第362話 平和ではありませんでした
「……平和だねぇ」
平和だと俺Tueeeeのチャンスが少ないのがマイナス点ではあるけれど。ここんとこ殺伐とした時間もあったしバタバタしてたし。
平和の有難さをしみじみと身に沁みて感じてる。
「ズズッ……ハァ……紅茶も美味いねぇ」
『マスター、平和ボケするんは早すぎるやろ。いや現実逃避なんやろうけども。そろそろ観念して現実を直視しぃや』
……したくないなぁ。
『そもそもや。これって平和なん?客観的に見て修羅場にしか見えへんねんけど』
……そうとも言うかもしれんなぁ。
「だぁかぁらぁ!ジュンを護る会初期メンバーの我々に優先権がある!お前らは後も後!後まわし!2、3年くらい待て!」
「お、横暴です!一番は正妻のアイシャ殿下なのは認めざるを得ませんが側室は皆平等であるべきです!」
「早くからジュン君を支え続けた実績を無い物とするのは、それこそ平等では無いと思うわ!」
「ジュンを護る会メンバーが優先なのはいいけどよ!その中でも貴族優先になってんのはおかしいからな!」
ああ……何度も繰り返してるんだよなぁ、この会話。
これ、いつまでも決まらないんじゃないかなぁ……そんなに重要かね、結婚する順番。
『そらぁ重要やろ。後回しになればなるほど、マスターとアンアンするのが遅うなるんやから。ただでさえ人数が膨れ上がっとるんやから。最後なんて一体いつになるか。数年は確実に待つ事になるやろ。アイにユウのように十代前半なら兎も角、二十代半ばのソフィアとか三十代のアニエスなんかは焦るわな。更に此処にはツヴァイドルフ皇家やエロース教なんかの代表は居らんわけで』
……混ざったところで混沌さが増すだけだな。
なんとな~くわかるだろうが皆は俺と結婚する順番、もしくは子作りする順番について議論を重ねてるわけで。
ドライデンから帰る途中の道すがら議論を始め。何にも決まらないまま王都ノイスまで戻り。
凱旋パレードがあったり陛下に報告して褒められたり怒られたり。
あれやこれやとこなしつつ議論を重ねてもう一週間。堂々巡り、メビウスの輪から抜け出せない。
「大体だなぁ!」
「大体ですね!」
「「「「「ギャイギャイ!」」」」」
「「「「「ギャイギャイ!」」」」」
……この調子だと今日も決まらないな。
俺はもう覚悟を決めてるからいつだっていいんだが。
もう一週間、この調子だ。
ドライデンに関する事はアッサリ決まったというのに。
いや、正確には未だ話し合いの最中だろうけど。
王を失ったドライデンは俺が王となり統治する事を拒否。今回被害を被った隣接する国々で分割、国土に取り入れる方針に決まった。
今頃は各国の代表——アインハルト王国からはブルーリンク辺境伯が代表となり合議されてるはず。
「私がいない間に決めるなよ!絶対だぞ!直ぐにまとめて帰って来るからな!」
と、ブルーリンク辺境伯は言っていたが……心配無さそうですよ。貴女が加わっても決まらないでしょうけど。
『ブルーリンク辺境伯も絡まれとるやろうしなぁ。マスターに会わせて、渡りをつけてくれって。話し合い終わらんのとちゃう?』
俺の視線の先には手紙の山……手紙の山脈がある。
とても読む気になれない手紙の内容……正気を疑う文言や写真を同封した物もあったが用件はどれも同じ。婚約、結婚の打診。国内外、貴族、平民、関係なく。
毎日山のように届く。最初こそ読んでいたが初日でギブアップ。
返事も家臣に丸投げ……人でなしとか思われるかもしれないがあんな数の手紙に返信なんて書いてられるか。
手紙の返信の為だけに新たに人を雇ったくらいだぞ。十人も。
エスカロンは本当にあの日の戦いを各地で放送、宣伝していたらしい。御蔭で手紙は来るし来客も来るし。屋敷回りは毎日人が集まってるし。俺、ここ暫く外出出来ないくらいに。
で、エスカロンの仲間は本当に俺に王となるよう言って来るし。
先に言ったように拒否したわけだが……でも王都ガリアと周辺の街と村はノワール侯爵家の飛び地、領地になった。
その飛び地の管理をエスカロンの仲間が……俺の家臣となって行う事に。
将来は俺の子が適当な爵位を貰って独立。領主になる予定……らしい。
俺の知らない間にトントン拍子に決まってた。良いんだけどね、別に。
俺と結婚する順番については決まらないのに、それ以外は直ぐに決まる……逆じゃね? 政治についてもっと悩もうよ。
『重要なんやろ、ドライデンの事なんかより。マスターとの結婚が。わかっとるくせに』
……ま、ドライデン関連でのアレヤコレヤ、大小含めてまだあるが……魔王はこの世界から居なくなった。
世界は救われたのである……俺の安寧は遥か彼方だが。
「「「「「ギャイギャイ!」」」」」
「「「「「ギャイギャイ!」」」」」
……まだやってる。結婚ねぇ……人生の一大イベントだから白熱するのはわかるけどさぁ。
『結婚の順番イコール初夜の順番やしな。初夜が楽しみで仕方ないんやろ』
……結婚式に想いを馳せてるわけでなく?
『わけでなく。むしろ式なんて面倒、やらなくて良いならやりたくないって考えが一般的やで。この世界の女は。金もかかるし。ましてマスターは侯爵、質素な式には出来へんからなぁ。クリスチーナは金持ちやから大丈夫やけど。他の平民組はどないするつもりなんやろな』
え。やらなくて良いなら俺もやりたくないんだけど。
つか出来んだろ。千人以上の妻と結婚式なんて。何人か合同でやるにしても結婚式の予定だけで何年か埋まるわ。
『なら、それを言うたったら?結婚式やらんて済むなら期間短縮になるんは間違い無いし』
そうしよう。それで少しでも会議が捗れば良いんだが。
「あの〜発言いいスか」
「だからだな……ジュン?何か言いたい事でもあるのか」
「言ってやれ!あたいらと最初に結婚したいって言ってやれ!」
「わ、私とだよな!私が先だよな!幼馴染みの私だよな!」
「ノワール侯……」
「ジュン君……」
……そんな縋るような眼で見られても。いや、不安なのか。
「えっと、俺、結婚式無しでOKです」
「「「「「え」」」」」
「結婚式無しで大丈夫。どうしても結婚式を開きたい人とだけで、はい」
「「「「「えええええ!」」」」」
信じられない、と顔で訴えて来るなぁ。
どうやら本当にこの世界の女性は結婚式に憧れは無いらしい。
「な、何故だ?結婚式だぞ。男なら憧れを持って……ああ~!女として育てられた弊害がまだ残ってたか!」
「いや、そう言うんじゃなく」
「良いかジュン!男なら普通はな——」
それから全員に世の男の結婚式の考えについて聞かされたが考えは変えず。
王族のアイとの結婚式だけは開く事で決まった。
「ほ、本当に良いのか?」
「私達としては正直助かるけれど……」
「良いんです」
しかし、こんな事も逆転してたか。前世の記憶が有るアイとユウはやりたがるだろうけど。
「そ、そうか……なら、この話し合いも少しは……ん」
「失礼します!城より使者が参りました!緊急だそうです!」
フランが慌てた様子で入って来た。
はて……何か事件でもあったのだろうか。




