅ぼすのが、おれの生まれた理由だ!」
利用されるために生み出され、優しさを知らず、裏切られ続けたゲイル。
星を滅ぼす天空の民。
彼は種族の本能に従う以外の生き方を知らない。
「そんな事はさせない。
そんな事したってあなたは幸せになんてなれない」
「幸せだと?!
おれにそんなものはない。
倒して生き残る、ただそれだけだ。
それだけが安心を与えてくれる」
安心……。
彼は幸せなんて望んですらいない。
安心を得る事すら知らない人生を歩んで来たのだ。
だから、彼は敵がいなくなるまで、戦い続ける。
「そんなの、悲し過ぎるよ……」
研究所で彼の過去を知った時もショックだった。
けど、彼の胸の内を聞いたら、ただただ悲しい気持ちになってしまった。
あたしは涙が止まらなかった。
「同情でもしているのか?
だったら大人しく死ね……」
肘をつき、起き上がろうとするゲイル。
「おれの……、邪魔をするな……」
もうボロボロの状態なのに。
あたしには彼の執念を変えることはできないの?
「……ぐがっ!」
しかし、ゲイルは胸を踏みつけられて、再び仰向けになる。
踏みつけているのは……
あたしだった。
「もういいでしょ? ぴより」
エリアルの声。
そして、あたしには身体が動かせなくなっている。
主導権が入れ替わっていた。
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