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第2話 ぴより、ゲームの世界に転生する

 ……………


 気が付いたら、あたしは見知らぬ街に立っていた。

 どこも痛くないし、倒れていない。

 眠くもないし、疲れてもいない。


 あたしは周りを見回す。

 舗装されてない、土煙の舞う地面を行き交う、たくさんの人々。

 自動車も、多数走っていた。

 街並みはガヤガヤと、活気にあふれている。

 乱雑に立ち並ぶ、ちぐはぐな大きさの、壁の汚い建物。

 そして、排気ガスの匂いが充満していた。


「うぅっ! 臭い!」


 あたしは思わず鼻を押さえて、せき込んでしまう。

 とにかく空気が悪い!


 これは排気ガスだけじゃない。

 工場らしき建物からも、もくもくと黒い煙が。

 手を鼻と口から離せない。

 目も何だかしみる感じがする。

 よくみんな、平気でいるなあ。


 ここが天国だとは、断じて思えない。

 しかし、地獄というにも、なんかパンチが効いていないかなあ。

 って言うか生活感あり過ぎ。


 だったらここはどこなのか?

 近くの大きな看板に「ELDORA」の文字が。

 そして、その建物の奥には、列車が停止している。

 電車ではなく、蒸気機関車。

 黒い煙をもうもうと上げている(きっとこれも空気の悪さの原因の一つ)。

 つまり、あの建物は駅で、「ELDORA」とは地名なのだ。


 そして、あたしはこの地名に心当たりがあった。

「ELDORA」とは、エルドーラ下層居住区。

 空中都市であるエルドーラ上層居住区を運営するために存在する、工場と従業員の居住区。

 ロールプレイングゲーム、「ファンタジックコスモス」のスタート地点の街だ。


 つまりここは、ゲームの中に登場する街なのだ。


「夢……、だよね」


 悪臭と煙たさで鼻と口を覆いながら、あたしはつぶやいた。

 夜遅くまでゲームをしていたからゲームの夢を見ている。

 そう結論付けるのが、妥当なはずだ。


 しかし、夢と認識しても覚める気配がない。

 それに悪臭と煙たさと騒がさしさが、臨場感あり過ぎ。

 変な夢だなあ。


「エリアル?」


 その時、近くで声がした。


「何ぼーっとしてんだ、エリアル?」


(呼ばれてんだから、返事をしなさいよ!)


 その時、頭の中から怒鳴り声がした気がした。


「はい!!」


 びっくりして大声を上げてしまうあたし。

 そして、周囲をみまわすと……、

 あたしの目の前には、イケメンが立っていた!


 まず紺色の髪が目を引く。

 バリッと針ネズミのように尖った後ろ髪、それでいて前髪もバリッと斜めに伸びている、圧倒的な毛量感。

 鮮やかな水色の瞳。

 ともすれば機嫌悪くも見える、意思の強そうな眼差し。

 黒いボディスーツには筋肉の形に凹凸ができている、すらりとした細マッチョ。

 背中の日本刀っぽい刀はかなり長い。


「ウィンド様……!」


「ファンタジックコスモス」の主人公、ウィンドにしか見えなかった。

 ゲーム内のイケメンっぷりそのままのウィンドが、あたしの目の前にいる。


 この夢、すご過ぎる!

 リアルウィンドがあたしの目の前に!

 紺色の髪なんて変わってるけど、まあゲームのキャラだしね。


(なーにがウィンド様よ)


 また頭の中から声がしたような気がした。


「宿屋が見つかった。行こうぜ」


 歩いて行くウィンド。


「は…、はい! 行きますう!」


 あたしは裏返った声で答え、夢見心地で後をついていく。

 あのウィンドから行こうぜって言われてる!


 辿り着いた宿は、黄ばんで、黒ずんだ壁の、割れた窓がテープで補強されている、傾いて歪んだ建物だった。

 これもゲームの世界そのまま。ディティールの細かさは、ワンチャン、ゲームを超えているかも。

 うーん、つくづくリアルな夢。


「始まりの民のお迎えとも連絡がついた。

 ここで一晩明かして、明日合流しよう。

 おれは部屋の外にいる」


 この建物も、このセリフも、ファンタジックコスモスで聞いた覚えあるなあ。

 序盤の展開だったと思うけど、どんな話だったっけ?

 そう思いながら、宿の部屋に入るあたし。


「何かあったら呼んでくれ、エリアル」


「…………!!」


 ウィンドがドアを閉じるが、その瞬間、あたしははっとした。


 あたしをエリアルと呼んだ。

 そう言えば、そもそも初めて会った時もエリアルって。


 思わず手元を見る。

 細い少女の腕を覆っているのはビリジアン色の袖の織物。

 そしてその下に着ているのは、白いローブ。

 始まりの民の神子(みこ)、エリアルの服装だ。


 急いで洗面台の前へ。

 電灯を付けて、水垢のこびりついた鏡をみる。


 鼻筋の通った、高貴な顔立ちの少女。

 エメラルド色の瞳。

 カチューシャのように見えるのは、小さな宝石がいっぱいついたティアラ。

 薄い緑色の髪が腰まで伸びている。


「エリアル……だ」


 目の前にいたのは、始まりの民の神子(みこ)、ファンタジックコスモスのヒロイン、エリアルの顔だった。

お読みいただき、ありがとうございました!

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