第376話 聞こえました
~~アイ~~
「ちょっと!フレイヤ様ってば!もしもーし!返事してってば!変態女神!露出狂女神!」
あーもう!ジュンがあの女と一緒に消えてまだ数分だけど、状況がわからなくてイライラする!
フレイヤ様と確実に連絡をつける方法は……あった!
「クオン!クオンは居る!?」
「はい、姫様。此処に」
「ベルを護ってる天使達を呼んで!大至急!」
「かしこまりました」
あの三人の天使なら神界にだっていけるだろうしフレイヤ様と連絡がとれるはず。
居場所がわかればウチをジュンのとこまで連れてってもらう事だって――と、思ったのに。
「不可能だ」
「なんでぇ!?」
「我々はフレイヤ様にこの少女を護るようにと命令を受けている。フレイヤ様の命なく離れるわけにはいかない」
「うっがぁぁぁぁぁ!!!」
ちったぁ融通利かせなさいよ!御飯食べたでしょ!一食分の働きくらいしなさいよ!
「じゃあそのフレイヤ様に連絡とってよ!ウチが呼び掛けても全然応えないの!早く!」
「……通じない。恐らくフレイヤ様は外部との連絡手段を断たれた状態にある。何処に居られるのかも不明だ」
「ぬっがぁぁぁぁ!じゃあアレよ!他の神様!誰か助けてくれそうな神様に救援要請!」
「我々はフレイヤ様以外の神々との連絡手段は無い」
「ガッデーム!ああ、もう!こんの役立たず!ただ飯喰らい!」
「「「役立たず……ただ飯喰らい……」」」
どうしよう……他に、他に何か……
「お姉ちゃん……天使さん達、凄く落ち込んでるよ」
「そんな役立たずの鳥モドキは放って置いていいから!ベルもなにか考えて!」
「「「と、鳥モドキ……」」」
ジュン……ジュンは今何処に、何処で何して……そうだ!
「ベル!ジュンの事は何かわからないの?ベルなら――」
「ごめんね、お姉ちゃん……何も視てないの……」
……くぅっ。他に、他に何か……
「……ツヴァイドルフ帝国皇帝に、連絡をとれ……協力を要請しろ、急げ」
「陛下!まだ動いてはなりません!」
ママ……?ツヴァイドルフ帝国皇帝に協力を要請って……そうか、アレね!
エロース様と会話が出来るアーティファクト!
「我は大丈夫だ。それより急げ。間に合うとも思えないが、何もしないわけにもいかん」
「で、ですが……ツヴァイドルフ帝国に使者を送っても帝都に着くのは……どんなに急いでも一週間後です。とても間に合うとは……」
「頭を使え、レーンベルク団長。エロース教のジーニ司祭にも協力を要請しろ」
「あっ……は、はい!」
あ、そっか!エロース教教会に置かれてる各教会との連絡手段!手紙くらいなら一瞬で転送出来るアーティファクト!アレなら直ぐに連絡がとれる!
「さっすがママ!頼りになるぅ!」
「……だが、それでも間に合うかどうか。仮に間に合っても神を相手に戦いを挑んで勝てるのか……それも何の準備も出来てない状態で。アイ、それでも行くのか」
「当然!ジュンはウチが護る!神が相手でも!神が相手だからってビビってちゃあウチが廃る!」
ドライデンでもウチは大して活躍出来なかったし!多分コレがウチがジュンの正妻だと周りに示す最後のチャンスだと思うし!
「だからママ!一秒でも早くエロース様に連絡を!ううん、ウチも帝国に行って――ママ?」
「……強くなったな、アイ。いや、思えば最初からお前は強かった。誰に習うでもなく類まれな武の才を示し、芸術面でも才を魅せた。お前が女王になると言えば誰もが認めたろう」
「……ママ?」
急になに……まるで今生の別れみたいに。
「だがお前はノワール侯爵家に降嫁し、王位継承権を放棄する道を選んだ。ジークを王にしたいと思う我も、それを後押しした。だが、決してお前を愛してなかったわけではない。わかって欲しい」
「……どうしたの、ママ」
さっきから、ずっとウチの顔を撫でて、見つめて……これじゃ本当に死ぬみたいじゃない。
「アイには……いや、ベルにも。あまり母親らしい事は出来ていなかったな。特にベルは……今だから言うが理解出来ない事ばかり言う、少し頭のおかしな子だと思って、遠ざけてしまっていたのだ。すまなかった」
「お母さん……」
ベルにまで……ママ、何をするつもりなの?
「ママ、さっきからおかしいよ。何をするつもり――それは?」
「これはアインハルト王家に伝わる秘宝、アーティファクトだ。代々、王のみが持つ事を許され、口伝でのみ伝わって来た」
ママが取り出したのは指輪。鎖でネックレスのように首にぶら下げていた。
これがアーティファクト?
「これは王家の血を引く者にしか使えない。そしてその能力は……対価を捧げる事で願いを叶える、だ」
「対価……その対価って」
「寿命……命だ。願いの大きさによって要求される対価が大きくなる。それも恐ろしく比率が悪い。昔、瀕死の我が子を救う為に使った王は……死んだ。しかし子は助かりはしたがその後暫くは寝たきりのままだった」
「ちょっと待って。まさかママ……」
それを使うつもり?今、ここで。
「なあに。アイ、お前一人をノワール侯爵の元へ送るくらいは出来るだろう。もしかしたら我も死なずに済むかもしれん」
「ママ!」
「ガウルとも話したかったが……此処に居なくて助かった。ガウルに泣かれたら決意が鈍っただろうから」
「ママ!考え直して!」
「死ぬなよ、アイ。我の娘なら愛する男を必ず救い出してみせろ。必ずな」
「ママ!止め――」
『あ~……悲壮な覚悟でドラマティックな展開に酔ってるとこ悪いんだけどさぁ。僕の話を聞いてもらっていい?』
「「……ん?」」
この聞き覚えのある声……もしかして、もしかする?
『やぁやぁ。僕はエロース。忙しくしてるとこ悪いけど、ジュンの為、引いては世界の為に。僕の話を聞いて、協力して欲しいんだけど』
「え。え?この不思議な声がエロース様?私にも神の声を聞くギフトが?」
「私にも聞こえる……ポラセク団長もか」
「いや、私には何も聞こえないが……アウレリアは聞こえるのか」
「うん、聞こえる」
ウチとママだけじゃなく他にも聞こえてるみたい。聞こえてない人もいるみたいだけど……ギフトに関係無く聞こえてる?
『ギフト持ちじゃなくても聞こえてる人聞こえない人が居るのは気にしないで話すね。説明する時間が惜しいし。いつもより大声出してるから程度に思っといて。で、用件だけど。おバカな神様を涙目にして来てくんない?』
……軽いなぁ。
さっきまでのウチとママとの重~い親子の会話との落差よ……




