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第360話 本当の願いでした

誤字脱字報告ありがとうございます。

とても助かってます。

『ゴォ……ジュ……サ、マ……』


 崩れていく。


 トールハンマーを受け、空から大地へ、ゆっくりと。


 ボロボロと崩れ、塵となり消え。落ちて行く。


 それでも魔神は崩れる手を俺に伸ばし。


 地面に着いた時には魔神の身体はほぼ残されていなかった。


 残っていたのは頭のみ。巨体故にそれでも人間よりもかなり大きいのだが。


『……終わったようじゃの、御同輩』


『やったじゃん!これで皆……どうしたの?』


「……まだ終わりじゃないみたいだ』


 視界の端に見えた王都ガリアを包む結界。魔神を倒したというのにまだ消えていない。


 そしてこれまでの事から推測するに……


『マスターの推察通りや。真ん中辺りに居るみたいやで』


 魔神の身体はもうほぼ崩れた。例によって塵の山が残っていて、その山を払いのけると……居た。


「ジュン、もしかして……あ」


「……ジュン、様。お見事です……」


 正気に戻ったエスカロンだ。


 四肢は既に無く、上半身のみになったエスカロン。その残った身体も、やはり崩れていく。


 ……マイケルと同じく、死は避けられそうにない。


「よく、覚えてませんが……世界の危機を救ったジュン様は……英雄となりました……ジュン様が王になった姿を見る事が出来ないのが残念でなりませんね……」


「……貴方は本当に俺を王にするためにこんな事を?本当にそれが目的なら、もっとやりようがあったでしょう」


 英雄になったからと言って俺が王になるなんて事はない。少なくとも俺にその気がないし、王の器でもない。


 もっと言えば英雄なら王になれると決まってるわけでもない。


「ジュン様の戦いは……魔法道具で見れるよう、各地に設置してあります……ドライデンのみならず、周辺国の街でも。流石に全世界各地で、とはいきませんでしたが。今頃ジュン様を讃える声が各地で挙がっている事でしょう」


 なん……だと……世界同時中継してたって言うのか、会場だけじゃなくて。


「これにより……ジュン様は大勢の女に英雄と、して認知されました。先に言ったように、ドライデンの全権はジュン様に委ね、られますし……少なくともジュン様がドライデンの王になるのに障害は何も無い……はずです」


「……俺にその気がないって言う最大の障害がありますね」


「フフ……そう、ですね……ジュン様が王になり実務は私がやる、からと説得するつもりだったのですが……もはやそれも……無理なようですし、ね……」


 そうまでして俺を王にしたいか。一体どんな理由があってそこまで執着するのか。


「しかし、です……ジュン様を王に、と望む声は広がるでしょう。例え、王にならずとも……平民、貴族、王族問わず……ジュン様を、夫にと望む。そうなれば……実質、支配したも同然です。何せ、女の方が圧倒的に多い世界ですから……」


 ……世の権力者達を妻にすれば実質俺が世界の支配者だって?以前に似たような話題が出たが……やらねえよ。


 何て世界征服だよ、それ。


「そこまで俺に拘った理由は何です?男が王になるべきという考えなら貴方がやればいいじゃないですか」


「フフ……側近に、も同じ事を、言われましたが……私で、はダメなのですよ……私、は女が嫌い、ですし……ジュン様に、拘っ、たのは貴方が王に相応、しいと確信したか、らです……十年前、王都ノイス、の孤児院で、貴方を見て……ある意味、一目惚れ、と言える、かもしれま、せんね……」


 十年前?そんなに前から俺を知っていたと?


「あの日から……私は……ジュン様が、王になる、と……実際に、貴方は……貴族になり……英雄と、なった……ただ美しい、だけの……孤児院の子供、ではなかった……エロースの使徒……だとは、想像も、してま、せんでしたが……これ、で……世、界が……変わって……」


「……貴方が嫌いなのは本当は女じゃなく、世界だったのでは?そうでもなければこんな……世界を巻き込んだ計画、実行できないでしょう」


「……そう、かも、しれませ、んね……少なく、とも……母の事は……愛し、て……いまし、たから……わた、しは……家、族を……引き裂、いた……女と……世界が……」


 エスカロンの胴体はもう消えた。残るは首と頭だけ……もう残り時間は僅か、か。


「……貴方が世界を変えたいと望んだのはわかりました。でも、その為に貴方が執った手段は……間違えている。多くの人を巻き込み、自国の民を化け物に変え、大勢の人の命を危険に晒す。そしてその結果がこれだ。しかも全ての計画が成功していようが世界を変えるのは他人任せ。魔王になったのは計画外だったとしても……もっとやりようがあったでしょう。貴方のやり方は……馬鹿げている」


「フフ……そう、です……ね……それが、私の……限界……ジュン、様なら……もっと……うま、く……」


「やりませんよ……俺は王位なんて望んでませんし。仮に世界中の権力者を妻にしたとしても、それで世界を支配したなんて思いませんから」


「フフ……最、後……まで……つれない……ですね……」


 崩壊が顎に差し掛かった。次の言葉で最後になる、な……


「……誰かに何か、伝えたい事はありませんか」


「あり……ませ、ん……ああ……でも……父を、見つ、け……たかっ……た……もう……一、度……会い……たかっ……た……とう、さ……」


 父に会いたい。そう言い残してエスカロンは消えた。


 もしかしたら、それこそがエスカロンの本当の願いだったんじゃないだろうか。世界から女が激減すれば、父を見つけやすくなる、もしかしたら自力で帰って来れるかもしれない、と。


 そうであって欲しい。俺を王にするという願いよりは理解出来る願いだから。


「……父親、探してみますよ。世界に喧嘩を売った魔王でも、墓くらい作らせてくれるでしょうから」


「ジュン……」


 その墓に父親が墓参りするくらい構わないだろう?もし誰かの許しが必要だと言うのなら、俺が。


 その為なら英雄の肩書きを……使ってもいいかな。

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