第375話 追い詰められました
「おい!おい!聞こえんのか!アルテミス!イシュタル!ルキナ!こんな時の為に待機してた筈じゃろう!返事をせん――うひゃっほう?!」
「無駄だぁ!無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!どう足掻いてもテメェらは詰み!援軍なんて来ねぇんだよぉ!お前ら!死なない程度にフレイヤを痛めつけてやれぇ!」
フレイヤ様にヘラの眷族、天使達が一斉に襲い掛かる。剣、槍、弓、斧等の様々な武器を持ち、物理的な手段は勿論として。炎や雷、氷に風、土に水等の魔法……のような力も用いている。
武器もタダの武器ではなく、それぞれに特殊能力が付いてるようだ。一度振っただけで三方向からの斬撃を繰り出せる剣だったり、伸びる槍だったり。
それらはまぁ、あれも神器の一種なんだろうと推測出来るが炎や雷なんかの一見して魔法に見える能力。アレには魔力を感じられない。
代わりに何か別の力を使ってるように思えるが――
「さぁてぇ……御祈りは済ませたかぁ?ああ、祈っても神が相手だから意味がねぇなぁ。じゃあ……地面に這いつくばってガタガタ震えながら命乞いする心の準備はぁ?まぁ、命乞いなんて聞く気はねぇけどなぁ。じゃ、まぁ……せめてお漏らしだけはすんじゃねぇぞぉ!アーハッハッハッ!」
――来るか!メーティス!
『了解や!わいは魔法とドローンのコントロールに集中するで!』
おう!フレイヤ様の援護も任せた!
「さぁ、とっとと死ねや……って、うはひゃあ!てめ、汚ねぇぞ!ほひゃふっ!聞けよ、ごらぁ!」
「エーナニーキコエナーイ」
誰が防ぐ手段の無い斬れ過ぎる剣を持ったヤツに接近戦なんて挑むか。遠距離戦挑むに決まってんじゃん。
「てっめ!それでも男か!正々堂々とあたしに殺されろやぁ!」
「正々堂々とやってんじゃん。この程度で狼狽えるならとっとと諦めてくれませんかねぇ」
とは言え、だ。魔法もビームも、全て躱すか防がれている。戦闘向きの神ではないという話だが、あの動きはとてもそうは――いや、あれもアイシスの身体を使ってるからこそなのか。
カラドボルグでビームを斬ってるし、魔法は同じく魔法で迎撃している。しかし、戦う事に慣れていないのだろう。魔法の扱いに関しては俺の方が上だし、此処から反撃に転じる様子が無い。ヘラは防戦一方だ。
『魔法使ってるんはわいやん。それに、手詰まりなんはこっちも同じやで。どないするん』
だな……アイシスは殺せない、というか殺したくはない。だが俺にはアイシスの身体からヘラを追い出す手段が無い。
フレイヤ様に何とかして欲しい処だが……そのフレイヤ様は無事――なんだ、アレ。
「な、舐めるでないわ!わしとて上級神!いくら依代に宿ってるとは言え、ヘラ!貴様の眷族如きにヤられるわしではないわ!見よ!偉大なるわしの力!」
アッ、という間に森が出来た。となりのアレも真っ青な成長スピードで巨木が列をなし、花々が大地を彩り……いつぞやのアイが使った能力、アレの上位互換か。
「ワハハハ!見たか!自然に優しいわしの力!無論、ただ樹々を生やしただけじゃな、どわっひぃ!」
「アーハハハ!ばぁ~かぁ!自分で死角を増やしてんじゃねぇかぁ!なぁ~にが自然に優しい力だぁ!勝手にあたしの世界に侵略的外来植物生やしてんじゃ、って、うひひぃ!てっめ、余所見してる時に撃ってくんじゃねぇよ!」
ダメだ。フレイヤ様も戦い慣れしてない。森の植物という無数に等しい手数の攻撃手段を出したのは良いが、それによるデメリットとかを把握してない。死角からの攻撃にビビりまくっとる。
「テメぇもいつまで遠くから好き勝手してやがる!コッチに来やが――」
「嫌だね!」
「――チッ!」
今、魔王の力で俺を近くに来させようとしたな。頭の中だけで思い描いて実行する……なんて事は出来ないらしい。
言葉にしてイメージを明確にする必要があるのか。慣れない戦いをしながらでは尚更なんだろう。
しかし、相手は腐っても神だ。時間をかければ戦いにも能力にも慣れて来る。
思った事を現実にするなんて汎用性の高い能力、俺が思いもよらない使い方をしてくる可能性だってある。
他の魔王の力だって使われたら厄介だ。強欲と憤怒の魔王の力はヘラと相性が良さそうだし。
対してこっちは現状は完全に手詰まり。
フレイヤ様は森の中央に向かって行ったし、完全に分断されてしまった。ヘラを引き離して天使達を倒しに行きたいが――
「テメェ!何余所見してんだぁ!フレイヤを救けに行こうって思ってんなら無駄だぁ!」
「これは……」
結界……の、ようなナニかで囲まれた。これも魔王の力か。
「これでテメェは死んだって此処から出られねぇ!空間転移も出来ねぇ!破壊する事もなぁ!テメェに出来るのはとっとと諦めて楽になる事だけだぁ!」
早速、厄介なモノを……しかも範囲が狭い。俺とヘラを対角線上に置いてギリギリの範囲を円で囲うような形で囲まれてしまった。
直系20mあるかないかくらいか?高さは5mくらい……動きながらの射撃戦が前提なのに、この範囲は狭すぎる。
それにドローンだ。数機が結界の外にある……いや、アレは一度収納すれば再度出せるか。デウス・エクス・マキナの空間収納までは阻害出来ないだろう。現に後ろ手にナイフを取り出してみたが問題無く出せる。
なら、方針としては……フレイヤ様を援護しつつ時間を稼ぎ、天使達を倒してフレイヤ様に何とかしてもらうか。もしくはヘラを殺さず無力化するか。
俺Tueeee的には勿論、後者……いや、両方成し遂げてこそ俺Tueeeeか!
『両方って……フレイヤ様の援護してるんわいやん。それにフレイヤ様、かなり苦戦しとるで。天使達を倒すんは無理ちゃうか。未だ一人も倒しとらんし』
……まぁ、そんな事だろうと思ってた。ドローンでの援護はどうした。
『やっとるけどもや。どうもフレイヤ様には……いや、フレイヤ様の森は天使とドローンの区別がついてへんみたいや。ドローンにも攻撃してきよる。思うように援護出来てへんのや』
やっぱりポンコツ女神……敵味方の識別くらいちゃんとしろってんだ。
なんとか俺がヘラを倒すしかないか……
「まぁだ諦めてねぇなぁ……フレイヤが救けに来てくれるのを期待してるってとこかぁ。だけどなぁ……これを見ても諦めずにいられるかぁ?」
「今度は何を……マジか」
「「「ハーハッハッハッァ!ようやく諦めたかぁ?なら大人しく死ねやぁ!」」」
三人に増えやがった……ありがちと言えばありがち、単純と言えば単純だが……それだけに厄介極まりない。
切札……使うしかない、か。
いつも本作を読んでくださりありがとうございます。
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