第384話 使いました
世界の揺れは……完全に止まった。
管理システムも、消えた。とりあえず世界諸共に消滅の危機は去った、と見てよさそうだ。
「……揺れが止まった、わね?」
「そう、ね。あの子、ほんとにジェーンの娘なのかしら……」
「なんだかよくわからんが……助かったって事でいいんだよな。今、此処で処女を捨てなくてもベッドの上でいいんだよな。そうだよな、ドミニー!」
「……」
「うるさい、黙れ。この残念年増エロフが。って言ってるわよ」
皆も平常運転に戻りつつある、か。いや、ステラさんに関しては最初から最後までいつも通りだったように思うが。
「兎に角……ありがとう、ユウ」
「あ、ウチからも御礼言わせて!本当にありがとうね、ユウ!御礼にユウが主役の話を描いてあげる!」
「えへへ……あ、設定は勿論兄と妹ね」
……ユウも結婚するのに、要るのか、それ。
っと、そんな事よりも、だ。
「フレイヤ様、ヘラは……」
「……………………」
「自失しておるの。余程自信のある策じゃったんじゃろ。しかし……ようやく終わったの。後はこのバカを連れ帰るだけ――」
「……じゃないわよ」
「――あ?なんじゃ?」
「ふっざけんじゃねぇぞぉ!なんなんだそのガキィ!どうしてあの暗号が解ける!本当に人間かぁ!」
いやまぁ、気持ちはわかるが。一応は神様に頭脳で人間扱いされないって。ユウって前世じゃどんな人間だったんだろ。
「じゃかぁしいわ。よいか、ヘラ。貴様はこれから――」
『あのさ。もう終わった感出してるけど。もう一つ、忘れてなあい?』
……もう一つ?
『アイシス。ヘラが出て行った事で崩壊は緩やかになったけどさ。そろそろ限界だよ?アイシスも、そっちのベルナデッタって子も』
「「「あ」」」
いかーん!メーティス、アイシスの状態は!
『……放っとけば後1,2分で完全に砕けるな。そうなればそれは完全な死、や』
それは前も聞いた!それを防ぐにはどうすりゃいい!
『そりゃ……ベルナデッタの力しか無さそうやけど……』
そうか!レイさんを救った時のように!
「ベルナデッタ殿下!アイシスを――殿下?」
「……ご、ごめんなさい、お兄ちゃん……今日はもう無理、かも……」
『だから言ったじゃん。その子も限界だって。でも褒めてあげていいくらいなんだよ?戦闘中も暗号を解いてる間も、その子は頑張ってたからこそ、今までもったんだし』
……責めるつもりは無いが!冷静に状況を把握してるならもっと早く言って欲しかった!
「……フレイヤ様!」
「神様なら何とかしてよ!」
「……す、すまん。死んでしまった者の魂の保管、なら出来るんじゃが……」
『必要なのは保管じゃなくて修復。そこまでボロボロだと保管しても崩壊は止まらないし。専門の力を持った神が必要だねえ。因みに僕には無理。他の神の派遣も無理だねぇ。ヘラの妨害が無かったとしても間に合わないね』
「……一応言っとくと、あたしも無理だからね」
ええい、こんの駄女神共は!
……メーティス!どうにかならないか!
『……どうにもならん。魂の器は既にボロボロで、そこから魂が漏れ出とる。コップにヒビが入って中の水が洩れとるような状況や。水が完全に無くなる前に何とかせなあかんねんけど……』
コップを……器を修復し魂で満たす、それが出来ればアイシスは助かる。
器を修復、魂の器を……魂の器?
「何の話をしてるのかわからんが……ようはこの娘を助けたいと?」
「何故だ?察するにあの女に操られてたようだが……イエローレイダー団長を医務室送りにしたのはその女なんだろう?」
「まぁ助けられるなら助けちゃっていいんじゃない。私は関係無いし……あ、死んじゃう前に胸でも揉んであげれば?最期の思い出に」
「レ、レッドフィールド団長……そこはせめてキスとかでは……」
「そ、そうよね。私も最期の時はジュン君の腕の中かキスで……」
胸を揉む……魂の器……つい最近に聞いたような言葉の羅列……あ。
「……だめじゃ。何にも思いつかん。ジュン、すま――」
「フレイヤ様!もしかしてコレを使えばどうにかなりませんか!」
「――ぬ?おお!それは!」
『……うわぁお。なんでそんなの持ってんの』
特定の条件が揃った者に使えば神族に、神の眷族になれる宝玉!使用条件に魂の器が関係するのなら!
『……おお!なるほどやで!少なくともこのままやとアイシスは死ぬんや!やってみる価値ありまっせ!』
よし!なら使う……胸に押し当てる、でいいんだよな。
『迷ってる時間ないよ。今にも崩れちゃいそうだよ』
「早うつかうんじゃ!わしがフォローしてやるから!邪魔するでないぞヘラ!」
「……しないからサッサと終わらせなさいよ」
よ、よし!怒ってくれるなよ、アイシス!これはお前を救うための――
『因みに服の上からじゃダメだよ。直に肉体に押し当てないとダメ』
――鎧着てるんですけどぉ!?
「アイ!手伝って!」
「う、うん!って、なに!?」
鎧が、消えた?いや、それはいいが……
「へら、貴様……」
「……フン。サッサと終わらせて欲しいだけよ。ほら、早くやんなさいよ」
「それはいいけど何故全裸にする!」
『ほんとに時間ないよ~急ぎなってば』
ええい!上手く行ってくれよ!
「あ、本当に揉むんだ」
「う~ん……羨ましいような遠慮したいような……」
「羨ましいか?アレ。イエローレイダー団長は特殊……いや、そのデカ乳の持ち主なら当然の願望なのか?」
「重いんですよ?これ……ノワール侯にマッサージしてもらえるならして欲しいです。でも人前で全裸は流石に……」
「あ、あたいもそれはわかるぜ。ジュン、あたいもマッサージ―—」
「ちょっと黙ってくれませんかねえ!」
宝玉は既に消えた。間に合った……よな?
『大丈夫や。ギリギリ間に合ったで。後は結果が上手く行く事を願うだけ――お?』
アイシスが黄金色に光って――




