第382話 まだでした
「ジュ、ジュン!ちょっと、う、嘘でしょ!?……あ」
「お、お兄ちゃん!……あ」
「アーッハハハハ!どうだぁエロース!お前のお気に入りは死んだぞぉ!」
デウス・エクス・マキナに深々と突き刺さったカラドボルグ。それは背中まで貫通し、中に居る俺を刺し殺した……ように見えるだろうな。
『……はぁ』
「ああ?なんだぁ、テメェ……ああ、失望したのかぁ?最上級の神器まで持たせてやったのにあっけなく死んだ――」
『いいや。似てるなぁ、と思っちゃって。僕が負けた時と、ね。まぁ刺されたのは僕で刺したのは――いや、あの子が刺されたのも、刺したのも?……あ~ん~……やっぱり結構違うかも』
「――あ?何の話……あああ!?」
「刺さってないんだなぁ、これが!」
カラドボルグが貫いたのはデウス・エクス・マキナのみ……それも胴体中央部を構成してるパーツのみ。
俺自身は貫かれる直前に空間転移でデウス・エクス・マキナをその場に残したまま脱出。
デウス・エクス・マキナを使った変わり身の術、というわけだ。
そして――
「な、なんじゃあ、こりゃあああ!」
『決まってるでしょ。君の負けだよヘラ』
俺が中から消えてもデウス・エクス・マキナは動かせる。カラドボルグが刺さった部分はそのままにデウス・エクス・マキナのパーツを展開。ヘラの四肢に装着し、動きを封じる。
まるで十字架に磔にされたかのような姿になるヘラ。
「く、くそ!こんなもんはなぁ!傲慢の力を使えば簡単に――」
「不可能だ。デウス・エクス・マキナはあんたには動かせない」
「――チッ!はなせごらぁ!はな、せせせせせせ!!!!」
うるさいし他の能力でなんとかされても面倒だし電流を流して黙らせる。
それにしても……咄嗟の思いつきにしては上手くいったな、メーティス。流石は俺の相棒だ。
『ふふん!そーやろそーやろ!惚れた?いや、惚れ直した?愛を囁いてもええんやでぇ。いや、叫ぼうや!ほれほれ!マスターの愛を!ちょうど世界の中心に居るっぽいし!』
世界の中心で愛を叫ぶってか?
そういうねた、何処で仕入れて――
『おーい。急いだ方がいいよ~助けたいんでしょ』
そうだったぁ!フレイヤ様は――何してんだ!
「フレイヤ様!何を面白い顔してるんです!早くアイシスからヘラを叩き出してくださいよ!」
「ぬぐぐぐ!だ、誰が面白い顔しとるんじゃたわけがぁ!先ずこの結界を何とかせにゃアイシスに触れる事も出来んじゃろが!」
結界……まだ残ってたか!
「ヘラ!お前の敗北はもう決まった!アイシスの事を少しでも想えるなら――」
「おおお、御断りりりり、よよよ!ああああ、あた、あたし、あたしはまだ、まけけけけ!」
わかっちゃいたけどダメか!
どうする……簡単には破壊出来ない――いや!
「メーティス!カラドボルグを寄越せ!」
『なーるへそ!流石やでマスター!略してさすマタ!』
……それだと別の意味になるからやめい!
「皆、結界から離れて!俺の前面に入らないように!」
「――おんげぇ!?おい、ジュン!全力で振るうなよ!絶対じゃぞ!手加減、手加減を忘れるなよ!また次元の壁を斬り裂いたらどんな被害が出るかわからんのじゃからな!わ、わしは責任とれんからな!絶対じゃからな!」
「いいから早く離れなって!ジュンの邪魔になってるから!」
「いいよ、お兄ちゃん!」
カラドボルグを全力で――振るうとマズいらしいから鉄の剣で大木を一刀両断するくらいのイメージで……どや。
『それ、結構な技やと思う――あっ』
ピシィッ
……簡単に斬れたな、結界。大きなガラス窓が砕けるようにバラバラになって消えていく……のはいいとして。
それとは別の、とても気になる音が聞こえた気がする――
「ば、ばかぁぁぁぁ!手加減せいと言うたじゃろがぁぁぁぁ!砕けるのか!何処かの次元と繋がったのか!?どうなんじゃエロース!」
『今確認してるから落ち着きなよ……ああ、へーきへーき。その世界を囲んでたヘラの妨害措置が割れただけ……ああ、いや……あ~あ~……これはまた何ともはや……因果応報というか自業自得というか……気の毒に』
「おいいいい!何じゃ、何がどうなったんじゃ!どんな被害が出たんじゃ!」
え。
え?まさかマジで別次元の世界に被害が……
『大した被害は出てないから安心しなよ。正確にはこれから出るんだけど……ちょっと大きめな家が粉々のバラッバラになるだけだから。無人の家だし、周辺はちょっとした地震程度にしか感じないだろうからさ』
人的被害は無しって事か。良かっ……いやいやいや!それってその家の家主からしたら大損害じゃん!
ど、どないしよ!?
『どないしようもあらへんな。フレイヤ様かエロース様になんとかしてもらうしかないんちゃう?何せ別世界の話なんやし。不可抗力やしな。人的被害がないなら気にせんでええやん。そんな事よりもや、先にやらなあかん事があるやろ』
そんな事ってお前……い、いや、そう、だな。今はアイシスだ。
「フレイヤ様!」
「う、うむ……後で説明せいよ、エロース!電撃を止めてよいぞ、ジュン!」
電撃を止めるとすぐにヘラに触れるフレイヤ様……いや、触れたんじゃなく入れた?体内にフレイヤ様の手が入ってったように見え――
「なぁなぁ、ジュン。碌な説明も聞かないまま来たから何がなんだかわかんねぇだけどよ。今は何やってんだ?」
「あの人って敵でしょ~?なら捕まえて終わりじゃないの~?」
「止め刺す?」
アム達だけじゃなく、院長先生達もか。多少なりと事情を知ってるのはあの時城に居た人達だけ、と。
「無事なようで何よりじゃの、御同輩。お前さんにはエルとミネア、ついでにブルネッラを娶ってもらわにゃいかんのだから、死なれては困るんじゃぞ」
「ま、あたしはアンタが負けるなんて思ってなかったけどね。って、何あれ。人間から人間が出て来たわよ」
アレがヘラか……フレイヤ様やエロース様よりかは見た目年齢は上に見える。
「終わりじゃ、ヘラ。戻ったら覚悟して――何を笑っとるんじゃ」
「フフフ……何を勝った気でいやがるんだごらぁ!」
ゴゴゴ……
……地震?いや、これは地面が揺れてるというより世界全体が揺れてるかのような?
「な、何をしたんじゃ!往生際の悪い!」
「往生際が悪くて結構!あたしが諦めの悪い女だって事くらい知ってるだろうがぁ!結局はあたしが勝つ事になってんだよぉ!ばぁ~~かぁ!」
まだ何か仕掛けてんのかよ……




